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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第三章 恋する薄明光線と冷たい天使
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第百二十九話

一方そのころ、ハナはというと。

 時は遡り、ネネと光明が戦うより少しだけ前のこと。


「ここかしらね」


 六条ハナは車を止め、降りてからそう言った。

 ハナはネネと別れた後、ある場所に向かった。光明が通う大学からそう離れていないところにある四階建てのビル。各階にはそれぞれの企業が入っており、その中に目的の団体がいた。


「こんなところに隠れてたなんて、わかんなかったわ」


 ハナはためらうことなくビルに侵入し、階段を昇っていく。この時間なら無関係な人間はおそらくいないだろう。ある程度騒ぎを起こしても短時間なら好き放題できる。

 昼間に光明に見せてもらった写真を見なければ、ここまでの大仕事にならなかった。手間とすり減らす精神は先月の24区の件に比べればそうでもないが、やはり犯罪を行うのはいつまでたっても気持ちが穏やかではない。


「顔を見られたらマズいかな」


 ハナは能力を発動する。彼女の能力は『機械化する能力』。想像力さえあれば自分の体をどこまでも機械化させていくことができる。ハナはまず口元を覆うマスクを作り出し、自分の表情をわからなくした。


「まるで強盗ね」


 光明の写真に映り込んでいた女の顔をしばらくは忘れられないだろう。ネネにとっても因縁のある人物で、きっとこの場にいたらビル丸ごと倒壊させるまで暴れるはずだ。だからネネには光明の説得に当たってもらった。ハナの方が説得は得意で穏便に済ませるだろう。実際、ネネも反対していた。こちらの荒事のほうが向いているとごねた。だがここまでたどり着くためにはハナでしかできない芸当を行う必要であった。


 光明の携帯電話はかなり昔からハッキングを完了している。本人の了承なしというのは秘密だ。彼がどこの誰と連絡を取っているのかイガラシクとしては知る必要がある。


 こんな時間になってしまったのには理由があった。あの女の居場所を掴むために、彼が女と連絡を取るまで待機しなければならなかった。電波のやり取りを追えば相手の位置がわかる。ハナの能力だとそれでやっとトラッキングが可能になる。イガラシク本部の機材を使えばもっと早いが、いかんせん機材はそのものの準備に時間がかかってしまう。こちらのほうが総合的に早かった。


「さあ、ご対面といきますか」


 一度深呼吸してからハナは三階のオフィスのドアを蹴り破った。


『なんだ……!』


 オフィスとは名ばかりで、中には数人の男たちがそれぞれタバコを吸ったりテレビを見たりしていた。中にはナイフや拳銃などの凶器の手入れをしている者もいる。その全員がハナを見て、彼女の異様な佇まいに驚いた。マスクをした少女が一見して丸腰で殴り込みに来たなら誰でもそうであろう。


「中国語?」


 男がつい口にした言語を理解し、ハナは中国語でこんばんは、と言った。


『テメェ何者だ』

『こいつまともじゃねぇ、叩いちまえ!』


 男たちは武器を手に取ってハナに襲い掛かってきた。


『お話できる感じじゃないわね』


 ハナも男たち相手に怖気づくことなく戦闘を始める。


 一番手前でタバコを吸っていた男はポケットからメリケンサックを取り出し、装着してから殴りかかってきた。ハナはそれを受け流し、隙だらけの顎に一撃入れる。自分の体重もあって男は昏倒し床に倒れた。


 次に殴りかかってきた男は素手であった。ハナが何をするまでもなく、ただ殴られた。男のはあまりに速いパンチというわけではなく、それで無力化させられる算段だからだ。ハナの顔面に拳がヒットする。痛々しい音がして男が悲鳴を上げる。鋼鉄を思い切り殴ればただでは済まないだろう。自分の手の甲から飛び出た骨を見た男はパニックになりその場から動けなくなってしまった。


 次は二人同時に襲い掛かってきた。それぞれが警棒のようなものを持っている。だが殴りかかってきたのは片方だけでもう一方はやや遅れている。そこを見逃さず、ハナは最初に殴ってきた男の腕をつかみ引き寄せる。それで遅れた男による攻撃を受け、片方が無力化。仲間を殴ってしまったショックを受けた男の首を掴み、近くのテーブルに叩きつける。ガラス製のそれは激しい音を出して割れた。まだ男は立ち上がりそうだったので顔を蹴りつけ意識を飛ばす。


 続く男は体が大きかった。よほど鍛えているのか胸板も恐ろしく厚い。両腕は丸太のように太く、力くらべは遠慮したくなるほどだ。ネネなら楽勝で勝てる相手かもしれない。


『ファックしてやるぜ、嬢ちゃん』

『やれるものならね』


 ハナには力はなくとも技術と経験がある。

 大男が腕を振り上げる。威圧感が凄まじい。壁と対面しているような気分だ。その腕が振り下ろされたらきっと床にだって穴を開けられるだろう。


 だが大男の下半身は貧弱だった。威圧のためにひたすら上半身だけを鍛え続けたのだろう、鶏のように細く貧相な足腰だ。ハナは大男が仕掛けるよりも前に彼の膝へ回し蹴りする。いとも簡単にありえない方向へ折れ、大男は崩れ落ちて泣き始めた。


『見掛け倒しもいいとこだわ』


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