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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第百十話

 ナシェリーはむなしかった。どれだけ叫ぼうと、どれだけ破壊の限りを尽くそうと、どうしても胸の奥に空いた穴が塞がる気配を見せない。それどころか余計広がるばかり。


「なんで! なんでなのよ!」


 この島をダメにしても、拓海が死んだ事実は変わらない。大切な人を失った悲しみを二度も経験したことで、もはやこの世がどうなろうが知ったことではない。


「やっぱり、なにもかも、無くなってしまえ」


 世界を終わらせることは彼女にとってたやすいことだ。時間はかかるがそう長くはかからない。

 ナシェリーは空に手のひらを向け、意識を集中させる。雲に切れ目が出来て、そこから明るい色の放射物がゆっくりと顔を出した。あまりにも巨大なそれは、この島を軽く覆い尽くしてしまえるほどのサイズであった。


「させない!」


 どこからかそんな声が聞こえたような気がして、しかしながら確認をすることができない。

 ナシェリーは右の肩の部分に衝撃を覚えると、能力が使えなくなってしまった。


「う、ふっ」


 自然と浅くなる呼吸に不安を覚えつつ、ゆっくりと肩に目をやる。肩があったところは見るも無残に弾け飛び、肉と骨が露出していた。動かそうとした右手はもはや無いというのに、まだ動かしている感覚がある。


「なぁ、ああっ!」


 後ろから何かをされた。バランスの取れない体を無理やりひねってそちらを見る。

 ヘリコプターから真剣な表情でこちらに銃を向けるハナが、引き金に指をかけている。

 すかさず二射目。今度はナシェリーの左腕が吹き飛んだ。

 彼女が撃っているのは対物ライフル。決して人体に使うための銃ではない。威嚇射撃だとしたらとんだへたくそだ。なにせ二回も命中しているのだから。

 ハナはナシェリーが能力を使って暴走した場合、即座に彼女を殺害するように命じられている。それはハナの兄から、そしてナシェリーの夫から。


「げぼっ」


 したいわけでもないのに勝手にナシェリーの口から血が飛び出してくる。おびただしい量の血が濡れた地面に落ちて跳ねる。

 ナシェリーを抹殺しようと、ハナはためらいもなく次弾を装てんした。背後からとはいえ、三回も撃たれてたまるかとナシェリーはそちらを見つめて集中する。別に手のひらが無くなっても能力が使えなくなったわけではない。ただ思うだけで何もかもをすることができるのだ。

 ヘリコプターごとハナを破壊したら次こそこの島を沈める。終われば日本本土を台無しにしてやる。最後は地球どころか次元をめちゃくちゃにぶち壊して後に残るものはなにもなくなればいい。


「────ッ!」


 澌尽灰滅の祈りが果たされんとする僅かな時間に、彼女の視界の隅に何かが映った。否、何かが飛び込んできた。それは物ではなく人。

 この場で邪魔をしてくる人物がまだいたのだった。あろうことかそれが拓海だとはナシェリーもハナも思ってもいなかったのだが。







 ほんの少し前。


「あ、ううん……」


 拓海は頬に当たる雨の感触で目が覚めた。雨の中、完全に寝てしまうだなんて、こんなシチュエーションは誰が見ても笑いのネタになるだろう。年頃で、プライドのある拓海はこれが恥ずかしいことだと思い、慌てて飛び起きた。


「いや違う」


 全身ずぶ濡れのせいか、覚醒するのは早かった。だからこそ、今何が起きているのか、眠る前自分に何が起きていたのか思い出せた。


「確か、誘拐されて、足の爪がなくなって、お母さんが来て」


 しかしそこまでを思い出せても、それからを思い出せずにいた。水たまりのような床であぐらをかいてもっとよく思い出す。


「お、思い出した! お母さんが人造人間で!」


 慌てて母親の姿を探す。少し離れたところで立っていた。こんな高い場所の端っこで立っているのだから何をするにしても危険である。おまけにあのおっちょこちょいでのろい拓海の母親のことだ。余計に心配になる。


「おかあ……」


 拓海が声をかけようとした次の瞬間、彼女の肩が吹き飛んだ。


「え」


 ものすごい力で弾けて消えた母親の肩、すぐさまもう一方の肩も吹っ飛んだ。どうみても致命傷だ。普通の人間があれで生きていられるわけがない。不思議とショックはなかった。おそらくあと数秒すれば重すぎるショックに打ちのめされることだろう。


「一体なにが」


 直感で母親が撃たれたのだと理解し、そちらを見やる。


「ハナ、先輩?」


 よりにもよってハナがヘリコプターの中から狙撃しているのが見えた。拓海に気が付く様子はない。スコープを覗いたままで視野が狭いのだろう。

 なぜハナが彼の母親を撃ったのか、なぜ母親が撃たれなければならないのか。

 疑問は溢れて止まらない。だがその前になんとしてでもこの状況を止めないと、解決どころか何かが終わってしまうような気がした。

 拓海は立ち上がって駆け出す。考えるよりも先に体が動いていた。


()()()()()()()()()()()()()()()


 戦ったことのない拓海でも双方からの凄まじい殺意を感じながら、彼は決死の覚悟で間に割って入る。


あと2話で終わります。

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