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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第三章 恋する薄明光線と冷たい天使
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第百二十四話

ここから北神光明くん視点のお話になります。

 その日の夜。光明は昼間の友人たちに誘われて駅前の中華料理屋で飲んでいた。この街は学生が多いということで飲み屋も必然と多い。光明とその仲間たちは特にこの店が好きだった。学生の身分には嬉しい、安くて量のあるチャーハンを食べ、ぬるいがやはり安いビールを飲む。これで千円しないのだから常連にならないほうがおかしいというものだ。


 世間的には二十歳を越えた青年ということで飲酒に関して問題はなかった。実年齢も彼の友人の倍以上生きているからより問題はない。


「おい光明、飲めよ!」


 友人の一人が光明に酒を勧めた。彼の前には口のつけられていないビールジョッキがある。それを見て友人が言ったのだ。


 光明は昼間の出来事を思い出していた。ネネという名の人造人間と昔からよく知るハナ。彼が意を決して写真を見せた時の二人のあのリアクション。光明の美的センスが狂っていないのであれば好きな後輩のあの子は世間的に美人であることは間違いない。確かに性格に難はありそうだが、それはまだ若いのであっていずれ治るものだ。まさか二人があの写真だけで彼女の性格を見抜いたわけもあるわけもなく、ならばもっと別の理由があるはずなのだ。


「ああ」


 深く考えるのはいいが、今ではない。光明はジョッキのビールを一気に飲み干して乱雑にテーブルに置く。


「おお、やるじゃん」


 周囲から歓声が上がる。一気飲みは体にいいものではないが、敬意は得られる。特に頭の悪い大学生辺りからは絶賛されるものだ。


「いいよなぁ、光明は。それで全然酔わないんだろ?」


 仲間の一人がぼやく。


「俺は酒に強いからな」


 酒に強いのは本当だが、実際のところは違った。体のつくりが人間とは全く違う。人造人間は代謝が異常なまでに悪く、それが長寿の原因の一つとされている。だがただ代謝が悪いのならば摂取したアルコールは長い間体内に残り、ずっと酔っぱらうはずだ。光明がそうならないのはまた不思議なところで、体が異物を拒絶し、アルコールのような危険な物質に関しては速攻で分解してしまうのだ。つまるところ人造人間が酒を飲むと一瞬の間に酔っぱらい、そして覚めるだけだった。それが普通の人間から見ればただの酒に強い人間に見える。酒に酔うことができないも同然なので酒の席はあまり楽しくないのが難点であった。


「ところでよ」


 一人が酒をちみちみ飲みながら光明へ話しかける。光明もビールのおかわりを注文してから彼を見た。


「昼間のあの女達、どういう連中なんだ」


 ネネとハナのことだ。やはり誰も一度も見たことのない人間と話をするのは無理があったようだ。次から大学の外で会うべきかもしれない。


「だから言っただろ、同じ講義を受けてただけだって。それともなんだ、お前はナンパもできないのか?」

「うるせぇな! 俺だってナンパくらい楽勝だっての。俺が言いたいのはもっと別のことだよ」


 注文したビールがテーブルに置かれる。


「別のこと?」

「あの二人はなんか普通じゃないっていうか、俺たちと同世代に見えないんだよな。顔つきが大人びてるのか、いや、違うな。雰囲気がその辺の女とは違うんだよ」

「お前、一目惚れしたのか」

「違うっつーの! 気になるだけだって。今でもずっと頭から離れないんだよ」

「世界はそれを恋と呼ぶんだぜ」

「うるせぇ」


 こんなやり取りはいつも通りで、そして楽しい。光明は軽口を言い合える仲間がいて本当に良かったと思った。


 しばらく飲み会は続いたが、明日は休みとはいえそれぞれの予定があるので今日の飲み会は解散となった。大学寮に住む光明は帰りの電車を逃してしまったので歩いて帰ることにした。どうせ一駅分の距離なので辛くもなんともない。


「そうだ、あの子は元気してるかな」


 ポケットからスマホを取り出してメッセージアプリを起動する。連絡先一覧を開いて光明の気になる後輩へ連絡してみた。


『やっほー、元気?』


 送信してから気がついたが、現在時刻は電車が終わるほどの遅い時間だ。だいぶ失礼で常識知らずな行動を取ってしまい、光明は本気で頭を抱えた。


「やべぇよ、やっちまった」


 もしかしたら寝ているところを起こしてしまって嫌われるかもしれない。次からどんな顔をしてサークルに行けばいいのだろうか。いや、あの子がサークルに来なくなってしまう可能性だってある。どうやら光明はまだ酒に酔っていたようだ。恋愛と酒は同時にしてはいけないことなのだ。


「あれ?」


 光明のスマホのバイブレーションが作動し、何か通知が来たようだ。彼は再びスマホの画面を見る。


『いきなりなんですか』


 彼女から返事が来た。きつい言い方のように見える。これはいよいよ嫌われてしまったのだと思い、光明は大きなため息をついた。ちょうどすれ違った深夜の犬散歩をする中年の男がちらりとこちらを見た。


『夜遅くにごめんね、ちょっと話したくなっただけ』


 いつも通りのノリでさらに返事をする。


『なんかあったんですか』


 ぶっきらぼうな言い回しだが、無視せずにきちんと返信してくれるあたり、もしかすると、もしかするかもしれない。


『なんにもないんだけどね(笑)』

『なんにもないんですか』


 それにしても、彼女は返事がとても早い。常に携帯の画面にかじりつくように見てなければここまで早い返事はできないだろう。光明は心の中で希望の光を抱く。


『俺さ、前から思ってたことがあるんだけど』


 なるようになれ。光明は思い切って告白することにした。相手にとっても自分にとっても急だが、たまには勢いというものが正解であることもある。と、以前友人が言っていた。


『なんですか』


 光明の心臓がどきどきと高鳴る。すでにメッセージは打ち込んである。後は送信ボタンを押すだけだ。


「頑張れ俺。やるんだ」


 迷えば迷うほどためらいが生じる。あと数秒迷えばきっとこちらから話を打ち切って終わるだろう。だから光明は思い切って送信ボタンを押した。


『君のことが好きだ』






『先輩』

 短い返事が来た。光明の心臓は爆発しそうだ。

『今から先輩の家に行ってもいいですか』



おやおやおやおやおや

酒の勢いで告白はやってはいけないのですよ。

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