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第五十八話

「なんだ、あの車!」


 男が驚き、追いかけようとした足を止める。この間にハナ達は駐車場から離れ、近くの住宅街へ逃げようとした。


「海起! やれ!」


 海起みき、男にそう呼ばれた女が両手を空高く上げる。海起の動きに反応して駐車場のマンホールというマンホールがガタガタと動き始め、下水が噴き出す。それはハナ達の周囲も同じで、駐車場はすぐに水浸しになった。それだけでなく、海起が操る水が物理法則を捻じ曲げてハナ達の周りだけに集まり、彼女たちはあっという間に水に囲まれた。


「ランヂの仇よ」


 海起は両手を振り下ろす。するとハナ達の周囲の水が一斉に彼女たちを襲い始める。前後左右から襲い来る小さな津波が足元をさらう。バランスを崩したナナが波に飲まれ、イーズの車に激突する。


「裏切者は死ね」


 海起がナナを狙い始めた。後頭部をドアに打ち付け目が回る彼女に向けて大量の水が襲い掛かる。毎秒何百リットルもの水が小さな彼女の体にぶつかり、皮膚をえぐっていく。


「ごぼっ、がっ、ぶぶっ」


 水の力は恐ろしいもので、すぐにナナの顔の皮がはがれて、それは見るも無残な姿に変えてしまった。


「ナナ!」


 心配してハナがそちらを見る。だがナナは車ごと流され、近くの民家に衝突した。生きているのかここからでは判別できない。


「おいおいやりすぎんなよ。俺グロいの苦手なんだよ。さっさとネネ拉致って帰ろうぜ」

「わかった」


 ナナを始末した海起は今度こそネネを狙い始める。


「やべぇ!」


 一人狙いされたことを察したネネはひざ下まである水を進み、できるだけハナ達から離れようとする。全員まとめて流されるわけにはいかない。少なくとも拓海にあんな攻撃が耐えられるとは思えなかった。


「ネネ!」


 しかし一人離れていくネネを心配したのか拓海がついてきた。


「バカ野郎! 来んじゃねぇ!」


 ネネが怒鳴るもすでに遅く、拓海はネネと海起の間に入り込んでしまった。海起が手元で作り出した小型の津波が襲ってくる。それはネネを狙ったものなのだろうが、まず拓海が巻き込まれる。ただの人間に、人造人間でさえ皮膚がはがれるほどの水圧を受ければ確実に死ぬ。

 ネネは死に物狂いで拓海の元へ駆け寄った。拓海も手を伸ばし、ネネの手を取ろうとする。


「拓海ィ!」


 ネネの伸ばした手は拓海の手を掴んだ。しかしすでに時遅く、海起の津波が二人を巻き込んだ。


「ネネぇ!」


 なんとか踏ん張っていたハナが声を張り上げる。自分のことで必死になっていた彼女は二人が津波に巻き込まれたことに今気がついたのだ。

 今から向かおうとしても遅すぎる。二人とも波に飲まれ流されていく。その先にあるのは駐車場の隅にある電柱だ。海起はわざとその電柱に激突するように水を操作している。


(クソクソクソクソ!)


 流されながらも自分たちの行きつく先が見え、心の中で悪態をつくネネ。このままでは二人そろって電柱にぶつかり、頭の中身を洗い流すことになる。


(あたしは、どうすりゃいい!)


 必死に考えを巡らせるネネだが、どうすればいいのか全く思いつかない。この場から脱出できる方法。あと数秒でそれを思いつき、実行しなければ待っているのは死だ。

 ふと、拓海がネネの体を強く抱きしめてきた。彼もこの後どうなるのか分かったのかもしれない。そのうえで、自分が盾になろうとできるだけ自分の面積を増やそうとしているのだ。


(拓海……)


 考えるまでもなかった。拓海は人間だ。記憶のない不良女よりもよっぽどマシな人間だ。ネネの犠牲になる必要など一切ない。だからネネは……。


(……拓海!)


 ネネは拓海を押しのけ、彼の腕を掴んで思い切り放り投げた。津波の外に出るだけでいい。電柱に当たらなければ無事とはいえなくとも死ななくて済む。


(なにしてんだよネネ!)


「うおおおおおあああああああ」


 吐き出した息など知らない。これからどれだけ呼吸ができなくとも、拓海を救えるのならネネはいくらでも自分を追い込むつもりだった。そんなネネの力は強く、拓海の体は簡単に飛んで行った。津波から抜け出し、近くに浮かんでいた車のボンネットに叩きつけられる。


(これでいいんだ)


 水中から拓海の安全が確認できると、ネネはそっと目を瞑った。

 次の瞬間、ネネの顔に信じられないほどの衝撃が襲い、電柱に顔をぶつけたのだと理解した。

 そしてネネは意識を手放した。


ネネはこのあとどうなるんですかね。刮目せよってか。

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