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白銀とは、その御名。プラントニア。  作者: ゲーセン店員 ヤツカ。
2/2

一 「或る兵士。貴方には、取るに足らない死。」


「畜生っっ!!!」


コンソールを強打したのは、未だ止まらない「震え」の反作用。


そうとしか形容できなかった…。


又、今しがた飲み干した、数粒の「錠剤」が、自身が「終わる」ことへの恐怖までは、和らげてはくれぬことを、明白に認知したからでもあった。


「エド!!しっかりしろ!!今、助けてやる!!」

「エド!!大丈夫だ!!大したことはないぞ!!」

「エド!!まだ、『腕』は動かせるか!?」


ひび割れ、大破したモニターから漏出する「兄弟達」の通信音声が「窮地」にもたらした、細やかな安堵は…、儀仗隊の弔砲の如く、散発し…。


…まるで、縁起でもない…。


嗚呼。……だとしても、同郷の絆は、血よりも濃い、ということか…。


確かに、「俺たち」の関係は、対外的に見れば、「同じ区画」の出身者。

只、それだけの事なのかも知れない。


だが、それでも、

「戦場」で、共に過ごし、背中を預け、同じ釜の飯まで食えば、その結束が血を分けた「兄弟」のそれと何が違うというのだ…。


そうさ…。兄弟…。現状を打開する術があるなら、俺だってそうしたい…。


しかし、全油圧を喪失した「ウォリアー」が、今や、「鋼鉄の棺桶」に成り果てたことは、外界との接触を途絶された事実を抜きにして、外見上の蓋然性だけ取ったとしても、相当程度に高い筈だ。


正直…。後の結末は、単純…。退屈…。


まもなく「当機」は、部隊の通信圏外の彼方…、上空数百メートルを強制遊覧…、「顎」と大気圧との摩擦に耐久することなく、八つ裂きの憂き目…。

そして…。

後の…「自由落下」(フリーフォール)…。


「無残」。文字通りの。


…やはり、あの時、不用意に突貫などするべきではなかったのだ…。


そもそも、集団戦法による、飽和攻撃を基本戦略とする「蟻」が、僅か数匹で、水辺に淀んでいる筈がなかった。


重ねて、加筆するなら、その「引き際」に、何らか危機感を覚えるべきだった…。


もう言及する必要すらないだろう。要は、欲に駆られた訳である。


それが、「素材」としての「蟻」の魅力が優勢であったのか、単に、自信の勇をひけらかさんとする、名誉欲に由来したものなのか、そんなものは、もはや、問題ではない。


結果が、「敵」の陽動にまんまと、嵌まるでは…。


笑いさえ込み上げてくるのは、自身の浅慮さが、経験値から予測し得る「過失」の許容を、遥かに超越していたからに他ならなかった。


つまる所、この醜態は、自らの手落ちだ。

鳴りやまない警告音が焦燥を駆るのは、やむを得ない。

だが「死神の鎌」が、こうも騒音を帯びていたのは、存外だった…。


本来なら泣き叫ぶべきなのだろう…。

だが、先刻から止め処なく噴き出す冷汗に「排出水分」の王座は簒奪されている。


更に、「呼吸を乱すがいい!!」と、波状に押し寄せる激しい悪寒…。

仮に、これが「冷却水」のオーバーフローによる気化熱から生じているのであれば、自身の「マシントラブル」の方が、遥かに重篤に違いない…。


落ち着け…。


一つ…。大きく深呼吸…。


後、深い溜め息が、来訪することは、覚悟して…。


そうだ…。

いずれにしても、厚さ130㎜の鋼鉄合板が上げる「悲鳴」など、そうそう聞けるものではない。


この状況を楽しめるなら、それも悪くない話。

是非、そんな素敵な提案の実現法を、善意の何方かに、御教授いただきたいくらいなのだが…。


では…、こういった、趣向はどうだろう…。

「避けられぬ」なら、一層、「潔く」というのは…。


古今、多くの「勇士」は、自身の進退が極まったと判断すると、後に続く者達、残して逝く者達へ、「詩」を手向けたという…。


俺にだって…、少し、時間さえくれれば…。


………。


今は、それが真実だとは、到底思えなかった…。


事実、目を血走らせ、新皮質に、思考を、論理を、如何程、疾駆させ様とも、


「肉薄した『死』を前にして、人、一人ができ得ることは、あまりに少ない。」


人の本能たる、古皮質が、其の事実だけを、冷たく通告し続ける…。


恐らく、その手の「逸話」は、「人」を「神」に偽装する為に、後世の人間が散りばめた、虚飾石の一粒にしか過ぎないのだろう…。


結局、

どんなに、詩人や哲学者を気取り、強弁したとしても、

体を寄せ合い、暖めあったとしても、

「生」が個有の物である以上、人が一人で、恐怖に戦きながら「死」にゆかなければならない摂理は、誰にもねじ曲げられはしないのだ。


「死ぬ」のは、痛いのだろうか…。

もっと昼飯を、腹一杯、喰っておきたかった…。

こんな事になるなら、金など、せこせこ貯めていないで、すべて、酒か女に使ってしまうべきだった…。


愚かで、馬鹿げた言葉。

しかし、こちらの方が、ずっと、真人間。


助けて…。母さん…。


思いがけず、口をついた言葉。

しかし、こちらの方が、余程、戦場の真実。


今だけは、あれ程、窮屈だった「コクピット」が、「鋼鉄の揺り籠」の機密が、いじらしかった。 


ははは…、人生の終までも、随分、無駄にしたものだ…。


仕方無い。それも人の「生」が、真理の一面。


もっとも…、その中で、状況や、置かれた立場により、

時間の価値が伸縮する事自体は、人の「エゴ」に依る物なのかも知れないが…。


しかし、他方、又、真理なのは、たかが人如きの微力が、神の時計針を、一瞬たりとも止めたこと等ないという事。


只の一度でさえも。



そして、その証明の時…。


程なく…、警告音は…、歪む…。拉げる…。

機体同様に…。


「鋼鉄と血肉とのミキシング」は、かくして…。


エドは、ぐっ、と、身構え、吠えた。野良犬、然と。


「よしッ!!こいッッ!!!やってみろ!!!蟲野郎!、!!畜生!!!くたばれっっ!!!呪ってやる!!呪ってやるぞ!!!!っ!!呪っ…」

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