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第五十九話

「ネネ!」


 ハナは慌ててネネの元へ向かうも彼女は波に流され跡形もなくなっていた。どこに流されたのか辺りを見回していると車のボンネットの上で気を失っている拓海を発見した。


「ああもう!」


 そのままにしておくわけにはいかず、ハナはランダムに動く水の中を進む。なんとか拓海のもとまでたどり着いたのはいいものの、未だ状況は不利なままだ。

 ハナは決断を迫られていた。圧倒的な敗北を受け入れてせめてこの無力な子供だけでも回収して逃げるか、それともリスクを承知で戦いを挑むべきか。

 男を睨みつける。


「あら、ポケットにこんなものが」


 男はポケットからなにかを取り出した。距離は離れているがハナにはそれがパチンコ玉だとすぐにわかった。ハナに見えるよう、わざとらしくそれを上空に放り投げキャッチしている。


「攻撃するならこれが一番」


 男が不吉なことを口にし、手の中にあった三つのパチンコ玉をハナに向けて放り投げた。


「よけてみろよ!」


 放り投げたはずのパチンコ玉は、急に速度を上げて銃弾のように飛んできた。ハナはその前に拓海のいる車から距離を取っており、避ける準備はできていた。


「なっ!」


 だがあの男も人造人間だった。ハナが横に飛んで避けようとしたとき、パチンコ玉の軌道が歪んだ。ほんの少しだけ動いたのだ。風に影響されるような速度ではない。確実に男の手によってパチンコ玉はハナを狙いに来ている。


 もう避けられない。そんな距離まで迫り、ついにはハナの胸にパチンコ玉が命中した。

 ガギギン、と金属同士がぶつかる嫌な音が男の耳に入る。


「……あ?」


 それは男にとって違和感であった。いつものような人に命中したときの肉が弾ける音とはまるで違う。


「あんたねぇ、いい加減にしてよ」


 そう言うハナは握りしめていた手を開く。だいぶ水位の下がった足元にパチンコ玉がすべて落ちる。


「そろそろやられっぱなしってのもムカついてきたわ。周りのことなんてちょっと忘れてやろうかしら」


 ハナは自前の能力を使い、両手を機械化していた。銃弾程度なら簡単に防げる金属をまとい、パチンコ玉を受け止めたのだ。

 ハナの能力は『機械化する能力』。体の細胞を無機質の独自素材へと変異させることができる。意図したところから機械化し、ハナの望んだ性能へと作り変える。全身の機械化には時間がかかるが、両手くらいなら瞬時に変換できる。


「あんたも人造人間だったのか」

「そうよ。たぶんあなたよりよっぽど年上でずっと強いからね」


 ハナの手だけでなく、徐々に腕も機械化していく。あっという間に両腕が金属質へと変化した。


「こいつは、手ごわそうだ」


 男は余裕なさげに笑う。

 ハナはこれからあのチャラ男に痛い一撃を与える。周囲に誰がいようとかまわず殴るつもりだ。一般人に目撃されても構わない。どうせイガラシクの力を使ってその情報はなかったことにできる。

 だから今は、やられっぱなしではなく反撃がしたい。男が泣いて謝るまで殴ってやりたい。ハナの我慢は限界を超えた。


「覚悟しなさい!」


 男を殴ろうとハナが一歩踏み出した。


 その時、男のそばのマンホールから水柱が上がった。思わずハナは足を止める。


「待たせた、行こう」


 水柱が消えると男の隣に海起が現れた。少しの間姿が見えないと思っていたが、どこかへ行っていたようだ。そんな彼女はネネを抱えていた。


「ネネ!」


 ハナが声をかけるもネネは目をつぶったままぐったりとして返事をしない。どうやら完全に気を失っているようだ。


「おう、さっさと退散だ。あの姉ちゃんかなりヤバそうだしな」


 男はそう言うと、ハナにキザったらしくウインクをしてからマンホールの中に飛び込んだ。続いて海起も飛び込む。


「クソクソクソ、ネネを返せ!」


 人間離れした動きで二人が消えたマンホールまで向かい、中を覗き込む。


「今行くから!」


 後を追うべくハナも中に入ろうとする。


「ハナ待て!」


 しかしそれはイーズの声によって止められてしまう。怒りで我を忘れて怒鳴るハナはイーズを睨みつける。


「なによ! 今すぐ追わないと……」


 イーズが止めた理由がすぐに理解できた。周囲にはすでに人だかりはでき、異変に気がついた通行人たちによってハナ達は注目の的となってしまっていた。続々とパチンコ屋からも人が出てくる。


「あー俺の車が!」

「なんでこんなことになってんだ!」

「下水管の破裂か?」


 皆が口々になにかを言っている。まだハナ達の起こした惨事だとはバレていない。いつの間にかイーズは人込みの中に消え、姿が見えなくなっていた。ボンネットの上にいたはずの拓海もいない。ハナの位置からは見えないがナナはどうなったのだろうか。とにかく今はこの場から去り、面倒くさい事態になることを避けなければならない。


「あいつら、マジで覚えてなさいよ」


 ハナは悪態をつくと、車が流された被害者のふりをしながら人込みの中へと消えていった。




 この襲撃でハナはプライドを傷つけられた。

 ナナと拓海も身体的にケガを負った。

 イーズとハナの計画は総崩れ。

 そしてなにより、ネネが連れ去られてしまった。


She's gone.

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