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第四十六話

 結論から言えばやはり拓海の思った通り、ネネはまともな方法で校内に侵入することはなかった。

 ネネは校長から裏風紀委員という高校黙認の暴力許可を貰っている。つまり不良をぶちのめしてもよいというケンカ許可証のようなものなのだが、それがなぜ校舎の合鍵を持っている理由になるかどうかは拓海にはさっぱり思いつかない。


 とにかくネネはなぜか持っていた校舎の合鍵を使って夜の高校に侵入し、そして教室から拓海の教科書一式をすべて持ってくる算段になっている。拓海は万が一教師が巡回していたときに備えて見張りを任され、外で待機していた。私服姿でスーパーの袋を持つ人間が校舎の隅にいれば誰がどうみても怪しい。校内で見つかるか外で見つかるかは関係ない。

 もはや彼にはやましい気持ちしかない。ネネへのありがたみはまるでなかった。



「持ってきた、さっさとズラかるぞ」



 どきどきの時間を過ごしていると二階のトイレの窓からネネが飛び降りてきた。小脇に教科書類を抱えている。彼女が音もなく拓海のそばに降りてきたので彼は思わず声を上げそうになったがなんとかこらえた。



「ネネ、その鍵は合法なんだよな? そうだって言ってくれよ」



 待っている間、拓海は鍵の出どころが気になって仕方なかった。お礼をすることなくまずそれを確認する。



「もちろんだ。正真正銘の本物の鍵だぜ。まぁ、クソ教師のドブネズミよりも見えてねぇファッキンくりくりおめめにはあたしの手さばきが映らなかっただろうがな」

「ちょっと罵倒が多すぎてなに言ってるのかわからん」

「こいつは借りてきたんだ」

「それ盗んだっていうんだよ! 今すぐ戻せ!」

「ちっ、めんどくせぇな。あたしは腹が減ってんだ。気が向いたら返すから帰るぞ」

「なんて酷い態度なんだ……」



 ネネが歩きだし、慌てて後に続く拓海。時刻は夜の十時を過ぎ、まともな青少年ならば家にいる時間だ。もはや教師だけでなく警察にも警戒して帰らなければならなくなってしまった。



「———ん?」



 二人が校庭前を横切り、近道である茂みのなかへと入ろうとしたとき、拓海はある違和感を覚えた。



「どうした、拓海」



 足を止め、その方向を見つめる拓海に気がつき、ネネが振り返る。



「いや、なんか変だなって思ってさ」

「なにがだよ」



 拓海の隣まで戻って彼の視線の先を探すネネだが、いまいちどこが変なのかわからない。普通の人間の視力なのだからそう遠くない位置だろうが、夜目が効くネネには今日の日中と変わりない光景と変わっていないように見えた。



「ほら、そこの倉庫」

「倉庫だァ?」



 拓海が指さすのは運動部が使う体育倉庫。そこでネネは拓海の違和感が理解できた。

 体育倉庫の入り口は二枚の鋼鉄のドアをスライドさせて開けるタイプだ。ドアが閉まると大きな南京錠でロックされて管理される。二年ほど前に備品の盗難に遭ったとかで一般で売られているような南京錠は使っていない。かなり巨大で、そしてバールでも破れない頑丈でマッスルな一品だ。

 そんな南京錠がドアの前に落ちている。それどころか壊れているようだ。心なしかドアも少しだけ開いているような気がする。



「ただの閉め忘れだろ。鍵がイカれちまったから野球部連中が放置してるだけだろ」

「そうかなぁ」

「なにが気になるってんだよ」

「誰かに見られてるような気がするんだよなぁ。あそこからさ」

「んな気色悪ぃこと言うんじゃねぇよ。怖いだろが」



 怖いもの知らずのネネなのだが、そのような気持ち悪い話には悪寒が走ってしまう。まだ夏には早いが拓海なりの怪談話だろうか。



「帰るぞ、あたしは腹ペコなんだっつーの」

「うーん」



 ネネが促してもなお拓海は首をかしげたままその場から動こうとしない。



「クソったれが、そこにいやがれ、あたしが見てくる」



 とうとうネネは堪忍袋の緒が切れて動き出した。どうしても気になるというのならば直接行って確認すればいいだけのことだ。さすがにこの時間になれば教師は帰宅しているだろうが、ネネだって長々とこの場にとどまって彼らに発見されるリスクを高めるのは避けたいのだ。


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