第二十五話
ハナはネネの悪口を気にする様子もなく淡々と続ける。
世界中の人造人間、と聞いて拓海は目が回った。彼が十五年生きてきたなかで人造人間なんて存在は聞いたことがない。クローン人間は昔から宗教絡みの圧力で規制されているはずだからだ。現在、人工臓器の研究が進んでいるが、もし世界のあちこちに人造人間がいるのならば何のために研究しているのかわからない。人造人間が本当に隠された存在なのは違いないようだ。
「人造人間の全員がまともならいいんだけどね、どうしても特殊能力を使った犯罪が絶えないのよ。それを抑制、隠蔽するのが私たちの仕事。それで私は日本の関東地区を任されてるってわけ」
「続けろ」
ネネも興味を持ったようでようやくリビングのドアを後ろ手に閉め、その場で座り込んだ。やはり拓海の位置からぎりぎりスカートの中が見えてしまう。罪悪感に勝てず彼はそっと目を閉じた。
「ある日ネネが現れたって情報が入ってね。確認したら本当にあなたがここにいるからびっくりしちゃった。しかもすごく近くにいるんだもん。でもまた記憶を失ってるものだからあら大変。それで今に至るってわけ」
拓海は今日の下校時間にハナと遭遇した。ネネが人造人間かどうか確認するために捕まった振りをしてくれと頼まれ、渋々承諾した。そのおかげでハナはネネと殴り合うこととなり、本人かどうかのテストをしたのだった。
拓海が聞いているのはそれだけだった。ハナが世界一有名なボランティア団体の一員であることも、その団体の裏の顔が人造人間の管理であることも聞かされていない。ネネも拓海も驚きの連続だった。
「さっきのケンカでようやく確証が持てた。人間離れしたパワーと耐久力があなたにある。あなたを人造人間ナンバー9『白銀ネネ』として認めるわ」
どくんと心臓が跳ねる。ネネの中でなにかを思い出しそうな前兆だ。9という言葉に覚えがある。自分にとってとても大事な言葉だ。
「あたしをあたしだと認めてくれて光栄だがよ、まだてめぇの自己紹介しか聞いてねぇ」
「ネネってば用心深いんだから。初期型ってなんでみんな人間不信なのかしら」
「おい待て、今なんつった。初期型ってなんだ」
ハナのぼやきはネネの興味を引いた。人造人間のことを番号で呼んだり型番があったりとなにやら大勢いるような口ぶりだ。
「人造人間は一体何人いるんだ?」
「私たち人造人間は全部で64体いるわ。初期型の11体と量産型の53体の二パターンが確認されてる。20年前まで秘密裡に作られていたのだけれど、なんらかのアクシデントで生産方法が完全に失われた。だから64体でおしまい。それとそうね、彼らはみんな体のどこかに製造番号の入れ墨があるのよ」
「え、入れ墨?」
拓海が驚いたような顔をする。製造番号とはいえネネとハナの体に入れ墨が彫られているということだ。それはまだ若いであろう二人にとって決してうれしいことではないだろう。少なくともはるか昔から入れ墨の文化は廃れている。犯罪者くらいしか墨を入れているイメージがない彼は同情した。
「ああ、番号なら確かに尻にある」
ネネはさらっと答えた。特に気にしている様子はない。拓海は彼女の裸を見たが正面だけだった。番号が尻にあるならば見たことなくて当たり前なのだ。
「やっぱあるんだ」
「私は胸のところにあるのよ」
「胸っ!」
ハナもさらっと答えたが、拓海はそれを聞いてどきっとした。胸にあると言われればハナの胸に目をやるのは自然のことだ。だが彼女の胸は悲しいほどに平らだった。なんとも言えなくなる。彼は再び目を閉じて思考を殺した。
「拓海君、ヘンな想像してないでしょうね? したら殺す」
「してないですよ」
「ならよし。話を戻すわ。ネネの製造番号は9番。だから初期型なの。生産者は不明。どうやって最初の人造人間を造り出したのかも不明。今からずっと昔のことよ」
「あたしがいつ生まれたとかどうでもいい。他にあたしに関する情報はないか?」
ネネの興味は自分の過去についてだが生まれは二の次だ。どこの誰が作ったのかわからない以上、聞き出そうとしたところで何になるのか。それ以上に記憶を思い出しそうな情報が欲しかった。
説明展開パート2
今回と次回はちょっち文章短めになります。




