6月~中間テストの後に(2)~
3か月ぶりに会う広正は、以前と比べ全然変わってなかった。
「先輩、変わってないですね」
「確かに、大岐君に見せてもらった写メと変わりませんね」
「僕でも思っているよ…」
今回の取材について趣旨を話し、本題に入った。
「図書部の活動ねぇ…」
「文化祭で出すフリーペーパー以外ないですよね」
拓巳が確認するように言ったが、広正は考え込む。
「それは、僕が高等部の頃の活動…」
「中等部の頃とは違うんですか?」
拓巳は驚いた。てっきり、広正が所属していた6年間はフリーペーパーの作成だけかと思っていたからだ。
「詳しく話しを聞かせてください」
沙維香がノートを片手に前のめりで広正に聞いた。
「僕が中等部の頃は、3か月ごとに広報誌を出していたんだ」
内容は、部員おすすめの図書を紹介したり、生徒・教諭の思い出の本を紹介と沙維香の母親が所属していた頃と変わらないもの。それに加え、所属部員全員のコラムも連載していた。
「初耳です」
「大岐君には、一言も言ってないからね」
「八橋さんが書いた文章、読んでみたいです?」
「たぶん、どっかに原本があるはずだけど…」
「今から、探しますか?」
「それは、止めておこっ。今読むと自分の文章が下手で恥ずかしい」
「でも、僕より文章作成上手じゃないですか」
拓巳は、保管してあった去年のフリーペーパーを出す。
「…大岐君の文章が酷すぎるだけだよ」
「…やっぱ、酷かったですか?」
「…うん」
「あの、盛り上がっている時に悪いのですが、八橋さんに一つ質問があります」
「何?」
「3か月のごとに広報誌を作成していたんですよね」
「うん」
「母がいた頃は、毎月作成していたんですが、何故回数が減ったのですか」
沙維香の疑問に広正は申し訳なさそうな顔をする。
「僕が入部したときからそうだったから、ごめん、理由は知らない」
「いえ、八橋さんが謝ることでは…」
拓巳はある疑問を口にした。
「何で、先輩が高等部に入った頃に、活動内容が変わったんですか?」
「これはねぇ…僕の勝手な理由だけど」
広正が言葉を選ぶようにして説明した。
「小野さんの母親の頃はよく分からないけど、僕が所属したいた頃は7人いたんだ。ただ、全員が部活に熱心かというとね…中等部は全員部活動に入ることが決まっているでしょ。嫌々図書部に入る人だっている。そういう人は、高等部に進学しても、図書部には入らないんだ。結局、中等部3年の頃から、図書部員は僕ひとりだけだった」
ここで、広正は一呼吸した。
「最初は同じように活動していたんだけど、一人だと色々きつくてね…僕のやり方が悪いからか新入部員も入らないし。顧問の先生と話し合って、今のような活動にしたんだ」
拓巳は、気持ちが分かった。広正が引退してから、一人で活動したが、何をしていいのか分からず、やる気がないときもあった。部活動委員会では、高等部の生徒の中に、ただ一人拓巳だけが中等部の生徒。あの日ほど、心細かった日はない。
だが、今は違う。沙維香がいる。振り回されているような気がするが、一人の時より何倍も楽しい。
「そういえば、小野さんの母親が在籍していた頃の活動って?」
沙維香は、ノートに書いてあるページを見せた。
「蔵書点検…そういえば、僕の先輩が中等部の頃は図書委員会に協力していたと言っていたな」
「えっ、先輩の先輩って?」
「僕の5歳年上の先輩。才色兼備な人って感じかな」
「へぇ」
「何で、図書委員会と協力しなくなったのでしょうか?」
広正が二人に顔を寄せ、小声で話す。
「先輩が言っていたんだけど、図書委員会と人とトラブルがあったみたい」
「トラブル?」
「僕も詳しいことは知らなんだけどね…先輩に聞けば分かるかも。あっ、次の取材相手って決まった?」
二人は首を横に振る。
「だったら、先輩を紹介するよ。図書部の歴史についても、詳しいようだから」
「取材したいですが、連絡先が…」
「だったら、僕が間に入って連絡するよ。取材日は、先輩に合わせていい?」
「はい」
「じゃあ、僕は時間だから帰るね」
「八橋さん、ありがとうございます」
沙維香がお辞儀したので、拓巳も急いで頭を下げた。
「僕も、取材を受けて楽しかったよ」
広正は、図書室を出て行った。
「八橋さんって、良い人ですね?」
沙維香が言ったことに、拓巳は素直に頷いた。
広正の5歳年上の先輩・阿部幸子とは7月の中旬に会うことが決まった。