6月~中間テストの後に(1)~
八橋広正と会うことになったのは、中間テストが終わってから一週間後の月末に決まった。本当なら、早く会うべきだったが、中間テスト前は、部活動は一切行わないという決まり事があるため、この日程となった。
拓巳と沙維香は、広正が通っている大学で取材をしようと考えていたが、広正が断り、楠木学園の図書室で会うことになった。
「先輩と会うのは、卒業式以来だなぁ」
拓巳がそわそわしている中、沙維香は今回広正に取材する内容を復習していた。
「大岐君、今回聞く内容覚えている?」
「覚えてない!」
即答する拓巳に、沙維香は質問内容を記載したノートを見せる。
『質問内容
図書部に在籍したいたときの活動内容を具体的に教えてください』
「質問って、1問だけなんだね」
「こちらから多く質問するより、少なくても具体的に教えてくださる方がいいかと…」
「後輩の僕が言うのもなんだけど、先輩は口下手だから上手く言えないと思うよ」
「そうかぁ…」
考え込む沙維香を見て、拓巳は慌てて、
「でも、先輩は大学生なんだし、もしかしたら、前より上手く言えてるはず」
と付け足した。
「だといいですね」
「そういえば、小野さんの母親が所属していた頃って、どういう内容だっけ?」
「ノートの前の方に書いてあります」
別のページをめくる。
『24年前の図書部の活動
読書会(年に3回)
好きな本を事前に読み、意見や感想を言い合う
図書祭り
10月頃、市民の人に図書室を開放。読み聞かせ行う
広報誌
月1回、図書部で広報誌を作成。季節にあった本や生徒・教諭の思い出の本などを紹介
図書室業務
図書委員会と協力して、蔵書点検や貸し出す本を選定する』
「今と全然違う。毎月、広報誌を出すなんて無理だよ」
「当時の広報誌を読んだことがありますが、充実した内容でした」
「図書委員会と協力することなんてあるのかな」
「図書委員長に頼んでみます?」
「う~ん、それはいいかな…」
「でも、図書部を充実させることを考えたら、図書委員会とも協力する必要があると思います」
「そうかなぁ…」
出来るだけ人と関わりたくない拓巳は、消極的な態度をとった。楠木学園図書室はカウンターがなく、各自が自分でブックカードに書くことになっている。拓巳は、図書部の活動内容に、カウンター業務がないことを知り、ホッとしたのを思い出す。
「蔵書点検や本の選定作業やりたいですね」
沙維香がワクワクした様子で言った。
小野さんの性格を考えると、本当にやりそうだな。
拓巳は、内心そう思い、気をそらそうとして、話題を変える。
「今回の取材って、何人ぐらいに取材するんだっけ?」
「知りたいのは母が卒業してからの図書部の活動です」
沙維香の母親が楠木学園を卒業したのは、24年前。
「母曰く、卒業してから5年は、自分が在籍していた頃と活動内容が変わっていなかったとのことなので、19年分は取材する必要はあります」
「15年分ということは、19人に聞くの?」
拓巳は恐る恐る聞いた。
「いえ、聞くのは、部活の内容を聞くだけなので、3~4人でいいかと。おそらく、中等部・高等部合わせて6年在籍した先輩方に聞けば大体のことは分かります」
拓巳は内心ホッとした。
「19人に聞いてたら大変だもんね」
「連絡先も分からないですし」
拓巳の携帯電話が鳴った。出てみると、広正からだった。簡潔に挨拶をして、要件を聞き、すぐさま携帯電話を切った
「先輩、学校に到着したって。迎えに行ってくるね」
拓巳は、速足で図書室を出た。