第四十五話
「ああーーーっ!」
東京から離れた地方中心都市、夜の住宅街で少年の絶叫が響き渡った。
「うるせぇ! 何だよ!」
カジュアルな服装の少年の声に反応して、隣にいたジャージ姿の少女が思わず怒鳴る。
少女の名前は白銀ネネ。人造人間だ。彼女は現在住んでいる家の裏山にて発見されたが記憶がなく、行く当てもないのでたまたま発見してくれた白銀家に居候させてもらっている。背が高く、目つきが悪い不良少女だ。
そんなネネの隣で叫んだ少年の名前は白銀拓海。年齢は十五歳。今年の春に高校生になったばかりの人間の子供だ。彼がたまたま裏山に行かなければネネとの出会いはなかっただろう。そして人造人間に関する出来事に巻き込まれることもなかったはずだ。それでも彼は後悔していない。ネネとの生活は普通ではなく、とても楽しいからだ。命の危険はないうえに他の誰とも違う経験ができる。今のところは。
そんな拓海がなぜ夜道で大声を出したのかといえば、それは先ほどのネネとの会話にある。
『そういえばネネは頭いいんだよな。記憶がないのになんでなんだ?』
『あ? てめぇみたいに四六時中ゲームしてねぇからな。あたしの趣味は筋トレとケンカだ。ほかの時間は全部なにかしらの勉強してんだ』
『勉強なんてめんどくさくない?』
『そんなこたぁねぇ。やればやるだけ全部が自分の知識になるんだぞ、筋トレと同じだ。やらない理由が見当たらねぇ』
『はぁ、俺にはわからないな』
『ゲームばかりしてんのもいいけどよ、そんなんじゃいつか周りからバカにされちまうぞ。頭が悪くていいことなんか一つもねぇ』
『ネネは俺のお母さんかよ』
『てめぇの母親がなにも言わねぇから言ってんだ。来週のテストの準備はできてるのかよ』
『…………テスト?』
そこでようやく拓海はテストの存在を思い出し、声を上げたのだ。拓海はそのことを完全に忘れ、なにも準備をしていない。今日は金曜日で土日を挟み月曜日の朝からテストがある。
それだけならここまで拓海が焦る理由にはならない。ただ彼は教科書をすべて高校に置いていくタイプだった。つまり家に帰っても勉強道具が何一つないことになる。おまけに今回は全く勉強せずにやりすごせるような甘いテストではない。
『ああーーーっ!』
そして拓海は絶叫を上げたのだった。
「で、どうすんだよ」
事情を聴いたネネは手にした買い物袋をダンベルのように上げ下げしながら拓海に問いかける。二人は今日の夕食の買い出しに近所のスーパーマーケットへと出かけた帰りだった。いつものように惣菜をいくつか選んだだけの簡単なものだ。
「どうするって、取りに行くなら明日でもいいかなぁってちょっと思ってるんだけど」
「バカ野郎が」
そう言ってネネは拓海のすねを蹴りつける。
「うぐっ」
靴の固いつまさきが弁慶の泣き所へと命中し、彼は声にならない声を上げてその場にうずくまった。
「ここから学校に向かえば家から行くより近いだろうが。どうせおめぇは明日になったら取りに行くことを忘れちまうクソ鳥頭だ。めんどくさがらずに今から行くぞ」
ネネの言う通り、スーパーの帰り道を少し寄り道すれば高校にたどり着く。いくら家と高校が近いとはいえ、めんどくさがりの拓海は遊び惚けて土日を無駄にするだろう。それは本人が一番よくわかっていた。ネネが言わなければ拓海は動かない。
「わかったよ、わかったって。でもこんな時間に行っても学校を開いてないと思うんだけど」
今の時刻は夜の九時を過ぎたところだ。白銀家の夕食は遅めというのもあるが、今日はたまたま夕食の時間になってから家にまともな食材がなかったこと判明し、こうして二人は買い出しに出かけたのだ。
「確かに閉まっちまってるだろうが安心しろ、あたしにまかせとけ」
拓海にはネネの言葉に安心を見いだせることができなかった。目的を達成できたとしてもなにかしらの問題が起きそうな気がしてならないでいた。
なんだか久しぶりにネネ達を書いた気がするよ!
口の悪い女の子は書いていてすごく楽しいよ!




