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第五十話

「うおおおおっ」


 さすがにこの高さではなにをするにも遅く、体を防御しようと腕を頭に回すこともできずにネネは落下していった。

 緊張の一瞬の末、鋭い衝撃と鈍い痛みがネネの全身を襲った。脳震盪で視界が歪むなか、ここがどこなのか必死に情報を得るべく周囲に気をやる。


「ネネ!」


 拓海の声。それもかなり近い。


「ああ、クソが」


 頭を押さえ、仰向けの姿勢から起き上がる。


「大丈夫か」


 心配そうに拓海がすぐそばまで駆け寄ってきた。


「拓海ィ、あたしは倉庫で待機してろって言っただろうが。危ねぇからよ」

「そう言われても、ここが体育倉庫なんだけど」

「ンだと……」


 拓海に言われて気が付いた。ここは体育倉庫の中だ。トタン製の天井には大きな穴が開き、破片がコンクリートの床に散らばっている。


「あいつ、よくもやりやがったな」


 ふらつく足で立ち上がり、ネネは倉庫の外へと急いで出ていく。


「ネネ!」


 反則技を持つ相手にどうやって一撃をお見舞いしてやるかネネが考えているとふいに背後の拓海が声をかけてきた。振り返ると手には木製バットが握られている。


「これ、役に立つかな」


 ネネはてっきり拓海が逃げるよう促すのかと思っていた。だが違った。相手は人造人間で、こちらが圧倒的に不利だ。逃げられる相手でもない。それを知った拓海はネネに武器を提供したのだった。


「ふっ、サンキュー。これで殺してくるわ」


 頭から血を流しながらバットを受け取り、ネネはそう言ってランヂの元へと立ち向かっていった。

 ランヂは地に足をつけてこちらを見ていた。


「あれで生きていたのか。頑丈だな」

「うるせぇ。次は捕まらねえ」

「どうだろうな。お空を飛べるだけが俺の能力じゃない。次はないからな」


 そう言ってランヂは姿勢を低くする。膝を落とし、こちらを見据えている。まるでクラウチングスタートをするかの如くこれから走る態勢を取っていた。


「行くぞ!」


 言うや否やランヂが加速した。時速300キロで走るリニアモーターカーに追いつくレベルの加速力だ。

 数十メートル離れただけのネネに対応する力はない。このままネネに体当たりをして衝撃でバラバラにする。ランヂはそう思っていた。


「ぐぎっ」


 声を出したのはランヂだった。

 事はランヂの思い通りにうまくいくはずがなく、なんとネネは彼の300キロダッシュを目で捉え、そしてバットで防御したのだ。バットだけでなく膝を使い上半身を完全にカバーする。おまけに激突の瞬間だけ受ける力に真っ向から挑む形でバットを押し込んだ。


「ぐむうおおおお」


 純粋な力の対決で勝ったのはネネだった。予想していなかった防御によってランヂの体は押し倒され、その場に尻もちをつく。


「死ねぇ!」


 ランヂの前に立ち、ネネはバットを振り下ろした。何度も何度も闇雲にたたきつけ、傷つけた。返り血がネネの頬に飛び散り、服を汚す。


「や、やめ」


 一撃を浴びせる度に彼の体から生々しい打撃の跡が増えていく。

 何度殴ったのかお互いわからなくなったころ、突然ネネのバットが折れた。人のような大きな物体を殴る為に作られたわけではないバットは中ほどから折れて、地面に落ちた。

 バットが折れたその隙をついてランヂが空中に逃げ出す。


「ああああクソがよォ!」


 ランヂをいいところまで追いつめていたネネだったが、またしても空に逃げられてしまい怒号を浴びせる。


「はぁ、はぁ、お前は相当切れてるようだな。だがバットはもうない。おまけに……」


 手の届かないところでネネを見下すランヂは口元の血を拭う。一時は必至の形相で抵抗していた彼だが今はもう余裕の表情に戻っている。


「俺の体も自己再生するんだ」


 先ほど与えたダメージがまるで最初からなかったかのようにランヂはピンピンしていた。本人の血は体じゅうに残っているものの、打撲跡はすべて消えてしまっていた。


「バカな。自己再生できんのかよ」


 自己再生ができる人造人間は限られている。ネネのように初期型の人造人間のみに与えられた特殊能力だ。それがランヂもできるとなると彼は初期型の人造人間、つまりネネの兄妹ということになる。


「テメェは誰だ。製造番号を言え」

「俺はランヂ。人造人間タイプ6」

「タイプ……」


 ネネは怪訝そうな顔で上空のランヂを見上げた。以前ネネの仲間は人造人間をナンバーで識別すると言っていた。それがランヂは自身をタイプ6と呼んだ。ナンバー6ではなくタイプ6だと。呼び方なんてどうでもいいことなのかもしれないが、ネネにはそれが引っかかって仕方なかった。


「骨董品のお前らとは違う。俺は最新型なんだ。能力があって、再生もできる。あきらめて死んでくれ」

「待て待て待て、今最新型って言ったな? それについて詳しく教えてもらいてぇな」

「うるさい。どうせ死ぬ奴に教えても無駄だ」

「だったらテメェをぶちのめしてから聞き出してやる」

「やれるもんならやってみろよ。能力を使ってな!」


 ランヂが下降し、地上すれすれの高度で襲い掛かってきた。まっすぐこちらに向かってくる。片腕を水平に伸ばし、リーチを広げる。

 上に逃げられないネネは横に飛び避けようとした。が、どうしてもあの伸ばした腕から逃れられそうになかった。

 ランヂのラリアットはネネの顎あたりにクリーンヒットし、彼女の体を吹き飛ばした。攻撃を当てたランヂの腕も衝撃で折れたが再び上空に移動したころには再生し、なんともなくなっていた。


戦闘シーンを書いている間がとても楽しい。とても幸せ。

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