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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
111/160

第百十一話

111話になります。

 誰もがのちに言った。あれは奇跡のようなものだと。




 拓海の死に物狂いの突撃はまるでヘタレのそれだが、全員がそちらに注目し、それぞれにトラブルが発生した。

 ナシェリーは口から殺人光線を発射しようとしたのだが、突然の吐血が邪魔をして『()()()()()』。

 ハナはライフルが暴発し、銃身が炸裂。射撃どころではなくなり狙撃は『()()』された。

 そして拓海は水たまりにより無様に転んで注目を浴びた。


「いてっ」


 顔から転び、そして起き上がる。


「お母さん!」


 恥ずかしくて突っ伏していたかったが、今はそれどころではない。なにせ目の前で母親が撃たれ、即死してもおかしくない致命傷を負ったのだから。

 拓海は慌ててナシェリーへとかけより、崩れ行く彼女の体を支える。


「た、くみ、くん」

「うわ、どうしよ、どうしよう! 死なないで!」


 両腕が弾けて消えた体を見て驚愕の態度を隠せない。


「よかった。生きてたのね。私、勘違いしちゃった」


 消え入るようなか細い声で話す姿は長くなさそうだった。


「俺は元気だよ、超元気! だから安心して!」

「ごめんね。ごめんね。こんな姿見せたくなかった」


 ナシェリーの腕が見る見るうちに再生していく。ぐちゅぐちゅと不快音とともに糸を編むように筋繊維がいつもの形を保とうとうごめいている。


「お母さんが何であろうと俺の母親に変わりはないだろ!」


 勢いで励ます息子の姿を見て、ナシェリーは大昔に消えた夫の姿をそこに見た。顔立ちが似ている。やっぱりあの人の息子なのだと再確認し、ふとハナの姿を視界の隅に捉えた。

 暴発した影響で服の一部が破けているものの、いたって健康そのものだ。流石は人造人間といったところだろう。


「ねぇ、驚かないの?」

「なんとなく察してたんだ。昔からよくケガしてたし。次の日には傷跡なくなってたし」


 ナシェリーの中で、またしてもふつふつと怒りが湧き上がってきた。致命傷を負わせておきながら謝罪の一つもない。それでいて本人は無傷ときた。事故を装って死なせてしまおうと考え、彼女は治りかけの指先をこっそりとハナへと向けた。ここから見えない破壊光線を出せば、少しはこの傷の痛みもまぎれるだろうか。


「ナシェリー、ごめんなさい。あのときはああするしかなかったの」


 今になってハナは頭を下げて謝ってきた。だが数秒遅い。ナシェリーの怒りは簡単に消えない。


「ナシェリー?」

「あなたのお母さんの本当の名前よ。もう隠す必要もないから落ち着いたころにあなたにすべてを話すわ」


 勝手に話が進んでいるが、ナシェリーにはまだまだ拓海に知られたくない秘密がたくさんある。すべてを話されては困るのだ。いよいよ殺すための口実が出来て、光線を出そうとしたときだ。


「もうやめときな」


 ものすごい衝撃がナシェリーの頭部を襲い、彼女は意識を失った。




「なにすんだよ、ネネ!」


 拓海は激怒した。いきなり現れては彼の母親を殴り気絶させたのだから。


「わりぃわりぃ、だってなんかしようとしてたからよ」


 そう言ってネネはナシェリーの手先を指さす。拓海もそちらを見ると明らかに指先をハナへと向けていた。同時に恐ろしい気配がどこかへ消えてなくなったような気がした。


「驚いた。私を殺ろうとしたのかしら」

「ハナも発言に気を付けたほうがいいかもしれないな。マズいことでも言おうとしたんだろ?」

「自覚は……、ないけれどナシェリーの考えてることはいつもわからないからもしかしたら地雷を踏んでいたのかも」

「もう! なんでみんなギスギスしてんのさ!」


 声を上げて拓海は場を和ませようとする。


「みんなとりあえず無事なんだからそれでいいじゃんか!」


 そう言われてネネとハナはお互いを見た。服装が見るも無残なボロボロ具合だが、それでも生きている。こうして立っていられる。それ以上の勝利はあるだろうか。

 東京24区は人造人間に取りつかれた男によって多くの血を流す惨事になった。こちら側の被害は精神的なものを除いて最小限に留まり、ハナは胸をなでおろす。これからやらねばならぬ作業は非常に多い。隠ぺいやら工作やら、きな臭いものばかりでハナは面倒くさくなって次の瞬間にはため息をつく。


「とにかく帰りましょ。急がないと日本政府に気づかれる」


 ネネがナシェリーを背負い、一同は屋上に着陸したヘリコプターに向かう。


「ところで、ネネはどこから来たんだ?」


 その途中、拓海は素朴な疑問をぶつけた。階段側はずっと視界に入っていたし、ネネは反対側から突然やってきた。


「ああ、ビルの外壁を昇ってきたんだ。くそ野郎をぶちのめしたあとになんだかやべぇ予感がしてな、急いできたんだぜ?」

「が、外壁ぃ?」


 さらっと言うが垂直の壁をどうやって昇ってきたのだろう。拓海は気になったがそれ以上追及しなかった。ネネだからこそできることなのだろう。拓海が知ったところで真似する芸当ではなさそうだった。


「ああ、雨止んだな」


 ネネは空を見て言った。いつの間にか雨が『()()()』、晴天の夜空が雲の切れ間から顔を見せている。


次回、エピローグです。

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