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第四十七話

「あたしってば一体なにしてやがる、つまんねぇパシリだこいつはよ」



 体育倉庫に向かう途中、ぼそぼそと悪態をつく。

 無理やり拓海を引き倒して連れていくこともできたが、そこになにかがいるかもしれないというのなら見てみないことには気になってしまって夢見が悪い。それに鈍器にだって使えそうなほど巨大な鍵が壊れるというのも変な話だ。もしかしたら本当に誰かが忍び込んだのかもしれない。



「おい、誰かいんのかよ」



 ドアの前で声をかけるがなにも返事がない。当たり前だ。泥棒が中にいるなら返事など決してするはずがなく、今頃誰かが来たと身をすくめているに違いない。誰かいればの話だが。



「いるなら出てきやがれ、殺すぞ」

「そんな言い方したら余計出てこないよ」



 いつの間にか拓海も追いついてきていた。両手にネネに押し付けられたスーパーの袋と教科書を持ち、いっぱいいっぱいの様子だ。



「うるせー。中を調べる。そこにいろ」



 そう言ってドアの取っ手に手をかけ、スライドさせる。中に入ると手近にあった金属バットをつかみ、倉庫を見て回る。



「どこの誰がこんなところに隠れてやがる、あ?」



 そのときだった。ザリッ、と靴で砂を踏む音が耳に入った。ネネの足音ではない。ネズミや猫といった野生の動物の重量感でもない。明らかにここに人間がいる。そしておとなしく出て来る様子がないことからやましい気持ちを持った人物がここにいるのだ。



「ホームレスだったら悪いことは言わねぇから出ていきやがれ。いちゃつくカップルだったらこっそりあたしに言え、見逃してやる。それ以外の、そうだな、盗みとか悪いこと考えてるやつだったらこの場で殺す。ぶっ殺す。」



 バットを構えながら物陰を一つ一つ確認していく。



「とにかくさっさと出てきたほうがお互い時間の無駄がねぇ。そうだろ?」



 サッカーボールの入ったかごの裏を見る。誰もいない。



「こうしててもてめぇの心臓に良かねぇと思うぜ? こっちにまでバクバク言ってんのが聞こえちまってる」



 カサリと布が擦れる音。自分の胸を押さえたのだろう。



「てめぇの歯がガチガチいってんなぁ。かわいそうに、ブルっちまってる。なんにせよ今ならごめんなさいで済ましてやるからとっとと出て来いって」



 怯え震える誰かをからかうのは楽しいが時間の無駄を感じてきた。ここらでそろそろ見つけ出してやるべきだろう。



「そこにいんのはわかってんだよ! あたしから逃げられると思うなよ!」



 バットを振り、すぐそこにあるトンボがけの束を乱暴に蹴散らす。校庭が広い分かなりの数が用意してあり、その裏に人が隠れるのはとても簡単だ。



「オラァ!」

「ひゃあっ」



 束を崩すとそこに現れたのは想像もしていなかった存在だった。

 子供が座り、両手で顔を防御していた。ネネに殴られると思っているのかもしれない。服装を見ればどうやらこの子供は女の子のようだ。



「なんだ、ガキかよ」

「こ、殺さないで!」



 震え声で命乞いをする子供の様子がなにやら様子がおかしい。散々脅しまくったネネのことが怖いのは仕方がないことだが、それでも子供は本気で命の危険を感じているようで体が震えている。寒さの震えとは違う恐怖のそれだ。



「マジで殺すわけねぇだろうがよ、ってなんだケガしてんのか」



 女の子の服は所どころ破れ、露出した肌のあちこちに擦り傷や切り傷、そして打撲のあとが見て取れる。長期的なものではなく、ごく最近につけられた傷跡ばかりだ。



「どうした、何があった?」



 ネネは膝立ちになって女の子の視点に合わせる。しかし女の子は目を合わせようとするどころか、地面に手をついて慌てて後ずさりしてしまった。怯えているのはわかるがそれにしても異常なほどの怯えようだ。



「やめて! こないで!」



 拒絶の意思を見せる女の子にネネはバットを置いてさらにせまり、彼女の両手をつかんでひねり上げた。



「おい、ガキ! てめぇを傷つけるつもりはねぇ! よく見ろ、あたしがてめぇの知り合いに見えるってのかよ!」



 その様子を倉庫の外から見ていた拓海はネネがこれから殴りかかってもおかしくないように思えた。いくら傷つける意思がなくともそんな言い方と態度では全くの逆効果だろう。

 しかし女の子がネネと目を合わせたとき、急に暴れるのをやめた。腕を捻られ、まさか本当に冷静になったとでもいうのだろうか。



「え、ネネ?」



 女の子はネネの名前を呟いた。


ネネとナナ、対面。

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