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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第百話

百話です。やったー!

「……きろ」


 何かの声が聞こえる。


「……おきろ」


 誰かが呼んでいる。


「おい、ハナ! 起きろってば!」

「うわああぁ」


 鏙との闘いの後、気絶するように眠っていたハナは名前を呼ばれて慌てて飛び起きた。これが敵ならすでに遅れをとってしまっている。今すぐに戦闘態勢を取らなければ命に関わる。


「ぐぎゃ」

「おぶちっ」


 ハナの顔を覗き込んでいたイーズと頭をぶつけ、お互いがぶつけた箇所を押さえてうずくまった。


「いったーい」

「いてぇ」


 ハナは能力を解除していたので痛みは人間並みに感じ、目の前がちかちかしてひたすら痛みに耐えた。寝起きでこの痛みは最悪であった。驚きよりも怒りが勝っている。


「ちょっと、イーズ! 顔が近いからこんなことになったのよ!」

「いてぇ」


 しかし相手がイーズでよかった。見知らぬ人間、もしくは敵だとしたら今頃ハナの命はなかったかもしれないからだ。


「私こんなところで寝てたのか。不用心にもほどがあるわね」

「いてぇ」


 いまだうずくまるイーズの尻を蹴りむりやり立ち上がらせた。


「いつまで痛がってんのよ!」

「いてぇ!」


 額と尻を押さえながらぴょんぴょん跳ねるイーズはとても間抜けな様子だが、それが彼女の心を少しだけ和ませた。


 腕時計をつけていないがハナは今の時刻が午後十時を過ぎたころだと感覚した。彼女の体内時計は電波時計並みに正確なのだ。


 どうやら鏙との闘いからそれほど時間が経っていないようだ。今頃ネネはどこで何をしているのか。近くで騒ぎが聞こえないのでビルの上の方にいるのだろう。鏙が言った通りネネのビルに拓海がいるのならばこちら側のビルは本当に用なしで間違いない。


「イーズ!」

「ハイ!」


 急に名前を呼ばれ、姿勢を正すイーズはふざけているようだがこれでも彼なりにまじめに仕事をしている。長い付き合いだからこそハナにはわかっていた。


「状況の報告を」

「オーケー」


 そう言って懐からメモ用紙を取り出すとイーズは読み上げる。そこまで複雑な出来事が連続して起きていたのだろうか。


「今日は雨です」

「ふざけてんの?」

「ごめん」


 メモ用紙をくしゃくしゃに丸めて投げ捨てると今度こそイーズはまじめな顔をして話し始めた。


「お前がやりあってた鏙って奴は俺たちが確保した。もう大丈夫だ」


 ふとビルの外に目をやるとヘリコプターが着陸していた。その中に強力な手錠で拘束された鏙の姿が見えた。彼はと目が合う。疲れてはいるものの、安っぽいホストのような笑みを浮かべて手を振ってきた。もう暴れる意思はなさそうだった。


「次にナナちゃんのことだが、ありゃしばらく後を引きそうだぞ」


 ヘリの中にはナナの姿もあった。だが彼女の様子がおかしい。膝を抱えてうずくまっている。明らかに何かがあったとしか思えない。その理由をイーズは言おうとしているのでハナは黙って聞くことにした。


「うわ言のように海起ちゃんごめんって言い続けてるんだ。俺もこの目でしっかり確認した。ナナちゃんは人造人間の海起を殺しちまった」


 思わずため息が出る。この島で一番の平和ボケ、そして平和主義の彼女が人造人間を殺すなんてなんという皮肉だろうか。この島に来たということはそうなる可能性は非常に高かったはずだ。だからハナは全く同情できなかった。


「可愛そうだとは思わないわ。ただ運がなかっただけよ」

「そうだとしても、心に傷を負っちまってる。俺は放っておけないね」


 イーズはいつも甘かった。それが彼のいいところでもあるのだが、今回ばかりは誰が悪いとははっきり決められない状態だ。


 とにかく、ナナにトラウマができたのは時間が解決する話で、急ぎの話題ではない。


「次は?」

「ああ、これが一番大事な話なんだが、よく聞いてくれよな」


 いつになくシリアスなイーズだ。その話題を話すことすら嫌な感じすら捉えられる。相当な問題が発生したに違いない。


 イーズは手元のデバイスを起動し、空中に映像を映し出した。そこには地面を這いずるオルビドとハナのよく知る女が映っていた。ヘリコプターから撮影したものらしく俯瞰視点だ。


 二人が何を話していると思いきや突然オルビドの体が発火した。すぐに彼女が死に、粉となり消えると今度は女がこちらを見る。だが何もしない。ただ見ただけで、女は能力を使って音速でどこかに飛び去って行った。


「ナシェリーが動き出した」


 拓海を救うよりも大きな問題が発生し、どくん、と心臓が高鳴るのをハナは感じた。

 ナシェリー、人造人間ナンバー8。表の顔は拓海の母親である白銀海。年齢と過去を大きく偽り人間のふりをしながら社会に溶けこむ悪党。ハナは彼女のことが嫌いだった。イーズが白銀海と呼ばずにナシェリーと呼ぶということは、彼女は自身の持つさらに危険な能力を使用する可能性がある、もしくは使用したということになる。


「こいつは冗談なんかじゃないからな」

「あんたがこんなつまんない嘘をつかないって知ってるから安心して」


 ハナはそれだけ言うとヘリコプターに向かってまっすぐと急ぎ足で歩き出す。遅れてイーズも続く。


「ここでのリーダーはお前だ、ハナ。指示をくれ」

「指示? 止めるのよ、私たちで。被害を最小限に留めるために、どんな手を使ってでもあの悪魔を無力化するの」


 イーズが持っていた狙撃銃を奪うように取ると、ハナはヘリに乗り込む。


「何やら楽しそうなことが始まりそうだな」


 茶々を入れてくる鏙を裏拳で殴って黙らせてから、銃に装てんされた弾丸を確認する。この銃なら一発でも命中させればどんな相手でも無力化することができる。だが相手はあのナシェリーだ。弾はいくらあっても足りないかもしれない。


「何をしているの? 早く飛ばしてよ」


 パイロットのアルゴンに八つ当たり気味に命令すると、慌てて彼はヘリコプターを離陸させた。イーズは副操縦士として周囲の捜索を始める。


「最悪な一日だわ」


 ハナは大きなため息をつく。今日で何度目になるだろうか。明日はいい日になるだろうか。


百話でした。やったー!

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