004 ウーバスタンド
翌朝。
まだ気温も上がっていないくらいの時間だ。ギアスは小声で名前を呼ばれて目を覚ました。
見ると部屋の扉が少し空いて、隙間からスカイが呼んでいた。いつもアップバンクにしている空色の髪は鳥の巣のように寝癖だらけ。起きてすぐに起こしにきたようだ。
ギアスは何事かと、促されるままに、まだ部屋で寝ているフィジーとシフォンを起こさないように慎重にリビングへ降りていった。
何の用なのか。シフォンのことに決まっている。昨日の夕飯のとき、初めてスカイにもシフォンのことを話していたが、彼は気味が悪いほどすんなり理解してくれた。その後、自分からも言わなきゃいけないことがあるんだと言い残し、スカイは眠ってしまっていた。
「まあ、そんな改まることはねぇよ。ただ、落ち着いて聞いてくれよ。あんまり驚かれるとフィジーたちが起きてくるからな」
「ああ、分かったよ——」
そう会話を始めながら二人はテレビの前の向かい合わせのソファにそれぞれ腰掛ける。
「んで? なんであんなにすんなり分かってくれたんだよ、シフォンのこと」
「いやいや驚いたさ。正直、いまだに信じられない。タイムスリップだのお前の娘だの……、おまけに人間離れした再生力まであるっていうんだからな。昨日はただ、面倒なことになったなって思ってスルーしただけだよ。てか、ノド渇いたな。お茶もってくるわ」
スカイは野球部に所属している大柄の青年だ。図体が大きい分、寝汗も半端ではないのだろう。最近は熱帯夜続きなのもある。スカイがお茶を取りにいってくれている間、ギアスは人間離れした再生力について考えて待つことにした。
(この再生力、やっぱり体質とかじゃ説明つかないよな。しかも、シフォンまで同じ……。あいつの再生するとこ見たら余計そう思えてきた。昨日スカイが言ってた、言わなきゃいけないことって、まさかこの再生力のことか? ひょっとして、実は人間じゃなかった、とか。……まさか。流石に考えすぎか)
そこまで考え、ギアスの脳に電流が流れる。
(いや、シフォンは未来の異世界からタイムスリップしてきたっていうんだ。タイムスリップなんてこともあり得るんなら、そんな厨二病みたいなことが現実で起きても不思議じゃないんじゃ——)
「わりぃな、氷切らしてたわ。一応冷えてるけど、ほれ」
「うぃす」
ギアスもスカイも一気に飲み干し、お互いの間の円卓に置いた。
準備が整ったところでスカイが始める。
「で、まずな、シフォンちゃんのことだが、実際どうなんだ? 未来からきた自分の娘って感じは、あ〜したわしたわって、流石にならないだろうけど、こう、身内っぽいとか、なんか、こう言うのもアレだけど、お前の母さんに似てるとことか、そういうのあったか?」
「髪の毛と目の色、顔つき、だな。仕草とか雰囲気とかは、えっと、なんてったか忘れたけど、育ての親に似たんだろ。でも確かに、割と身内っぽさはあるわ」
「マジか、ヤベェな。タイムスリップはヤベェわ。マジでタイムスリップしてきてんのかよマジか……ヤベェわ」
「おいおいまてまて、マジとヤベェばっかで返してくるお前の頭がマジヤベェから」
「オレの頭もタイムスリップするかもな」
「……」
「いやまって!? 二人で話しててシラけるのはキツイ」
話が逸れ始めたのでギアスが本題に戻す。
「まあ、それはともかく、言っておきたいことってなんだったんだ?」
「ん〜」
聞くとスカイは眉間にシワを寄せて難しい顔をし、ソファに深くもたれかかった。
「とうとう、話さなきゃいけない時が来ちまったか。実は、オレとフィジーはお前に隠してたことがあったんだ。昔からな」
「何だよ、驚かねぇから早く言えよ」
「ああ、実はな、オレもフィジーも、ギアスの再生力のこと知ってるんだわ。オレらも同じだからな」
「あっ、そうだったのか。ふーん、なるほど。……、エエーッッ!?」
ギアスは部屋中の窓を粉砕する勢いで驚愕した。
「3秒でフラグ回収すんのも無理はねぇ」
「やかましいわ! 何でお前ら隠してたんだよ!? 友達だろ!?」
勢い余って円卓を飛び越え、スカイの胸倉に掴みかかると、スカイが呆れた顔でこう言う。
「お前も隠してただろうが。だいぶ前にフィジーがお前の再生するとこ目撃してやっと分かったんだぞ」
「……わり」
スカイの胸倉には、もちろんノリで掴みかかっただけだ。すぐに放してソファに戻っていく。
ギアスはお茶をもう一杯飲んで気分を落ち着かせる。
「でもそれなら、お前ら何か知ってんのか? この異常なまでの再生力のこと。体質っていう程度の話じゃねぇだろ?」
「ああ。もちろんだ。オレらはな、超人なんだよ。人間から進化した別の生き物だ」
「なるほど。どーりで……」
「あ、もう大袈裟に驚かなくていいからな」
「大丈夫。もうそれどころじゃない」
ギアスは度が過ぎて呆れてしまった。
いまだに信じがたいが、シフォンのタイムスリップも、そして自分たちが超人類であるということも、実際にこれだけ尋常ではない再生力があるという事実があるからには、もはや不思議なことではない。
気分を落ち着かせるために何度お茶を飲めばいいのやら。ギアスはさらにもう一杯飲み干した。
「分かった、もういいわ。もーいい。全部信じるわ。いちいち考えるのもめんどくさくなってきた。で、ナニ? もしかして異世界とか超能力とかもあるわけか?」
「そうなんだよ」
「デスヨネー……。もう話読めたわ。これから異世界に行くって話したいんだろ?」
「そうなんだよ」
「……。ノリで言ったこと全部イエスじゃねぇか」
「話が早くて助かるよ。オレたちはウーバスタンド。要するにモンスターだ。人型のなあ。訳あって人間界で育ってきたわけだが、そろそろ里帰りする頃合いなんだよ。超能力に関しては、そのうちお前も使えるようになる。オレの能力は風。こんな感じだ」
スカイはそういうと、お茶の入った容器を手を使わずに宙に浮かべて見せた。風はどこからでも発生させられるらしい。円卓の表面から強い風が吹き出して容器を支えている。
数秒もの間浮かべたら静かに円卓に降ろした。
「……」
ギアスは固まった。開いた口が塞がらないまま唖然としてしまった。
次回の分はまだ書けていないので、いつになるか分かりませんが、なるべく早めに更新したいと思います。




