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第三十九話

「ふぅ」


 今回の移動の疲れで思わずため息が出る。それ以上に年と日々の忙しさのせいで全く疲れが取れない。


「それで、シドナム君。計画の方は進んでいるのかな?」


 秘書が茶を用意しに台所へと消えたのを見計らって立田はシドナムに話しかけた。


「計画? なんのことでしたっけ?」


 机を挟んで向かいのソファに座るシドナムがわざとらしく頭をかしげる。そんな動作に立田は頭に血が昇る。


「なんのことじゃないだろ。君がここに配備された理由そのものだ。もしそれが冗談なら面白くないぞ」


 この島は人体の複製を目的に作られた。病気やケガで失われた体の一部を人工的に造り出すことでそれを補うためだ。もしその研究がうまくいけば人類の医療は大きく発展するだろう。

 だからこそこの会議はシリアスでなければならない。少なくとも冗談を言っていい場面ではないのだ。


「ふふっ、わかっていますよ。人間のコピーですよね。大丈夫。大丈夫ですから」


 シドナムの口元は笑ってこそいるものの、目が笑っていない。確実に何かを企んでいる顔だ。


「確かに人間のコピーだが、その言い回しには裏がありそうだな。隠すようなマネはよせ」

「そうですね、実はもう完成してるんですよ。研究」

「完成だと? 本当か」


 長年に渡って続けられた研究が終わっているとなると、なぜシドナムはもっと早く連絡を寄こさなかったのか、立田はそれが理解できなかった。今回はビルの追加建設についての会議だ。研究が完成しているのならその必要もなくなるのだ。膨大な経費も時間もかからず、すべてが良い方向に向かう。この場においてサプライズはいらない。


「おい、入ってこい」


 シドナムは応接室のドアに向かって声をかけた。ドアを挟んだ廊下の向こう側に誰かがいるというのか。


「誰だ、お前は」


 ドアがゆっくりと開き、一人の男が入ってきた。背格好はシドナムとそう変わらない青年だ。寝起きだろうか、だるそうにこちらへと歩み寄ってくる。

 立田は彼がここの職員ではないことを一目見て理解した。なぜなら彼の頭髪は青色に染められており、従業員規定を大きく逸脱しているからだ。そのような自由は認められておらず、もし彼が研究者なら立田とともに帰りの電車に乗って帰ってもらうところだ。これから彼が研究員を辞めるか、それともシドナムが独断で連れ込んだか、どちらにせよ問題だ。


「大臣、見てください。彼が研究の成果です」

「成果だと?」

「そうです。彼は人造人間なのです」

「人造人間、クローン人間のことか。一体どういうことだ」


 立田は研究が完成したことよりも自身が思っていた結果とは違うことに違和感を覚える。


「文字通り人間のふりをした生き物です。こいつは面白くてね、なぁちょっとデモンストレーションしてくれよ」


 シドナムが青髪の男に指示を出す。すると男は懐から包丁を取り出した。薄暗い部屋の雰囲気もあってからか包丁の刃が光り、怪しく反射する。立田はごくりとつばを飲み込んだ。


「大臣、よく見ててくださいよ。決して目をそらしてはいけませんからね」


 青髪の男が二人の間にあるテーブルに包丁を持っていない右手を広げて置いた。


「何をするつもりだ」


 立田が言うや否や男は包丁を己の手に突き刺した。ためらいもなく自分の手を傷つけ、ぐりぐりと包丁をひねる。血が傷口から溢れ、立田は不愉快な気持ちを顔に隠すことなく表に出す。男の方も痛みで顔をゆがめる。


「もうちょっと派手に頼むよ」


 シドナムはさらに要求した。言われた男は刃を引き抜き、今度は小指を切り落とした。


「や、やめろ! なにをしているんだ!」


 思わず立田は立ち上がって声を荒げた。こんな残虐な光景を見せられて一体何になるのか。ただただ不愉快極まりないだけだ。


「まあまあ、見るべきはこれからですよ」


 包丁を机の上に置いた男は大ケガを負った右手を立田へ向け、見るように促す。


「あ、ああ?」


 目を疑うような光景だった。男の指の筋繊維が糸をつむぐように生成され、あっという間に元の手に戻ったのだ。骨も爪もまとめて元通りだ。今や彼の手のひらは何事もなかったかのように無傷そのものだ。

 立田は己の目をこすりもう一度男の指を見る。なんともない。しかし視線を落とすと切り落とされた指の一部が床に転がっている。だがそれもすぐに粉状と化し原型をとどめなくなった。


「私は夢でも見ているのか」

「これは夢じゃありませんよ。確かに大臣は疲れているようですがこれはが現実です。おわかり?」


クリスマス? ねぇよそんなもん。

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