第百十二話
エピローグ
東京24区の出来事から数日後、白銀拓海とその母親、白銀海、そして白銀ネネの三人はハナの運転する車に乗っていた。
「みんなケガの調子はどう?」
前を向いたままのハナが誰に言うでもなく声をかけた。人造人間の再生能力をもってすればとっくに治っているはずだが、この中でいまだにケガをしているのはハナのみで、これは彼女なりのいわゆるジョークというやつだ。
「痛く痛くて毎日寝られないぜ」
助手席のネネは鼻で笑いながらさらなる冗談を飛ばす。
「ナシェリーは?」
「私は平気。それよりその名前で呼ばないで。息子の前よ」
「あ、ごめん」
息子に自分が人造人間だとばれたナシェリー、もとい白銀海は少しの間誰とも接触を図らず引きこもったが、ハナのある提案を聞くと嫌々ながらもついてきてくれた。
「拓海君は元気?」
「俺はあんまり元気ないんだ」
その言葉を受けて車内の空気がひりついた。拓海の精神的なショックが見た目よりもひどく、むしろ連れ出すことが逆効果になっているかもしれないからだ。
「俺いつまでたってもゲームがうまくならない」
一瞬空気が凍り付いたものの、それが拓海による冗談だと知って警戒は解けた。
「なんだそれ、全然面白くねぇぞ」
「ほんと。危うく帰るところだったわ」
「え、マジで。ごめん」
そんなこんなで一同は目的地に着いた。ハナは車を綺麗にバック駐車させたところを見ると普段から車に乗り慣れているんだろうな、と拓海は思った。
「さあ、今日は私のおごりよ!」
胸を張るハナだがここはファストフード店だ。全国に何千店もある大型のチェーン店で、珍しさもなにもない。
この前の騒動のとき、白銀家はハンバーガーを食べに来たところを誘拐された。ネネもジャンクフードが食べたいと言っていた。だからハナは気を利かせてこの店を選んだのだ。
白銀家が誘拐された店は現在警察の調査が入っているので、不用意に近づくわけにはいかず、彼らの家から少し離れたところの店までわざわざやってきたわけだ。
「てめぇが破産するまで食ってやりたかったが、あたしあんまり食べないんだよな」
ネネが呟く。
「私もポテトだけでいい」
ナシェリーも言う。
「……えっと、実は私もあんまりたくさんは食べないの」
おごりだと言った手前、恥ずかしそうにハナも続く。
「というわけで育ちざかりの拓海君は好きなだけ食べていいのよ! 目指せ胃袋爆発!」
「胃袋爆発したらダメだろ。てか人造人間みんな燃費良すぎじゃない?」
「いいのいいの。こんなかわいい女の子たちに囲まれてご飯を食べられるだけありがたいと思いなさい!」
ハナに背中を押されて拓海たちが店内に入る。
「あたしら女の子っていう年なのか?」
残されたネネが海に聞く。
「私は母親。さすがに女の子ではないわぁ。ネネも目つきが悪いし、ハナはくそ女」
「おい、なんだ。悪口かよ」
「拓海くんのいる手前、私たちは仲良くしなければならない。そうでしょ?」
「だったらそうしていようぜ。ずっとな」
それだけ言うとネネも店内に入っていった。
「そうね、つかの間の平和を楽しんだらいいわぁ」
完
これにてスモールアドベンチャー第二部は完結です。二年半もかかってしまいましたがなんとか終わりました。
まだお話は続きますが一度区切りとさせていただきます。




