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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
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第二十四話

「ぶはぁっ」


 大きく息を吸い込みながらネネは起き上がった。見覚えのある景色だ。ここは白銀家の和室だ。ネネは制服からいつもの部屋着に着替えさせられていた。それだけでなく頭に包帯が巻かれ、ハナとの闘いとのケガの治療が済んでいる状態だ。

 寝ていた布団はネネがいつもリビングで使っていたもので違いない。この和室から廊下を挟んだ向かいにリビングある。


「ありゃなんだったんだ」


 先ほど見ていた夢を思い起こす。やたらとリアルな夢だった。最近のニュースでは考えられないような出来事を展開していた。もしあの出来事がネネの過去であるならば相当危険な裏世界に身を置いていたことになる。自分は何者なのかわからなくともまともな人間ではないことくらいはわかった。

 ネネはひどい頭痛にめまいを覚えながらもゆっくりと布団から出る。ふらつく足を鼓舞し、なんとか立ち上がって和室のふすまを開ける。目の前にリビングのドアが見える。


「拓海、大丈夫か?」


 返事がない。ネネはドアの前に立ち、耳をそばだててみた。人の気配がするので誰かがそこにいるはずだ。


「おりゃ、おりゃ! ここがッ、弱いんでしょ!」


 ハナの声。なにが起きているのか見当がつかない。


「あ、あっ、やめっ、それ以上は、ああああーーーっ」


 拓海の声だ。一体、二人してなにをしているのか。


「もう終わり? だらしないにも程があるわね」

「はぁっ、はぁっ、まだまだ……終わっちゃいませんよ……」


 息が切れている拓海。余裕のハナ。ネネの頭に良くないことが浮かんだ。なにか良くないことがそこで繰り広げられている。


「てめぇらナニしてんだ!」


 我慢が出来ずドアを勢いよく開けて突入した。そこで行われていたこと、それは。


『KO』


 テレビの画面に映ったキャラクターが打ちのめされ地面に倒れ伏していた。


「うおぁまた負けた!」

「勝負にならないわね。この私に格闘ゲームで勝とうなんて100年早いのよ」


 拓海とハナが仲良く隣に座ってゲームをしていた。拓海が高校から帰宅するといつも行う光景とそう変わらない。彼はゲームでコテンパンにやられていただけだった。


「あら? ネネじゃない。体は大丈夫?」


 ネネの存在に気が付いたハナが軽く手を上げてあいさつをする。


「お、ネネだ。そのケガだしまだ寝てたほうがいいんじゃないのか?」


 続いて拓海を疲れ切った顔であいさつをした。ネネは思わず「おう、大丈夫だ」などと返事をしてしまったがそれどころではない。恥ずかしい気持ちでいっぱいだからだ。邪な想像からこの現実だ、勘違いもいいとこだ。


「よし、先輩、もう一勝負しましょう!」


 ハナがよそ見をしている隙に拓海がコンテニューする。


「仕方ないわね、次は完封してあげるから」


 そんな二人を見てネネはハナがなんだか悪い人間とは思えなかった。血みどろの戦いを通してそう感じるのだ。ハナは強い。戦いにおいてかなり場数を踏んでいる。今日のケンカでも何度もネネを殺そうと思えば殺せたはずだ。それなのに殺さなかった。


『KO』


「うおっ負けた!」


 ゲームにおいても場数を相当踏んでいるようだ。


「ちょっと本気出したらこんなもんなのね。もっと修行しなさい」

「く、くそぅ」


 それでもネネには完全に、ハナのことを心の底から信用するにはまだ何かが足りていない。


「おいマナだかカナだか知らねぇがよ、あたしはまだテメェを信用しきれねぇ」

「なによ、またケンカする? 懲りないわねぇ。それと私の名前はハナ。六条ハナよ。いい加減覚えてちょうだい」


 せっかくの楽しい雰囲気だったというのにまたしても不穏な空気になってしまった。拓海はどうするべきか考え、ゲーム機の電源をそっと落とすことにした。


「テメェの名前なんざどうでもいいんだよ。あたしは見ての通り記憶がねぇ。だから誰も信用ならねぇんだ。これまで出会った人造人間はみんな敵だった。テメェはどうなんだ? どうやって味方だって証明してくれる?」


 ハナがリビングの入り口で立ったままのネネをソファに座るように促したが拒否された。フローリングに座ったままでは仕方ないのでハナだけがソファに座る。


「私は人造人間だけど敵じゃないわ」

「口先ならいくらでも言えるよな」


 ネネのきつい目つきは変わらない。


「じゃあ私の身分を明かしたほうがいいのかしら」

「身分だと?」

「そう。ディザイア王国って知ってる?」

「ディザイア? ああ、歴史の教科書に載ってた気がする」


 ハナの口から出たディザイア王国とは、アメリカとカナダの国境沿いにある小さな独立国家のことだ。何十年も昔になるが、そこでマフィアやギャング、悪徳企業による大規模な抗争が発生した。あまりに長く激しい戦いであったためにアメリカとカナダは互いに同意の上でそのエリアを隔離、断絶することにした。囲いを作り、悪党どもが勝手に自滅してくれるのならば無理に介入する必要はないだろうと判断したからだ。

 そんな悪人だらけの戦争によってどの派閥も壊滅の危機に陥ったとき、それはようやく終結した。それぞれが平等に領土を分け、互いにこれ以上干渉しないことで共倒れを防いだのだ。しかしどの派閥もなにかあればすぐさま戦争を再開できる準備だけはしてある。

 結果、悪人の自滅を狙っていたアメリカとカナダは自国の領土を取り戻すには至らず、戦争が終結して十五年たった今でもそのエリアはいつ戦争が再開されてもおかしくない危険な土地として世間に知られている。それがディザイア王国だ。王国と名は付くものの王はおらず、政治もない。

 そのうえ国として世界各国から認められていない。だが一つの都市として日々成長を続けている。今ではちょっとした発展途上国並みの生産性を持つ。


「ディザイアにね、イガラシクってボランティア団体があるのはどうかしら」

「知らん」

「拓海君は知ってるかな?」


 急に話を振られた拓海はハナを見る。


「あ」


 拓海は小さく声を漏らした。ソファに座ったハナに目をやると制服のスカートがめくれているのに気が付いた。白い布生地が見え、思わず視線を逸らした。今はそれどころではないのだ。


「あー、知ってます。有名なボランティア団体ですよね。ディザイアにもあったんですね」


 世界一のボランティア団体『IGARASHI・Kイガラシク』は日本人である五十嵐健が創立した。彼の苗字とイニシャルを合わせた簡単なネーミングだが、他に類似した名前がないことが幸いしてか別のものと間違えられることがない。つまりオンリーワンの名前として有名なのだ。

 イガラシクは世界中の戦争被害者への手当てや支援物資の輸送を行うアクティブな組織だ。大手企業からの寄付が主な資金源だ。ここに寄付することで企業のイメージアップに繋がるようで、かなりの数の企業から資金援助を受けている、とテレビのニュースで言っていたのを拓海は思い出した。


「私そこに所属してるのよ」

「ボランティア活動してんのかよ。意識たけぇな」

「んー、なにから言えばいいのかな。まずイガラシクの表の顔がボランティア活動なの。日本の支部は真面目にボランティアしてるわ。だけど私の所属するディザイア本部は違う。裏の顔があるの」

「裏の顔だと? 密売とかか?」


 ネネは先ほど見た夢を思い出し、何気なく口からそんな言葉が出た。


「世界中の人造人間の管理をしてるのよ」


風邪引いてダウンしてた。健康が取り柄だと思っていたのに高熱で動けなかった。たぶん寝不足が原因だからもっと早く寝ることにします。

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