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第百四十三話

コミュ障バックリーと性格だけはいいスコット。そして謎の女リリア。

「そんなわけで俺とバックリーで毎晩毎晩フォークリフトに乗って作業してるわけよ」

「へぇ、すごいわね」


 スコットが一生懸命仕事の話で場を盛り上げようとしているが、いまいちリリアの反応が良くないように見える。


「リリアさん、どうしたんだ、元気がないようだが」


 言って、バックリーは気が付いた。今の時刻は午前二時半であり、自分たちもだがおそらくリリアも仕事明けなのだ。誰もが疲れている。


「ちょっとね、上司からきつく怒られちゃって」

「そうきたか」

「どういうことかしら?」

「てっきり疲れているもんかと思ってさ」

「疲れてるに決まってるわよ。ここ最近まともな食事をしてないから、お腹だってとても減ってるし」

「食べてないのか。だったらここの卵サンドはおすすめだぜ」


 気遣うとともに相手のことをよく知れる手掛かりを得た。上司になぜ怒られたのか。そもそもどんな仕事をしているのか。話のネタはいくらでもある。


「どんな仕事してんだ? 教えてくれよ」


 リリアが卵サンドを注文するとスコットが間髪入れず質問した。もう少し間が必要だろうとバックリーは思ったが何も言わなかった。


「私?」


 仕事について質問されるとは思っていなかったのか少しためらい、視線をあちこちに泳がせる。そんな彼女の仕草がかわいらしくて、バックリーとスコットの二人は胸の高鳴りが止まらなかった。


「私はカメラマンをしているの。フリーランスだけど」

「カメラマンなのか! すげぇな」


 スコットがべた褒めするがきっと彼は何も考えず言葉にしているだけだ。


「あ、そうだ! ここで会ったのも何かの縁だし写真撮らせてよ」


 そう言ってリリアは肩から下げていたカバンをカウンターの上に置き、中から一眼レフカメラを取り出した。彼女の小柄な体型に合った小型のものだ。


「お、いいぜいいぜ! 最高の笑顔しちゃうぜ」


 元気が取り柄のスコットとは違い、バックリーは写真を撮られることに少し抵抗があった。笑顔があまり得意でないだけなのだがそれで大丈夫なのか心配だった。


「ほら笑って!」


 ぐいっと肩を寄せてくるスコットと硬すぎる笑顔のバックリー。リリアは笑顔が足りないと見えたようでそんなことを言ってくる。


「あ、こいつはこれが最高の笑顔だから!」

「なるほどね、じゃ撮るよ!」


 スコットのフォローにより写真撮影は無事終わり、そのタイミングで注文していた卵サンドが運ばれてきた。


「ところでさ、ちょっと気になってることがあるんだけどいいかな」


 少し前からバックリーには気になることがあった。


「ん? いいわよ」


 コーヒーを飲みながらこちらに顔を向けて二つ返事をするリリア。卵サンドには手を付けていない。


「リリアさんはフリーランスのカメラマンをしてるんだよな?」

「そうよ。世界を回っていろんな写真を撮ってるの。たくさん写真を撮って、その中で買い取ってくれそうなものを会社に売っているのよ」


 フリーランスのカメラマンの仕事内容くらい、二十五歳まで生きてきたバックリーは知っている。学はなくとも知っているからこそちょっとした矛盾に気が付いたのだ。


「アメリカに来たのは三回目かしらね。ニュージャージーは初めてよ。いいところでよかったわ」


 違う、そんな話を聞きたいわけじゃない。矛盾を解消しない限りバックリーの胸のもやもやは晴れない。


「そうか、そう言ってくれると嬉しいね。俺たちの地元だからな」

「で、聞きたいことは終わり?」


 コーヒーカップをカウンターに置き、リリアは前を見る。コップの中は空だ。


「いや、これからなんだが、さっき上司に怒られたって言ってたよな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 誰にも縛られないからこそフリーランスと名乗っているはずだ。だというのに上司がいることにバックリーは納得がいかなかった。もしかしたら彼の勘違いで間違った知識を披露してしまったのかもしれないが、とりあえずそこは正しくしておきたかった。


「あー、言われてみればそうね。()()()()()()()()()()()()


 なにやらリリアの様子がおかしい。空腹で彼女の腹が鳴っている。卵サンドにはまだ手を付けていない。


「ごめんね、もうお腹が減って頭が回らなくて。もう何日も食べてないの」


 彼女は目を閉じる。空腹の音が止まらない。

 今の時代、何日も食べないなんてどう考えてもまともではない。フリーランスの仕事とはそこまで貧乏生活を強いられるものなのだろうか。


「おいおい別にお話し中は食べちゃダメって法律はないんだぞ。誰も盗らないから早く食べなよ」


 心配になったスコットが彼女の目の前にある卵サンドを指さす。


「……ダメ」


 今日に妙な臭いが辺りを漂い始める。これは動物の体臭だ。ダイナーはペット入店禁止なのでこんな臭いがするはずがないのだ。


「ダメってなにが?」


 昔から鼻が馬鹿なスコットはまだ気が付かない。それともバックリー自身がどうにかしてしまったのだろうか。


「こんなもの、私のご飯じゃない。私が食べたいのは、本当に食べたいのは……」


事件が起きる……!

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