第二十六話
「人造人間にはそれぞれ特殊能力があるのはさっきのケンカで知ってるわよね。最初に人造人間を造った人物がDNAをチョメチョメしたらできたらしいわ」
拓海にはハナの言ったチョメチョメとは何かわからなかったが重要には思えなかったのでスルーした。
「てめぇは『機械化する能力』だっけか?」
「そう。頭から足先まで全身自由に機械化することができるわ。なかなか便利よ。それで、ネネの能力なんだけど」
そこまで言っておいてハナは口ごもる。なにか後ろめたいことがある証拠だ。
「なんだ。隠すんじゃねぇよ」
「確かネネの能力は『力が強い能力』のはずなのよね」
力が強い、と言われてネネと拓海は納得した。少なくとも十五年は植物人間よりもひどい状態でいたが、それでも復活して数日後に発生した高校生とのケンカで力負けしたことがない。
と、ネネの頭にある疑問が浮かんだ。
「待てよ。力が強いのはわかってる。でもあたしは石の下から蘇ったんだぜ? それはどう説明するんだ」
「それが初期型と量産型の違い。あなたたち十一人の人造人間には特殊能力が二つある。一つはそれぞれ個別の能力。もう一つが自己再生。死ぬようなケガでも瞬時に再生するかなり強力なものよ」
石に押しつぶされ、ほとんど死体のような有様であったとしても、ネネは蘇った。
「ネネの場合は石の下から蘇ったってより虫の息が長く続いてたって感じかしらね。だからその後遺症で記憶に障害が起きたんだと思う。でも私達のような量産型には自己再生はない。死んだらそれでおしまい。ネネが羨ましくてならないわ」
「マジかよ、信じらんねぇ」
「だったら試しにお互い死んでみる? 私は嫌だけど」
「あー、あたしも遠慮しとく。マジで死んだらシャレにならん」
「懸命ね。人造人間の情報が少なすぎてどうして再生するか今でもよくわかってないし。精々ケガしないようにしたほうがいいわ」
「なるほど。あたしのスペックはわかった。だがよ、さっきからなにか言いたげなように見えるぜ」
おそらくどこの国にとっても機密になるであろう情報をペラペラと話すハナだが顔が晴れない。今更機密漏洩を気にするタイプではないだろうが、そうなると別に何か気になる点があるということに違いない。
「ええ。言いたいことはもちろん沢山あるわ。行方不明になってから今までどこで何してたの、とか、どうしてこんなところで死にかけてたの、とかね。でもまずとりあえず聞いておきたいんだけど、あなたそこまで弱かったっけ?」
「ぐおっ」
ハナのはっきりとした物言いはネネの心に突き刺さった。弱いと言われてプライドに傷つかないわけがない。
「気を悪くしないで。昔あなたと会ったときはもうなんといくか、破壊神というか、拳だけで地面を割るようなそんな規格外の力持ちだったのよ。だからちょっと心配するくらい弱くなっててびっくりだわ」
(地面を割るって、そんな漫画みたいなことあるのかよ)
ネネも拓海も同じことを考えていた。どんな地面にせよ力だけでは拳の方が負ける。ハナの話は少し盛られているように感じた。
「なによ二人とも、信じてないわね? 本当にネネが地面を割ったのを見たことあるんだってば!」
「あたしはまたそこまで強くなれるのか?」
静かにネネは言う。ハナのことを信用するならば拳のみで最強になれるのかもしれない。誰と戦うかはこの際どうでもいい。自分を守るため、そして見ず知らずの自分を居候させてくれる白銀家を守れるなら強くあるべきなのだ。
「もちろん。あなたの再生能力ならいつか必ずもとに戻るわ。でも気をつけてね。ある日なんかのきっかけで力が戻ったら、その時は普通の生活すらできないくらいの力を取り戻すことになる。誰かと握手なんてもってのほか。靴紐だってまもとに結べない人生を送ることになるかも」
真剣な表情で言うハナは嘘をついているようには見えなかった。普通の生活ができないほどの力とはどれほどのものか。地面を割るのはおそらくそこまで難しいことではないのだろう。今後は人を殴るときは気をつけなければならないようだ。
「ま、そのときはウチで力の使い方を訓練してあげるからそこまで心配しなくていいわ」
「でもあたしはまだ……」
「私を信用しなくても別に構わない。こちらから敵対するつもりはないからこれ以上言うだけ無駄。ケンカならいつでも買うけどね」
ふう、とため息をつくとハナは立ち上がって身なりを整える。彼女はフローリングに座り込むネネと拓海を交互に見る。
「じゃあ改めてネネ、人造人間№14、六条ハナがあなたを保護するわ。よろしくね」
ハナは笑顔だがネネに手を差し伸べることはしなかった。
この前職場の先輩からお酒もらったのでしばらく頑張れる!強い酒だ!やった!




