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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
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第二十一話

 相手は人造人間だ。腕が金属質に変化するのを見たばかりなのだ。だからこれは普通のケンカとは一線を画すのは当たり前のことだった。そこに瞬時に気が付かなかったネネは無様にも次の瞬間、ハナによる手痛い一撃を受けることとなる。


「はぁッ」


 ハナはアッパーカットを繰り出す。ネネは両肘で受け切るつもりであった。その辺の人間ならネネが逆に相手の拳を砕いていただろう。だがハナの拳は鉄だ。


「ぐあっ」


 思惑通り肘にハナの拳が当たるものの、手ごたえどころかこちらの腕が悲鳴を上げている。こんなにも重い一撃は初めてのことだ。記憶が無くなる前は知らないが。とにかくネネには彼女のアッパーを防ぎきれないのは明らかである。

 ハナの拳はネネの防御を己の力と頑丈さだけで突き抜けようとしてくる。やがて構える腕のさらに内側に入り込み、そのままネネの顎をカチ上げた。


「がっは」


 防御などまるで意味がなかった。それを上回る圧倒的な力で押し切ってきた。顎にアッパーを受けたネネは体が一瞬だけ宙に浮き、そして仰向けに倒れた。


「ネネ!」


 心配して大声を上げる拓海。だが今はその声がうっとおしい。先ほどから頭へのダメージが大きい。頭痛が酷く、ガンガンする。視界がじんわりと歪み、確実に痛い目に遭ったのだとネネは理解した。ハナは遠慮することなく殴り抜いたのだ。先ほど手加減すると言ったばかりだがそれを疑う威力だ。


「これ以上やってもいいことないし、もう終わりにしない?」


 ハナの言葉は力の差によるドクターストップのようなものか、それとも単に飽きたのか。これ以上やる意味が感じられずそう言ったのは間違いない。


「ナメんな、よ!」


 啖呵を切りネネは立ち上がる。まだ気力を失っていない。ここまで一方的に殴られているものの、この期に及んで勝機がどこかにあると信じているからだ。


「はぁ」


 誰にも聞こえるようなボリュームでため息をつくハナ。彼女は何度もネネに戦いを止めるよう言ってきた。ここまでネネが粘るとは思いもしなかったのだ。だからこそ次で終わりにしなければならなかった。ハナの体力は全く問題ないものの、対するネネの体はボロボロだ。特に後頭部へのダメージが大きい。これ以上やりあえば病院送りは免れない。


「ネネ、本当に終わりにしないと死んじゃうかもよ」

「うるせぇ! あたしは負けねぇ。絶対にテメェをぶちのめして膝に土つけてやる」


 言いながらネネの頭から血が流れる。それを手の甲で拭く。決して軽いケガではないことは本人にもわかっていた。


「もう! いい加減にしてよ! 殺すよ!」

「やれるもんならやってみやがれ()()()!」


 ついにネネは彼女の一番気にしている箇所をバカにした。それはハナにとってネネを確実に病院送りする覚悟をしたことになる。頭に血が昇り、視界が狭まる。


「なりたくてなったわけじゃないし! もう怒ったから!」


 ハナは拳を合わせる。激しい音を立てて火花が散った。近くで見ていた拓海は顔を引きつらせる。彼の頭には嫌な予感がよぎっている。ネネが死ぬかもしれない、と。

 ハナが駆けた。お互いの距離は近い。三歩も進めばぶつかり合うような距離だ。

 ネネはその場から動かなかった。動けないわけではなく、あえてそこから動かないのだ。集中し、反撃のチャンスを伺う。猪突猛進で向かってくるハナの動きは直線的だ。どこかに隙があるはずだ。

 ハナの右手が突き出してきた。ストレートだ。鉄の塊が飛んできているようなものだが頭を振ればかわせる。

 だが自身の頭へのダメージが大きく、下手に揺らせば立っていられない可能性が高い。思っているような動きができないと直感で判断したネネは、己の右拳をハナの拳に素早く当て軌道を変えた。

 これで戦いが終わったわけではない。お互い次がある。ハナが再び左手を広げてネネの顔の前にやる。またしてもハナの姿が見えなくなる。

 二度も同じ手に引っかかるほどネネは間抜けではない。目の前にある手、それはつまり無防備であることを意味している。次の攻撃までのつなぎに過ぎない。だからネネはそこを狙った。


「甘いッ」


 ハナの左手を掴み姿勢を低くして背を向ける。ネネはそのまま背負い投げをするつもりだ。挑発され、冷静さに欠けてしまったハナはあっさりと床に背中を叩きつけられる。


「ぐっ」


 とっさに受け身を取ったハナは、そのおかげでそこまで痛手にはならずに済んでいた。しかし受け身を取るということはネネに掴まれていない方の手、つまり右手を床についてしまっている。


「オラァッ」


 ネネはハナの右手を力いっぱい踏みつけて手首を傷つける。金属なので手ごたえを感じられなかったが、ネネの無茶な動きに掴まれていたハナの左手は激しく動かされ、金属化していない二の腕から肩にかけて筋肉へのダメージが発生した。


「あぐっ」


 思わず顔をしかめるもハナは冷静にネネの動きを目で追う。彼女はハナに対して手のひらを向けていた。マネをしているのか、そう思ったハナはまだまだ元気な右手を動かしてその手を掴んでやろうとした。


「————————むぐっ!」


 突然息が詰まる。それどころか完全に何も見えなくなってしまった。想定外の事態にハナの頭の中は真っ白になる。視界と呼吸を制限されれば誰にでもなることだ。

 ネネはハナの視界を塞ごうとして手をやったのではない。彼女の頭を掴むためなのだ。小顔のハナの頭は簡単につかみ上げることができた。


「ぅうううおおおおあ!」


 左腕と頭を持ち上げ、ハナに抵抗されるよりも早くその体を大きく振り回した。ジャイアントスイングは両足を持ち上げて行うものだが、今回は相手の頭と片腕で行ったので技には全くなっていない。ただのケンカなので相手を痛めつけられれば技が決まっているかどうかは関係ないのだ。

 真後ろまでネネは力任せに振り回し、たまたまそこにあったフロアの支柱にハナが激突する。防御する間もなく脇腹をもろにぶつけ、その場に落ちた。


最近夜遅くまで起きていられない。昔はできたのに。

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