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第百四十五話 イントロダクション

ついに始まりました、第4章!


 太平洋上空。






「ネネぇええぇぇぇえぇ!」


 少女の悲痛な叫びは空気の流れにかき消され、決して相手に届くことのないものとなる。人造人間ナンバー5、『サレン』は戦いに負けて遥か上空から叩き落された。徐々に遠ざかる軍用機の機内にはネネがいて、その目はすでに何も見ることはない。なぜなら彼女の頭には巨大な鉄筋が突き刺さり、立ったままの姿勢でありながらすでに死亡しているからだ。ぐるんと白目を剥いたその瞬間が脳裏に焼き付いた。


「うあああああああ」


 流す涙も風に流されて吹き飛ばされる。どれだけ悲しくても、もうすでにやり直すことはできない。

 重力に逆らえず、サレンはどこかの大地に背中を強く打ち付け、おびただしい量の吐血をしながら、それでもなお衝撃は死なず、何度も何度も体は大地を跳ねてやがて『着水』した。


(あっ、あああっ、熱、あぢ、あああああ)


 猛烈な熱に体を焼かれ、声を出そうとするも口の中に入ってくる粘度の高い物体のせいで息すらまったくできない。喉の奥にそれらは容赦なく滑り込み、内臓を焼いて破壊していく。

 サレンは運良く海面に落ちることはなかった。しかし運悪く落ちた先が火口だというのはあまりにも悲劇であった。

 気が狂いそうなほどの熱に体を壊され、それでも自己再生によって死なない程度に生きながらえる。窒息死したとしても自己再生で蘇り、そして終わらない大やけどを負い続ける。ショック死してもなお、変わらぬ灼熱地獄がサレンを襲う。

 どれだけ経ったのだろうか。痛いとか熱いとか、そんな感覚をとうに忘れ、彼女の意識すら溶けかけていたころ、サレンは噴き出したマグマから偶然にも抜け出すことができた。

 それから一週間、壊れかけた精神と満足に動けない体のせいでその場でとどまるだけだったが、ふと自分がなぜここにいるのかを考え、ようやく手足の先端程度ならば動かせるようになった。


「げ、げがっ、が、え、ねッ、ネネ……!」


 大切なその人の名前を呼び、空を見上げる。太陽の光が眩しい。雲はまばらに存在し、穏やかな風が彼女の頬を撫でた。

 サレンが落ちた軍用機の姿などあるはずもなく、ただ晴天の空が事実を突きつける。なにもかも手遅れなのだと。

 左手になにかが触れる感覚があり、渾身の力を振り絞り首を動かしてそちらを見る。海鳥だ。サレンのことを死んだばかりの死体だと勘違いしているようで指の肉をついばんでいた。

 サレンは寝たままの姿勢で海鳥を追い払おうと能力を使う。彼女の能力は『風を操る能力』。空気の流れを変えて微風から殺人まで自在にこなすことができる。海鳥はサレンのことを死体だと勘違いしているのだから死なせる必要はない。ちょっとだけ脅かしてやるつもりで手のひらから風を発生させた。

 だがその風は異質だった。


「……あ?」


 サレンにはどうしてもそれが風に見えなかった。爆音とともに晴天の空に昇る小型の()()()()が、サレンの手のひらから発生した。


(なにこれ……、なんだこれッ……!)


 自身の知らない能力に、サレンは驚愕した。灼熱の炎が海鳥を丸焼きにして、制御不能の力がやがて海鳥のことをどす黒い消し炭へと変化させて吹き飛ばした。


()()()()()()()()()()()!」


 風のみを発生させるはずの能力が変わっている。長年生きてきてこのような出来事は初めてであった。サレンは驚きを隠せなかった。しかし今までのことを思えば心当たりはある。火口で散々熱い目に遭った。体がそれに適応しようとしたのならばこれはありえなくもない。信じたくはないが、サレンの能力は別物になってしまったようだ。

 辛い出来事ばかりで、いつの間にかサレンの目には涙が溜まっていた。それは頬を伝って火山岩に落ちた。

 体全体を動かせるまでまだ時間がかかりそうだったので、サレンはもう少しだけ泣いていることにした。もう熱いのは金輪際ごめんだと呟きながら。






 サレンがようやく満足に体が動かせるようになったのは、それから数日が経過していた。


「ごっ、こ、ここは……?」


 喉がまだ焼けている。自己再生もあてにならないと思いながらサレンは辺りを見回す。正面には大海原。穏やかなものだ。背後には活火山。これが憎くて憎くて仕方がない。

 さてここから見えない火山の向こう側はどうなっているのだろう。町があってなにかしらの移動手段があるかもしれない。服と所持品はマグマの熱で溶けてなくなってしまった。取引できるものはなにもない。だから殺してでも盗んででもここから移動する。全裸だろうがやるしかない。ネネを探しにいかなければ、ここでじっとしていても意味はない。

 サレンはふらつく体に鞭を打ち、久方ぶりに立ち上がると火口に沿って反対側を確認する。





 やがて見えた火山の向こう側。





「あ、ああ……」





 そこでサレンは絶望することとなる。





「そんな」


 反対側も海が一面に広がっていた。この島は、まさしく火山しかない無人島だった。


「……う、……うわあああああああ!」


 頭を抱え、膝をついて空に向かって絶叫するサレン。連絡手段もない。人もいない。海しか見えない。ここから逃げ出す術がない。


「ああああああああああああねねええええええぇぇぇッ」


 彼女の心は今ここで、完全に壊れてしまった。


長いお話になりますので気長にお付き合いください。


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