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第百五十話

 クレイの心臓が跳ねた。サレンに人造人間であることは知られていても、それが最新の人造人間だとどうやって気づくのだろうか。サレンが自由に歩き回っていたあの時代、今では初期型と量産型と呼ばれる人造人間たちしか存在していなかった。クレイ自身がその証明をすることができる。


「なぜ、そう思うのですか」

「なぜ? なぜだと言うか。おのれの乳を揉んだときに書いてあったじゃろう」

「あ」


 言われてクレイは気が付いた。人造人間の識別番号は新型であろうと刻印されている。あまり人前に見せられるような場所に記されていないので、サレンが知った経緯を思い出して顔を再び赤くして目を伏せた。


「ほれ、右の乳の……」

「言わないでください!」

「大きな声を出すな。驚いて殺すかもしれんぞ」


 実際に殺すつもりはないと、サレンの顔には書いてある。


「新型というのが正しい言い方かどうか知らんが、まあいいじゃろ。なにせ自己再生が可能なぞ限られておったからの。これはすごいことじゃ。いずれ世界征服を企む輩が現れても不思議じゃないのう」


 彼女は楽しそうに笑うと、すかさず次の質問を飛ばす。


「ところでじゃ。クレイとやら。ネネは今どうしておるかの?」

「ネネ、ですか……?」


 サレンの言うネネとはおそらくクレイの知るネネで間違いないだろう。

 人造人間ナンバー9『白銀ネネ』。過去に起こした出来事は、現在は人造人間たちの間では伝説と称されている。クレイは当事者ではないのでそうだとしか聞いていないが、内容を聞く限り数多くいる人造人間の中でも最悪の連中の一人に違いない。


「そうじゃ。ネネの安否が知りたい」


 情報によれば、サレンは相当な時間をネネと共に過ごしてきたという。彼女にとってもはや家族を超えたものなのだろう。そしてそれは、クレイとフェルンのような14年ちょっとの期間では太刀打ちできないほどの深くて強い、決して切れない絆なのだ。

 だからこそ、クレイは現在のネネを話しにくかった。ありのままに伝えればきっとサレンは落ち込むだろう。やけになって再び暴れ出して、今度こそクレイを消し飛ばすかもしれない。


「なぜ黙る」

「あ、いや」


 命に関わる考え事に時間をかけすぎたようで、サレンはいら立ちを見せた。


「言っておくがあいつは死なん。適当な嘘抜かしおったらわしはお前を許さん。そこをわきまえるんじゃ」

「はい」


 はっきり言って、クレイはサレンが怖かった。精神を病み、そして力もある。クレイが嘘をつかないとしても、事実を告げられたらきっと彼女は落ち着いていられないかもしれない。


「わかったわい。そんな言い渋るということは、ネネになにかあったんじゃな?」


 クレイが何も話していないのに、段々とサレンは核心に近づいていく。


「約束する。わしはお前を傷つけん。絶対に。だから事実を言え」


 サレンの目はしっかりとクレイのことを見据えており、純粋に事実だけを知りたいという気持ちが見て取れた。おそらく嘘をついてもすぐわかる。人という存在から離れていた時期が長いと何もかも違和感を覚えてしまうのだと、クレイは組織から学んだ。だからネネに関する事実を正直に述べることにした。


「ネネさんは、元気にしています」

「おお、よかった」

「ただ……」

「あ?」


 ここから先を言うのが怖い。言葉を発するだけなのにどうして命がけになるのか、そんな理不尽に少しだけ悲しい気持ちになりながらもやけくそ気味に続きを話す。


「現在、彼女は記憶喪失です」

「なん……じゃと……」


 サレンの顔つき、目つきが変わった。頭が真っ白になったのがすぐにわかった。これからどうなるかまったくもってクレイにはわからない。

 そのとき、二人から少し離れたところで足音がした。フェルンだった。クレイとサレンはそちらを見ると、彼女の手にはリュックサックが握られていた。


「お待たせしました!」


 汗をかくフェルンはすでに服を着ていた。この島に来た時と変わりない彼女のお気に入りの格好だ。


「おう、思ってたより早かったのう」


 そう言ってサレンは手招きをした。クレイは立ち上がり、フェルンと共にサレンの前に並ぶ。


「遅かったじゃない」


 フェルンに耳打ちすると「本当はもうちょっと早く来れたんだけど」と言った。


「カルル君に見つかっちゃって……」


 フェルンの目が遠い所を見ている。カルルは組織の仲間だが、性格が悪く、特にフェルンのことを日ごろからいじめている。おおかた急いで洋服の準備をしている間ずっと何かしら嫌味を言われていたに違いない。クレイはそんな光景が目に浮かんだ。


「気にしないで。ただの寂しがり屋だから」

「おう、何こそこそ話しとんじゃ。わしの話が終わっとらんのじゃ」

「え、話って?」


 フェルンはまだわかっていない。クレイがまずいことを話してしまったことを。いつかは知ることだが、サレンが知るのはもう少し後の予定だった。時事ニュースを伝えるだけのつもりが、サレンのネネに対する気持ちが予想以上に強かった。


「もしかして、ネネのこと?」


 クレイは黙って頷いた。


やっと話が動き出しそうですね。

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