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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
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第二十八話

 人造人間ナンバー14、六条ハナには秘密が山ほどある。身長166センチ、体重は55キロ、トレードマークであるお団子ヘアーは毎朝丁寧に時間をかけて作り上げている、好物は大福とようかん。


 だがこれらは大事な情報ではない。身長など戦いにおいて意味のある指標にならない。体重は自身の能力を使えば増量も軽量も可能。髪型も特に変える必要を感じないのでお団子ヘアーのまま。好物があるからといってなんになるというのか。せいぜい会話のネタ程度にしかならない。


 人造人間を監視する組織『イガラシク』から派遣されてきた六条ハナ。彼女の最大の秘密はその過去にある。普通の人間からすれば相当長い時間を生きてきた彼女は、その幼少期から凄惨な時を送ってきた。殴れば殺せる程度の人間たちによる了承なしの人体実験は数えきれないほどされた。しかし当時弱かった彼女はどれだけ抵抗しても多勢に無勢、最後には実験を受けていたものだった。


 家族は過去にいたがもういない。今のハナには十数年前からの付き合いのある友人たちだけが心の支えだ。どうせ彼らも百年もしないうちに死ぬ。人間などその程度だ。

 そんな六条ハナがなぜ人造人間の管理をするのか。ずっと昔にいた彼女の家族が人造人間だったからだ。血は繋がっていなくとも家族と呼べるくらいには親しい間柄であった。彼女の家族はある日を境に姿を消した。この世のどこにも存在していた証拠も残さないほどに跡形もなく、彼女の前から消えた。

 寂しさのあまり頭がおかしくなりそうになりながらも今日までなんとか耐えてきた。いつの日か再会できる日を夢見て。


 さて、彼女の親愛なる家族を知る人物は何人もいる。中には存命中の人間だっている。だがここからが彼女にとって問題だった。

 最後にその家族と行動を共にしていた人物こそが、ハナの保護対象である白銀ネネだからだ。ネネは記憶を無くし、情報を何一つ覚えていない。試しに彼女の頭を重点的に殴ってみたものの、まともな記憶一つ思い出した様子もない。


 完全にお手上げの状態だ。しかしネネにはなんとしてでも家族の居場所についての記憶を思い出してもらわなければならない。それこそが現在の六条ハナの生きがいなのだ。イガラシクの連中にネネに近づいた目的が人造人間の保護だとまだ思われているうちにすんなり終わってほしい案件だ。

 最悪ネネの脳を駄目にしたとしても、情報を引き出さなければ。本気でそう考えてしまうまでにネネに思い出してもらいたいものだと、ハナは高校での授業中ながら思っていた。


 三日前、近所の工事現場で彼女はネネと激しく殴り合った。十五年もの間、ミイラのような状態から復活したばかりとは思えないほどネネの身体能力は高く、油断をしていると何度も痛い目に遭った。これほど素早く彼女が力を取り戻しているとすれば、記憶が戻るのも時間の問題かもしれない。


 とにかく今はネネが誰かに殺されることなく生きてもらう。時間ならまだある。


 今日の授業が終わり、ハナは生徒会長としての仕事をこなしながらネネの監視をしていた。ネネはいつも通り裏風紀委員の名目のもと、学校の不良とケンカをしているようだ。わざわざ見に行かなくとも野次馬ができるレベルまでの大騒ぎをしているのだ。ある意味安心ではある。裏でこっそり殺されているかもしれないと考える必要がないからだ。


「ケンカばっかりしてるネネもネネだけど、なんでこんなに不良が多いのかしら」


 誰もいない生徒会室にて、沈みゆく日差しを眺めながらパイプ椅子に座るハナはつぶやいた。

 ネネがケンカに明け暮れ始めたここ最近、校内において不良が増えたような気がする。少なくとも去年よりは多い。もしかするとネネがケンカをするたびに不良共が自らの体を鍛え、次のネネとの戦いに向けて備えているのではないか、そしてその闘争心は飛び火し、今まで燻っていた無関係の生徒すらやる気を出してしまった。


「ありえないわね」


 しょうもない妄想をしてしまった自分に思わず苦笑いをしてしまう。


 生徒会長になったとはいえ、仕事量はそこまで多くない。学生に大人と同じ仕事をさせるわけにはいかず、高校の教師たちが仕事のほとんどを終わらせているのだ。だからハナは実質名ばかりの生徒会長だ。


やっぱり元気が一番だよ

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