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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第百一話

VSハヴァ

 ネネが屋上のドアを蹴り破ると、冷たい風と雨が吹き込んできた。ハヴァを探すまでもなく彼はそこにいた。


「早かったな、拓海君は見つかったかな?」


 能力を使ってビルとビルの間を浮かぶ男が優しい笑顔を向けてくる。顔と雰囲気だけなら好印象できっと世間でもうまくやっていけるタイプだろう。()()()()()()()()()()()()()。だからネネはハヴァのことをなんとも思っていない。人間としても、男としても。ただの殺すべき敵、それだけだ。


「拓海はいなかった。もう嘘つくのはやめようぜ。シンプルにいこうや」


 ネネは屋上の中央まで歩み、そして止まる。顔を少しだけ上げて上空のハヴァを見る。


「テメェはあたしと戦いたいんだろう? あたしだってそうだ。だから交換条件だ。拓海の本当の居場所を吐け。そしてあたしと殺し合え」

「んー、いい条件だ。だがあいにく俺は拓海君の場所を知らない。あそこにいないってんならもう逃げ出したんじゃないか」

「テメェ、まだしらばっくれるかよ」


 こめかみに青筋が浮き立つもまだネネは理性的である。人の命が掛かっている。十五歳の未来のある子どもの生命がいまだ脅かされたままだ。だからまだネネはキレない。()()()()()()()()()()()のだ。


「言ってんだろ、もう知らねぇって。なぁいい加減やろうぜ」

「このッ……」


 ネネが何かを言いかけたとき、肌に違和感を覚えた。ピリピリと突き刺すような不快感が全身を包み、吐き気すらしてきた。あまりに突然の事態に言葉が出ない。それはハヴァも同じようで目を丸くして辺りを見回している。


「なんだ、これ……!」


 目の前がくらくらしてきた。視界がぼやけ、立っているのもやっとだった。まだ数秒の出来事だが早く終わってほしいと思うほどの眩暈に呼吸も荒くなる。


 視界の隅、ビルの反対側の屋上に動きがあった。もやがかかったかのように屋上の一角が歪み始めた。光が屈折して歪みの向こう側がまともに認識できない。


 ふと、もやの中から二人の人間の姿が見えた。


「あ、あれは」


 ネネは己の目を疑った。そこにいるのは探していた拓海とその母親だった。不思議なもやを通してビルの屋上に出現した。


 拓海は母親の膝の上に寝かされて動かない。こんな場所とはあまりにもミスマッチな甘えっぷりだ。家でもあれだけの甘え方をしない。一体拓海に何があったのだろうか。おまけに母親の方も服装がいつもと大きく違う。部屋着姿か簡単なお出かけ服しか着ているところしか見たことないが、今はゴシックファッションに身を包んでいる。それがなんだか不気味だった。


 しかし拓海たちの安全が確認できたうえにあの不快感もいつの間にかさっぱりと消えていた。あと残るは目の前の青髪の男をぶん殴り、痛めつけるだけだ。

 ハヴァの方も同じことを考えていたようで、ネネと目を合わせると再び不敵な笑みを浮かべる。


「それじゃ、ネネ。もう思い残すことはないな」

「ああ」


 ハヴァは首を鳴らし、ネネは拳を鳴らす。


「かかってきやがれ! ネネぇ!」

「行くぞッ!」


 ネネとハヴァ。二人の戦いが始まった。昨日まで全くの他人だったが、今では互いに殺しの対象になっている。誰もがこの戦いの為に肉体を傷つけ、心が死に、後を引くものとなってしまった。この殺し合いに傍観者はいない。審判もいなければ誰も記録することもない。橋の下で行われる不良のケンカと大差ないものだ。誰もいなければ止められることもない。それがハヴァの望んだ戦いのやり方であり、ネネもそれがありがたかった。


「しゃあ!」


 空中にいるハヴァが先に仕掛ける。右足をまっすぐ振り上げ、ネネに向けてかかとを落とした。いつぞやのランヂの蹴りと比べ遥かに速く、そして迷いがない。ネネは対応が遅れ、それを直撃してしまった。


「どうだ」


 屋上の一部が陥没するほどの威力。普通の人間なら脳漿と血をまき散らして終わり。いつもはそうだとしてもハヴァはそうは思っていなかった。あのネネが、こんな攻撃で死ぬわけがない。確かに手ごたえはあったが、いまいち違和感がある。


 案の定、ネネは生きていた。ハヴァのかかと落としを避けられはしなかったものの、潰されたのは己のつま先だけで済んだ。ほんの少しだけ体を傾けなければ死んでいただろう。


「へへっ」


 ネネは笑っていた。邪悪な笑いと共に即座に手刀を構えてハヴァの体を貫く。肺と諸々の主要な骨を砕き、体の反対側へ飛び出して、手を引き抜いた。


 空中で戦えることが強みであるハヴァがわざわざ降りてきた。そんなまぬけな奴を逃がしてしまうようなさらなるまぬけはいない。


「どうした! こんなもんじゃねぇだろがよ!」


 ハヴァの顔を何度も何度も殴りつけ、地に足のついた状態を維持させる。ランヂ戦のときとは違い、もう二度へと空を飛ばす気はなかった。


「当たり前、だろがッ!」


 空気の流れが変わり、ネネの腹回りに青白い塊が集まってくる。ハヴァは殴られている間、ネネの腹に向けて能力を使用していた。彼はネネのまったく予想だにしないところからの一撃を加えてやりたかったのだが、ネネはすんでのところで気が付いた。だがすべてが遅い。


「うわクソ」


 悪態をつくことだけしかネネには時間がなかった。ハヴァの破壊光線はネネの体を貫くことはしなかったが、大きく吹き飛ばし、ついさっき開けた屋上へのドアへ激突、そのままドアを壊して階段下へと転がり落ちて行った。


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