第百二十二話
今章のメインキャラクター『北神光明』登場!
そこにいるのはこの場においてなんの違和感のないいたって普通の青年。黄色のパーカーを羽織ってリュックサックを手に持ち、空いた手を上げてあいさつしてきた。
「ああ光明君、久しぶりね」
ハナが言う。この毒気のない一般人だと思われた人物こそが人造人間だということになる。今まで出会った人造人間たちはどこか影と危険な雰囲気を持ち合わせていたのでネネは拍子抜けした。
「なんだこいつは。ウチの学校のクソガキどもにだってやられそうな奴じゃねぇか」
「人造人間がみんな戦うとは限らないんだよ」
光明は言いながら空いている椅子に腰かけて荷物を床に置く。人造人間という単語を知っているだけですでに身分を証明したようなものだから、彼は間違いなくネネたちと同じ存在なのだ。
「ええと、ハナさん、こちらの方は?」
光明はリュックからペットボトルのお茶を取り出して飲み始めた。ジャスミン茶だ。
どんどん生徒たちが増えてきたせいか、この階の室温が上がって暑苦しくなってきた。ネネも何か飲みたい気分だった。
「この目つきの悪いのがネネ。名前くらいは聞いたことあるんじゃない?」
ハナが紹介したとき、光明が噴き出した。口の中のジャスミン茶が霧状になってネネ達に降りかかる。
「うわ汚ねぇ!」
慌ててネネは液体をふき取る。
「え、ネネって、ええ!」
目を丸くして彼はネネのことを見る。次にハナの方を見てこれは現実なのかと言いたげな表情をしてからもう一度ネネを見た。
「なンだよ。じろじろ見たってあたしはなにも変わらねぇよ」
「だってただでさえ希少価値の高い人造人間の中でもトップクラスのレアである初期型がここにいるんだよ。そりゃ見るよ!」
思ったより光明は人造人間のことを知っているようだ。昔は裏社会にいたのかもしれない。
「ネネは記憶を失ってるから質問しても無駄だからね」
「あたしのクソプライバシーをバラしてくれてありがとう」
顔に付いた液体を噴き終わり、ネネは肘をついて不機嫌に貧乏ゆすりをする。
「あ、自己紹介がまだだった。俺は北神光明。人造人間のナンバーは12。ハナさんとはこうしてたまに面談をしてるんだ」
「ナンバー12だと。てこたぁ、ハナの兄貴ってことか?」
ハナのナンバーは14。それにしては態度といい、話し方といいハナの方が年上に見える。
「確かに番号は光明君のほうが上だけど、製造された時期はほぼ同じだからあんまり関係ないわ。それに造られたのなんてずっと昔のことでどっちが年上とかどうでもいいって感じ」
「わかるー」
相槌を打つ光明の見た目はハナよりも年上だが、内面はハナの方が上に思えた。おそらく人生の中で経験してきた内容が違いすぎるのだろう。光明の人生は平和で、だからこうして大学生のふりを問題なくしていけるのだ。ハナはきっと戦いの期間が長かったせいでどこかひねくれてしまっている。
「次はあたしの自己紹介か。あたしはネネ。今は白銀ネネって名乗ってる。人造人間ナンバー9。記憶がなくなっちまったんでハナに手伝ってもらってんだ。よろしくな」
「あら、ネネって意外と社交的なのね。もっとツンケンするものだと思ってた」
「うるせぇよ」
「なんというか、二人の仲がよさそうでよかった」
気が付け昼食を取る周囲の学生たちの数はピークを迎えており、喧騒で会話をするのも一苦労になっていた。だがネネ達にとっては好都合だった。誰もが己の話に夢中になっている今こそ重要な話をするのに向いているからだ。少しきな臭い話になったところで気にする人間はいない。盗み聞きしたければ隣に座らなければならない。人が多いことが逆に安心できた。
「そろそろ本題に入ろうぜ」
「そうね。光明君、連絡にあった直接会って話したいことってなに?」
三人の間に緊張が走る。ネネには見当もつかないネタが飛び出すのかと思い、彼女はわくわくしていた。もしかしたら殺し合いのきっかけになるかもしれない、だとしたらこの有り余る力を使う理由になる。
「それが、えーっと」
光明は下を向いたり上を見たりして落ち着きがない。よほど話しにくい内容なのだろう。緊張感が高まる。
「そのー」
「早く話しなさいよ。昼休み終わるわよ」
「それがー」
「あたしはウルトラ短気だからよ、次渋りやがったらこの場で暴れるぞ」
「わかった、言う。言うって」
ネネの脅しは効いたようで、光明は一回深呼吸してから口を開く。
「実は俺、恋をしちゃったみたいなんだ」
大学時代を懐かしみながら書きました。




