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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
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第二十七話

「それじゃ、また学校でね!」


 今日はもう夜遅く、ネネの休息が最優先だということでハナはすぐに帰ってしまった。ネネと拓海はお団子ヘアーがぴょこぴょこ跳ねる彼女の後ろ姿を見送る。

 彼女の連絡先、そして一体どこに住んでいるのかもわからない。それでも困ったときには駆け付けると言っていたのでおそらくかなり近くに住んでいるのだろう。

 路地からハナの姿が見えなくなったのと入れ違いで反対側の路地の角から拓海の母親の姿が見えた。


「ただいまぁ」


 疲れた様子の母親は両手いっぱいに買い物袋をぶら下げていた。買い物に出ていたようだ。


「おかえり。どこ行ってたの?」


 買い物袋を受け取り家の中に運ぶ拓海が尋ねる。買い物だけなら近所のスーパーで十分だ。拓海がハナを家に上げたときにはすでに買い出しに出かけていたので、すでに三時間は出歩いていたことになる。家の車を使わずスーパーまで徒歩で行くなら帰るまで一時間もかからないはずだ。他に何か用事でもあったのだろうか。

 すると拓海の母親は照れた様子でこう言った。


「ええとねぇ、スーパーに向かって歩いていたら迷子になっちゃってぇ、気が付いたら海辺にいたのぉ」

「海だと!」


 一人驚く拓海。ネネはそこまで興味がなく、買い物袋に詰まった食材を冷蔵庫に入れていく。それでも彼女は耳をそばだて会話を聞いている。


「ここから海まで一〇キロ近くあるよね? それにスーパーとは反対方向だよね? どんだけ方向音痴なんだよ!」

「何年住んでも道がいまいちわからないのよぉ。もうあきらめてちょうだい?」

「目をうるうるさせたって意味ねーからな! 母親がかわい子ぶってもなんとも思わねーから!」

「昔は拓海くんも私にべったりでかわいかったのに、すっかり大人になったのねぇ」


 そう言って拓海の母親は息子に抱きついた。


「うおお! なんだか寒気が止まらねぇ! やめて!」


 嫌がり、抵抗する拓海から母親は離れようとしない。本気で抵抗していないのか、それとも母親の力が強いのか。どちらにせよネネにとってどうでもよかった。こんな白銀家の日常を守るためには強くならなければならない。今の彼女の頭の中はそれでいっぱいだった。


(あたしはどうやって強くなればいい?)


 ハナは言っていた。ある日突然力が戻るかもしれないと。しかしいつかわからない日を待っていてそれでいいのだろうか。ネネの性格のせいで高校でのケンカが絶えなくなってしまった以上、一つの敗北も許されない。人造人間においても、高校生においても、負ければネネの命だけでなく白銀家の危険につながるのだ。

 そこまで考えて、冷蔵品を冷蔵庫に詰め終わったネネは気持ちを切り替えることにした。今日に限ってはもうこれ以上できることはない。風呂に入る前に部屋で日課の筋トレをするくらいだ。平和を楽しむことができるなら今はそれに甘えなければ気持ちが壊れてしまう。


「おい、今日の夜飯は何だ?」


 リビングでイチャつく母と息子に声をかけるネネ。


「あ」


 大切なことを思い出したように拓海から離れて母親は頭を抱える。


「お母さん、もしかして」


 拓海には思い当たる節があるようで顔をひきつらせた。


「ごめんなさい、おかずは沢山買ってあるの。でもね、お米を買うのを忘れてたわぁ」


 ネネは先ほど自分が閉まった食材を思い出していた。米が無くともたんぱく質が多めのおかずならネネとしては困らないからだ。

 冷蔵庫に入っている食材はひじき、豚肉のレバー、鶏肉のレバー、煮干し、ほうれん草、パセリ、ほや、油揚げだ。


「鉄分たっぷりかよ!」


 栄養の偏りにケチをつけざるを得ない。今日はたくさん血を流したので鉄分はありがたいが、それでも寂しい夕飯になりそうだ。


「ほや!」


 拓海は珍しい食材に突っ込んだがそこはネネにとって気にする点ではなかった。


「卵も忘れてたぁ」


 もう一つ買い忘れていたことを思い出した拓海の母親が膝をつく。結局この日は炭水化物の無い夕食となり、日付を超えるころには育ち盛りの拓海は空腹に苦しむこととなったのだった。


今月は体調崩しまくりでやんなっちゃう

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