表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
6/160

第六話

「……きて」


 誰かが声をかけている。


「……起きて」


 せっかく寝ているというのに拓海は誰かに起こされているようだ。なんだか悪い夢を見ていた。体もだるい。さっさと起きて風呂でも浴びようと、拓海は目を開けた。

 目を覚ますと目の前にはいつも見慣れた自室の天井。すぐ横には彼の母親が椅子に座っていた。


「よかった! 目を覚ましたのね」

「俺、生きてる……」

「もう目を覚まさないかと思っちゃった」

「俺どうしたの?」

「なかなか帰ってこないから探したのよ。そしたら拓海くんったら近所の山で倒れてたの。びっくりしたわぁ」


 拓海はベッドから起き上がり腕の傷を見る。


「あれ?」


 腕に異常はなかった。傷跡すらない。綺麗な肌のままだ。


「お母さん、俺ケガしてなかった?」


 拓海の部屋から出ていこうとする母親を引き留め質問する。


「んーん。ケガなんてしてなかったわよぉ。服は泥だらけだったから捨てちゃったけど、なんで倒れてたのかしら」


 そう言って母親は部屋から出ていこうとする。

 拓海は思った。あれは夢だったのではないかと。人殺しに襲われるなんて現実的ではない。それに加え死体が蘇って助けてくれるなど、もっとありえない。ありえないことはありえない。そんなわけがないのだ。これまでの出来事は全部夢ということで片がつく。


「それじゃあお母さんは『あの子』の看病をしてるわね」

「うん、わかった」


 今、彼の母親はとんでもないことを言ってのけた。拓海が夢で済まそうとしていたことを覆したのだ。

 拓海はそれに気づかず、もう一度ベッドに潜る。部屋の時計を見るとすでに朝になっていた。今日が高校の創立記念日でよかった。休日を満喫するため、二度寝をすることにする。


 そして……。


「あの子……?」


 拓海はようやく違和感に気が付いたのだった。


 

 拓海は無駄に緩やかな階段を駆け下り、一階のリビングへと向かった。拓海の母親はいつもここにいる。『あの子』とは一体誰のことか、それをどうしても確認したかった。


「お母さん! 今誰かいるの?」


 ノックもせずにリビングのドアを開ける。自宅なのだからノックはしない。当たり前だ。だが今回ばかりはノックをしておくべきだった。


「……あ?」


 まず反応したのはあの女。死体から蘇った非現実がこちらを見ている。


「……あら?」


 次にリビングに入ってきた拓海を母親が見つめる。


「……あ」


 最後に拓海がやってしまったと顔を引きつらせながら立ちすくむ。

 彼の母親は人造人間の体をタオルで拭いていた。もちろん服を着たまま体を拭くことはできず、女は上半身が裸であった。丁度背中を拭いていたところで、リビングの入り口へ顔を向けて座っている。


「てめぇ……」


 人造人間の女は顔を赤らめながら歯をむき出しにし、眉間に皺を寄せて近くにあったクッションを掴んだ。


「ご、ごめん! ごめんなさい!」


 クッションが飛んでくる前に拓海は大声で謝りながらリビングのドアを閉めた。






 拓海がバタバタと音を立てて階段を昇っていく音がリビングにまで聞こえた。


「なんだあいつ」


 人造人間の女は握りしめたクッションをソファへ放り投げ、拓海の母親の世話を受け続けていた。


「あの子は私の息子よ」

「息子か……。なんだか弱そうだな」

「もちろん。あの子は普通の人間だもの」


 女は拓海の母親の言い回しが引っかかった。普通の人間なんて言い方はあまり聞かない表現だ。


「なぁ、あんた、何者なんだ?」

「何者って、おかしな子。それはこっちのセリフよ」


 言いながら、体を拭き終わり、女にシャツを着せる。


「あたしは……」


 女はシャツを着ると目を瞑って記憶を思い起こす。自分は誰なのか。ここはどこで、なにが今起きているのか。


「……クソ、思い出せねぇ」


 これ以上考えていても女は頭に何も思い浮かぶことはなかった。むしろ心が揺さぶられ、動悸が激しくなってくる。パニックになりそうだった。


「ネネ」


 何を言うべきか女は考えていると、不意に拓海の母親が口を開いた。


「この名前を聞いても何も思い出せない?」

「あんた……あたしを知ってるのか?」

「それはどうかしら。知っているかと言われればほとんど知らないと思う。ただ、あなたの名前はネネ。私はそれくらいしか知らない」


 女の着替えたシャツを手に持ち、拓海の母親は洗濯機のある浴室へ向かうためリビングを出ていく。


「……ネネ」


 この場に残された人造人間の女、『ネネ』は自身の口元を手で押さえ、考え込んだ。自分に何が起きていて、今まで何があったのか。ヒントになる手がかりは彼の母親にしかない。


少女の名前は、ネネ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ