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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第三章 恋する薄明光線と冷たい天使
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第百二十七話

 背後からの声に光明は思わず振り返り、そして驚愕した。


「くくっ、ああ、やるじゃねぇか」


 たった今殺したはずのネネが、残酷な再生音と共に起き上がっているではないか。

 争いの日々とは無縁だったがためにすっかり失念していたが、ネネのような初期型の人造人間には固有の能力以外にも共通の自己再生能力が備わっている。初期型と対面したことがないせいでこんな大切なことが抜け落ちていた。


「ああ……」


 光明はネネが生きていたことで安堵し、そして死なないことで絶望した。


「何ビビってんだよ。今のは効いたぜ。あたしとしたことが殺られちまった」


 立ち上がり、己の傷跡を確認するネネ。表情を変えないことから傷口はすっかり治っているのだろう。


「だからよ、次は油断しねぇ。テメェの『光を操る能力』にはな」

「なんで……!」


 光明が言い切るよりも早く、ネネは駆け出して彼の体に体当たりした。非常階段の扉を破壊して二人は階段を勢いよく転がり落ちていく。踊り場の壁に後頭部を強打した光明の目がチカチカする。瞬きすらする前にさらにネネが追い打ちとして光明の胸倉をつかみ、放り投げる。手すりに背中を打ち、バランスも取れないままさらに下へ落ちた。

 一瞬ながら自分の死を覚悟した光明の体は下の階の扉にぶつかる。


「がはっ」


 息ができない。無慈悲すぎる猛攻に心が折れそうだ。このまま戦っても勝てないかもしれない。

 ネネは光明の能力を知っていた。おそらくハナによって知らされたものだろう。イガラシクには自分の能力を公表してある。なんの不思議もなかった。

 つまりところ、光明はネネの能力を十分に知らないまま不利な戦いを強いられていることになる。ネネが伝説と呼ばれた人造人間なのは知っている。しかし知っているのはそれだけだ。彼女の能力は何かと聞かれても答えられない。


「チンタラしてんじゃねー」


 階段上からネネによる飛び蹴りが炸裂する。光明の胸に当たり、さらに扉ごと彼をその階のフロアへ押し込んだ。

 世界が上下交互に入れ替わりながら硬い床の上で大の字となっていた。無機質な天井が不愛想にこちらを見ている。



(やばい、死ぬ)



 頭のどこかが切れ、血が髪の毛の間を流れ落ちていくのを感じながら、光明はそう思った。

 本気で殺しにかからなければ、ここで殺されてしまう。ネネのあの容赦のない感じからきっとうっかり殺してしまうかもしれない。どうしてあそこまで遠慮なく他人に暴力を触れるのだろうか。あの女はどこかおかしかった。少なくとも正気のふりをした異常者だ。


「おら、気持ちよく寝てんじゃねぇぞ」


 ネネがこちらへ歩み寄ってくる音が聞こえる。これ以上は耐えられない。やられる前にネネのことを無力化するしか方法が思いつかなかった。


「もう限界だ」


 だから光明は立ち上がる。ネネを殺すために。


「やる気か。上等だぜ」


 光明は口の中の血を吐き捨て、ネネのことを睨みつける。


「イガラシクに恨みはなかったが、お前の対応だけは許せない。この常識知らずのイカレ女め」

「なっ、そんなつもりじゃ……」


 動揺したネネは大きな隙を作った。ここを攻めなければ次はいつチャンスが来るかわかったものではない。遠慮することなく光明は能力を使った。


「どうせ死なないなら手加減はしない」


 光明がぼんやりと姿を薄くさせて、そこにいたはずの彼の姿かたちがすっかり消えてしまった。


「これは……」


 驚くネネをよそに、光明は足音を立てることなく彼女のそばまで移動する。消火器を手に取り、振りかぶる。

 光の力を使って相手を焼き切るだけが彼の能力ではない。屈折率を任意に変え、相手の視界から完全に消えることだってできる。ただし光明の実力不足のために、消えたように錯覚させられる相手は一人のみとなっている。だが今はそれで充分だ。


(くたばれ)


 一つの呼吸もせずに消火器を振り下ろした。頭に当てて昏倒したところを何かしらの方法を使って無力化するつもりだ。どうするかは後で考える。




 しかし、ネネの頭に命中することはなく、むしろ彼女は消火器を片手で受け止めた。




「なんで……!」


 思わず声が出て、光明は姿を現す。これだけ完璧な透明人間になれたというのに、ネネはいともたやすく消火器を受け止めた。もちろん消火器だって見えないように処理した。


「甘いんだよ。この前戦った奴の方がよほど見えなかったぜ」


 ネネの掴む手に力が入り、消火器の容器に指が食い込んだ。直後、封じ込められていた圧力が解放されて二人の間で化学物質が激しくばらまかれた。

 光明は慌てて手を放し、あとずさる。直後、彼の鼻先に風を切る音がして冷や汗をかく。たった今彼がいたそこに、ネネの何かしらの攻撃が空振りした音だ。あの爆発があってなお、ネネはひるむことなく仕掛けてきた。続いて破裂した消火器が白煙の向こうから飛んできた。なんとか、本当に危なげにそれをかわす。


「くっ」


 先ほどからしかめっ面の光明にはどうしようもなかった。人造人間ナンバー9『白銀ネネ』に対して恐れおののき、恐怖して、そしてのらりくらりとぎりぎりのところで生きていくのが精いっぱいだった。


うわネネつよい

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