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第五十三話

「あいつは死んだよ。あたしがこの目で確認した」


 地面に仰向けに倒れるネネがそう言った。彼女は月夜を眺め、立ち上がるつもりはないようだ。


「そうなのか、よかった」


 安心した拓海はネネの隣で座り込み、同じく夜空を眺めた。今日は半月なうえに大して綺麗とは呼べない月だ。


「拓海、お前に聞きたいことがあるんだが、なんでここに来やがった。危ねぇから倉庫で待ってろって言ったじゃねぇかよ」

「それは、ハナ先輩が来たことを知らせに……」

「あいつを呼んだのはお前か」


 ネネは思い起こす。そういえば倉庫に落ちた時、拓海は手に携帯電話を持っていた。あのときにはすでにハナに連絡していたのだろう。


「おかげで助かったよ。あたし一人だったら今頃ここで中身ぶちまけてただろうな」

「やめなよ、気持ち悪くなってきた」


 ふと拓海はランヂの破片が体に当たる感触を思い出してしまい、吐き気が込み上げてきた。


「うっ」


「おい吐くなら植え込みでやれよ」

「うぐ……」


 拓海は大慌てで植え込みまで走り、胃の中身を吐き出す。これがまともな反応であることは確かなのだが拓海は少しばかり神経質なところがあるのかもしれない。

 嘔吐した拓海はたっぷり時間をかけたのち戻って来た。まだ夕食を食べていないというのに一体どこからそんなに出てくるのかネネは不思議でならない。


「ただいま」

「ったく、お前が中身ぶちまけてどうすんだ」

「俺グロいのダメだぁ」

「うるせぇ泣き言吐くんじゃねぇ。そいつはあたしといる以上避けて通れねぇ道だ。ほら、手ぇ貸してくれ」


 先ほどから一行に起き上がる気配のないネネのことを拓海は気になっていた。月がきれいだからずっと見ていたいなんてネネらしくない。それ以外に理由があるのだと思って拓海はネネの体へ目をやる。


「うわ、腕が!」


 ネネの左腕の肘が関節から反対方向へと折れてしまっていた。ランヂとの最後の落下で折れたのだ。脱臼ではなく、完全に骨が折れている。骨の一部が皮膚を突き破り飛び出しているのがちらりと見えた。

 拓海はそっと目を瞑り、顔を上空へと逸らす。あれだけ吐いたのにまたしても吐き気が彼に襲ってきていた。


「おい、こっち見ろ! いや無理して見なくていいから助けろ! 痛くなってきた、クソ痛ぇ!」

「あ、ああー、うわぁー」


 拓海は目頭を指で押さえ必死に正気を保っていた。彼はただの十五歳の少年だ。こんな残酷な光景を見て泣き出さないだけましなのだ。


「ああクソ、どうすりゃいいんだよ……」


 脂汗を流しながらネネは悪態をつく。腕は折れ、拓海は使い物にならない。残っているのはハナだけだが一向にこちらに合流してくる気配がない。アドレナリンが切れ、どんどん強くなってくる痛みに、ネネのほうが先に泣きそうだった。


「ネネ、お待たせ」


 ハナの声。ネネは声のする方を見るとハナが倉庫にいたはずの女の子と共に歩いてきていた。


「あいつは間違いなく死んだようね。こんなとこで寝てないでさっさとトンズラしましょう」


 動けないネネに対して酷い要求をしてくるハナに、ネネは額に青筋を立てながら笑って見せる。


「なによ、私なにか怒らせた?」


 今にも殺しにかかってきそうなネネの表情にハナは不満そうだ。ネネはそっと折れた左腕を持ち上げて見えるようにする。


「わお、これはごめんなさい……。ああそうか、だから拓海君はそこでうずくまってるのね」


 拓海は花壇の角に頭を向けて座り込んでいた。気分が悪すぎて立っていられない。


「安心して! 私の家に超強力な痛み止めあるから!」


 ハナはいい笑顔で親指を立ててネネに大丈夫アピールするもネネにはどうでもよかった。


「なんでもいいから助けてくれよ……。痛くて気絶しそうだ」


 青い顔をしたネネと同じく青い拓海はもはや一人で歩ける状態ではない。


腕の骨が折れた。

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