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破壊神が異世界を救うらしい  作者: 優勝者
Ⅰ 雷少女は悪魔か否か
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006 行くのはあの世か異世界か

 急に意識が遠のきはじめた。

 どうも背中をぱっくりと斬られたらしい。あまりに一瞬のことで、ギアスが気づいたのは数秒遅れてからだった。

 脊髄まで斬られたようで、下半身の感覚が失われた。背中が焼けるように熱く、シフォンを抱きしめた腕に力を込めないではいられなかった。

 背後で黄色い少女の声がする。


「ごーめんねーっ! 私の仕事はあなたを殺すことだけど、本職は拷問担当だから、すぐには殺したくないんだ。職業病なんだ、私」


 激痛で気が狂ったよう。ギアスにはすぐに殺されないだけマシに思えた。拷問されるにせよ、少しでも生きながらえれば、助かるかもしれない。そう思ったのだ。

 しかし再び少女が鎌を振れば、ギアスの両方の足首が跳んだ。普通の人間なら一度切れた神経は二度と元には戻らない。ウーバスタンドでもそれは同じなのか、それとも再生に時間がかかるだけなのか、ギアスは最初の攻撃で脊髄を斬られたので幸か不幸か何も感じなかった。


(……足? オレの? ……なんで、あんなとこに。って、何やってんだ、オレ。今どうなってんだ。……オレは、誰だ)


「いやだ、ギアス、ギアス」


 シフォンの泣き声に意識が呼び戻される。けれどもう目を開けても周囲の景色はぼんやりとしていてよく見えなかった。


「……シッ……、うぅッ」


 声を出そうとすれば言葉は嗚咽に変わった。


(……まさか、し、死ぬのか、オレ。そんな、そんな——)


 シフォンを抱きしめるギアスの両腕から力が抜け、シフォンの背中でだらりと垂れ下がる。気がついていないだけでもう身体中をあちこち斬られているようで、シフォンはギアスの血で濡れ、白いワンピースが赤く染まっていた。


「いや、いや! ギアス、やっと会えたのに、やっと、信じてもらえたのに、どうしてこんなことに——」


 シフォンの震える言葉が胸にグサリと突き刺さる。ギアスは拷問よりもずっと苦しい気がした。


(そうだ、オレにはまだ、やらなきゃいけないことが、あるんだ。……今日は、シフォンと一緒に、公園で遊ぶんだ。シフォンと、一緒に、生きて——)


 だが——。

 ギアスの目の前に真っ赤な水飛沫が爆ぜた。それは紛れもなく、ギアス自身が吐き出した血だった。

 鎌が腹を貫いて胃袋を血が満たしたのだ。目の前にチカチカと星が散ったかと思えば急激に視野が狭くなり、もう、何も見えなくなってしまった。

 その一撃がトドメとなった。ギアスの体ががくりと壊れた人形のようになり、シフォンにのしかかった。


(ああ、もう、ダメなんだ。……こんなボロボロで、助かるわけ、ないじゃないか)


 真っ暗な寒い闇の中で、シフォンの泣き声が遠く遠く、反響して聞こえてくる。


「ど、こだ。……シフォン、ど、どこに——」


 血まみれのギアスの手が空中を泳ぐ。どんよりとした生気の無い目で明後日の方向を見つめ、暗闇の中でシフォンを探していた。

 その手に、小さな手が触れる。シフォンの手だった。「ここにいるよ」とシフォンが泣きながら言ってもギアスは何も返事しない。聞こえていないようだが、ギアスはシフォンの手を握り返し、彼女を抱きしめ、その小さな頭に大事そうに頬を寄せた。


「シフォン、シフォン。……ああ、可愛い。オレは、将来、こんな可愛い娘ができるんだなあ」

「そうだよ、そうだよ、ギアス。私はギアスの娘に生まれるの。だから死なないで、お願い、おねがい……」

「ごめん、ごめん。……辛かったよな。寂しかったよな。分かるよ、オレも、そうだったから。なのに、そんな、同じ思いさせるなんて、ひどい親父で、ごめんな。せめてシフォンだけは、助けた、かった——」

「そんなことない、そんなことないよ、ギアス。大好きだから、お願い——」


 最後の言葉はちゃんと伝わっていた。ギアスはもうそれで満足してしまった。

 そしてギアスはとうとう触覚も失い、ひたすらに暗くて寒い闇の中へ溶け込むように沈んでいく。まるで暗い海の底へ落ちていくように。

 だが、そのときだ。


「死なないで!! パパ!!」

「!」


 シフォンの声が、失われようとしていたギアスの意識に届いた。

 その瞬間、ギアスを包んでいた暗闇の中に、眩しいくらいの光が差し込んだ。



○○○○



 いったいあれからどのくらいの時間が経っただろう。

 ギアスは夢から醒めるように、少しずつ、永遠と続いた真っ白な世界に音を感じはじめた。

 死んだのだろうか。ギアスはそんなことを思った。

 聞こえはじめた音も、声なのか物音なのかの区別もつかない。ただ、心地よい。

 もし死んでいたのなら、ここは天国に違いない。こんなに眩しくて、柔らかな音がして、温かいなんて、地獄ではあり得ないだろう。


「……ス。……アス」


(……あれ? 声?)


 まだ上手く聞こえないが、なんとなく誰かが自分を呼んでいるように思えた。

 真っ白な闇の中で、やっと目が開いた。何かがぼんやり見えた。


「……アス! しっかり、ギアス!」


(! シフォン!)


 声と同期して揺れるその人影が、どこかに倒れている自分をのぞき込んでいるシフォンだと分かった途端、周りの景色がはっきりしはじめた。


「……シ、フォ……ン。シフォ、ン」

「うん、うん。……そうだよ、そうだよ。分かる?」


 やっとはっきり見えるようになった。どういうわけか助かったらしい。

 シフォンは目に涙を浮かべて、ギアスの右手を自分の頬に触れさせていた。


「私だよ、シフォンだよ。見える? 聞こえる? 今、ギアスの手が、私のほっぺたに触ってるの、分かる?」

「ああ、ああ、分かる。分かるぞ、全部。すごく、はっきり分かる。生きてるんだな、そうなんだな、お前も、無事なんだな」


 ギアスの頬に熱い涙が流れていく。これまでこれほど生きている喜びを感じたことがない。シフォンの頬の温かさ、柔らかさが伝わって、彼女も流した涙で手が濡れるのもはっきり分かった。

 ギアスは病院のベッドのようなものの上に寝かされていた。部屋も、天井や壁が真っ白で、それこそ天国だった。

 部屋には他に誰もいないよう。シフォンは涙を拭ったら幸せそうに微笑み、ギアスの手を両手で大事そうに握った。


「ギアス、すごかったよ。ギアスが助けてくれたから、私はなんともなかった」

「そうか、ある程度の時間稼ぎになったのか。そうだ、お礼しなきゃ。誰が助けてくれたんだ? あんな危ないやつ相手に、大変だっただろうに」


 そう言うと、何故だかシフォンは怪訝そうな顔をした。


「え? 何言ってるの、ギアス。ギアスが追い払っちゃったんだよ、一人で。覚えてない?」

「……え? え、え? おいおい、そんなわけないだろ。あんな状態でどうやって……。しかもオレ、まだ能力とかよく分かってないし」

「いやホントだよ? なんていうか、クルって振り返ってね、バーン! バーン! ズドーンって! すっごくカッコよかった! ほよ」


 シフォンがベッドの横でパンチをするポーズをとったりして、身振り手振りで説明したが、ギアスはそんなことをした記憶は全くない。寝起きだと思ってからかっているんだろうと思って、起き上がって指先でシフォンのおつむを突っついたら変な声を出した。


「オレもう意識はっきりしてるんだぞ? そう簡単に騙されないって」

「むぅ、ホントだもん! ……ホントに、覚えてない?」

「だめだこりゃ。シフォンも怖がりすぎておかしくなったんじゃないのか? まぁ、それはそうと、ここはどこだ? 病院?」


 シフォンを尻目に辺りを見渡す。正面の大きな窓の向こうは雲が広がっており、かなり高いところにいることがうかがえた。人間界でこんな高いところに病室があるような国など、存在し得るだろうか。


「ここ、異世界だよ。シャングリラっていうの。私がいた未来より平和そう」

「……い、異世界。シャングリラ? ホントにあったんだ」


 窓の外を見たこともない大きな美しい鳥が羽ばたいていくのが見えた。

 ギアスはベッドから思わず降りて、ふらつきながら窓際に立つ。下を見下ろせば気が遠くなるほど高かった。まるで衛星写真でも見ているかのようなくらいに街が小さく見えたが、街並みは人間界と似て非なる美しいもの。そもそも今自分たちがいるこの超巨大な建造物がある時点で、人間界ではなかった。

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