表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
29/160

第二十九話

「あー、何しようかな」


 あくびを噛み殺し、暇を持て余すハナ。これからケンカを止めるふりをして混ざろうか、そう考えていたとき、ある違和感に気が付いた。


「どうしたのかしら」


 機械化する能力を使い、ハナの鼓膜は高性能マイクになっている。今までネネのことを音で安全管理していたが、その音が止まった。


「まさかやられちゃったわけじゃないわよね」


 耳を澄まして高校の周囲からネネの声を探る。何か一言でも発すればネネの周波数を聞き分けることができる。しかしネネは何一つ言葉を発することなく消えてしまった。少なくともこの高校の敷地からは。


「ったく、急にケンカを切り上げたってこと? そんなに見たいテレビでもあるっていうの」


 ネネが倒されたとは思えない。考えられるのは高校の敷地から出ていったくらいだ。例えばケンカ相手が逃走し、それを追いかける、といった具合だ。もしくはハナの独り言のように何か特別な用事があって相当急いで家に帰ったかだ。ネネに限ってテレビっ子だとは思えない。なんにせよここにいないのは間違いないのだからハナはネネの行方を捜す必要があった。ネネの保護が仕事なので彼女の安全を確認できるまでハナは安心できない。


「私も帰るかな」


 本日の生徒会はすでに解散しているのでハナは部屋から出て鍵を閉め、急ぎ足で高校から去っていった。

 




「なんでテメェがいる?」


 ネネは疑問を隠せずにいた。彼女は高校から出てすぐの一車線道路の真ん中に佇んでいる。もう一人と対峙しているのだ。

 目の前にいるのは黒いフード付きパーカーに身を包んだ男。ネネが昇降口でケンカをしているとふと視線を感じ、そちらを見てみればこの男がじっと見ていた。散歩中の見物人かと思い無視を決め込もうとしていたが、ネネの中で放っておいてはいけないような気がしてつい声をかけた。男はネネが近づいてくるとすぐに踵を返し走り出した。ネネは思わず男を追いかけてみたのだ。意外にも高校のすぐ近く、見通しの悪い雑木林の近くで男は立ち止まり、振り返った。


『白銀ネネだな?』


 男はそう言い、フードを外す。その顔には見覚えがあった。最近出会った人物で、そして死んだはずの男。


「テメェは殺したはずだろが」


 男は数日前に近所の山で殺した眼鏡の男だった。探偵をしていると言っていた人造人間だ。見逃すと言ったのに攻撃を仕掛けてきたのでネネは木の棒で彼の腹を裂いた。死体は粉状に変化し確実に死んだはずだ。拓海も確認している。


「なんだよ、生き返ったってのかよ」

「生き返ってなんかいない。死んだのは俺と同じモデルの使い捨てだろう」

「なんだと?」


 モデルとか使い捨てだとか、何やら怪しい単語が飛び出した。もし彼が他人の空似だと言い張ればネネは大人しく引き下がっただろう。だがあの時殺した人造人間と関わりがありそうな言動をした以上、またしてもケガをさせなければならなくなった。


「隠すようなことじゃない。俺たちは人造人間だがその中でもより性能の低い模造品。クローン人間のクローンだ。だからあんたが殺した奴と同じ顔がここにいても不思議じゃない。そういうことだ」

「くそっ」


 ネネは思わず悪態をついた。この前ハナが人造人間は全部で64体だと言っていたが、それはもう古い情報になってしまった。最新の情報を手に入れるため、そして自身に関する情報を聞き出すためにネネはこの男と戦う必要が出てきた。


「あんたに見つかった以上、俺の選択肢は一つしかない」

「へぇ。奇遇だな、あたしも一つしか方法が思いつかないぜ」

「ネネ、あんたを殺す。悪く思うな」

「あたしもテメェを殺す。情報とはらわた、とにかく何もかも引きずり出した後でな」


 ネネは姿勢を低くし足元の砂利を拾い上げる。それを男に投げつけ駆け出した。


「ぐっ」


 小細工をまんまと食らい、視界を塞がれた男がひるんでいる間に拳を握り、打ち込む。全力の右ストレートは男の顎に命中し乾いた音を辺りに響かせた。


「こんなので倒れてんじゃねぇぞ」


 男の足元がおぼつかない。今のパンチで膝が笑ってしまっている。あまりにあっけなさ過ぎてネネは男が何か隠し玉を用意しているのだろうと考えた。だから倒れるよりも前に男の胸倉を掴み上げ、無理やり立たせる。常に先手を取ることが戦いの上で重要だ。


「死ねやダボが」


 片手で何度も男の顔を殴りつけるネネ。幸い周囲に誰もいなかったが、この現場を誰かに見られていたとしたら間違いなく警察沙汰になるだろう。そういう意味でネネは早めに決着をつけたかった。強いてもう一つ理由を上げるとすれば、この前にハナに殴られたケガがまだ痛むので急ぎたいのだ。

 男の前歯に手が当たり皮膚が切れる。


「いてっ」


 脳内にアドレナリンが出ているのでそこまで痛くはなかったが、チクリとした痛みに反射的に男を掴む手を離してしまった。

 その瞬間、目の前を何かが掠めていった。まだ落ちていない太陽に照らされたのは間違いなく金属質の板。


「あぶねぇッ」


 男の手にはポケットナイフが握られており、ネネに殴られている間に腰から取り出していた。あと一発殴っていたらナイフの刃が腹に突き刺さっていたか、顔に切れ込みを入れられていただろう。


「運がいいんだな」


 男がぼやく。ナイフの一閃に賭けていた男はこれを失敗し、先ほど殴られただけですでに満身創痍の様子だ。男の目に光はない。死人の目と同じ生きる意味を失っている目だ。




ランボー5見てきました。面白かったですが別にランボーじゃなくてもいいような気がしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ