第3話_黒きブル◯リ
「もう要らん」
そうユージン王に告げられた小嶋。
よろめきながら、投げ捨てられた金貨の入った袋を拾いとにかくその場を後にした。
どうしていいかわからない。
とにかく足を進めるしかなかった。
この世界の土地勘もなければ知識もない。
だが、生きるためにはとにかく動くしかないと、先の見えない未来へ向け、ただ歩いた。
うつむきながら歩いていると、前のほうから人々の活気が聞こえてきた。
どうやら南に向かって歩いていたらしい。
そんな方向感覚すら今の小嶋には分らなかったが、人がいることに少し安心を覚えた。
(とりあえず何か食べものでも買おうか、、)
腹が空いていたことを思い出し、とにかく今は腹ごしらえと決めた。
(幸い、王との対話ができていたことだし、言葉は通じるのだろう。この世界の料理も知りたいし)
人間、腹が満たされれば気分も晴れていくものだと、とにかく食堂かレストランかないな周りを見渡しつつ少し大きな通りを歩いた。
やはり恰好が変なのか、通行人たちはすれ違いざまにこちらを見ているような気がする。
世界も文化も違うのだ。着るもの違う。向こうの人々は中世の北欧調の衣服を纏っており、ジーパンにパーカーという小嶋の服装は確実に浮いていた。
飯屋が見つからず、歩き続けていると、知らぬ間に人通りの少ない道に来てしまった。
(まずい、、この国の治安はわからないが、こういうところは、、、)
「おい、お前!」
来た道を戻ろうとした矢先、案の定低い声が前から聞こえた。
(ああ、こうなるか・・・)
悪い予想が的中し、めんどくさそうにため息を漏らす。
「てめえだよ!!変な歩き方してるお前!!
そうだよ!こんな歩き方のお前だよ!」
声のする方を見てみると、そこには黒い革の上着を着て、指や首に多くのシルバーアクセサリーをつける男がいた。なにやら丁寧に小嶋の歩き方の真似をしている。
小嶋の姿格好はずいぶんこの世界では浮いているのであるが、この男、それと比べても引けを取らないほど、異質な格好をしていた。 首元には黒いサングラスのような形状のものもぶら下がっていた。サングラスと言って間違い無いのだろう。
「てめぇ、変な格好してるな。変な服だが薄汚れてはいねえし、となるとまあ金あんだろ?なぁ?」
とその黒い服の男は言った。
(この展開は、、まずいなぁ、、)
そう思った小嶋は、返答をしないようにし、急いで踵を返した。
しかし、すでに背後には黒服の仲間か手下たちが数人、道を塞ぐ形で並んでいた。抜けられそうな所はない。
「逃げようなんて考えんなよ?
まぁちっとばかり金のお恵みをしてくれれば通してやらないこともないがなぁ」
男たちは手慣れたやり口なのか、完全に囲まれた小嶋を得意げに見てほくそ笑んでいる。
「サァァンキュゥウ」
手筈通りなのであろう。黒い男は変な言葉で囲った手下たちを褒めている。
(どうするか、、ただでさえ腹も減っているし、今持っている金がどのくらいの価値なのかもわからない。 1枚2枚置いたところで逃がしてもらえないのではないだろうけど、、)
小嶋は状況を打破しようと考えを巡らすが、空腹も相まって、何も思いつくことが出来ない。
「おいおい、返事がないみてえだなぁ
てめえら!とりあえず痛めつけてやれ」
小嶋が次の行動に困っているのに痺れを切らした黒い男は、背後に並べた手下どもに命令を飛ばした。
(まずい、、このままではやられる、、
あんな数の相手は一気に出来ないぞ、、どうする、、)
焦りながら小嶋は脳をフル回転させて次の最適行動を探す。
(そうだ、正面には黒い男のみだ!正面に向かって全力で走れば逃げ切れるかもしれない、!)
そう思いつくと小嶋はすぐさま行動に移した。
目を瞑り、上半身を起こさないように下を向きながらとにかく足を全力で回した。
足を回すことだけを考え、それだけをとにかく行なった。
(目指すは黒い男向こう側。とにかく全力で突っ込めば突破できるかもしれない。)
「ちょ、まて、おい、、」
こちらを見ずに下を向いて全速力でむかってくる小嶋に、思わず黒い男はたじろいでしまった。
小嶋も前を見ておらず、2人の距離は急速に近づいていき、、
「「ぐはっ」」
ドン!!、、、パキッ、、
ドサッ、、、
とその場に鈍いぶつかる音となにかが割れる音が響いた。
「くっ油断したぜ、、」
「いててててててててて、、いてててて」
頭から体当たりされた黒い男は軽く背後に飛ばされ、小嶋は衝撃による痛みに悶え、頭を抱えてゴロゴロと転がっていた。
ダメージが少なかったのか、黒い男はすぐに立ち上がり、痛がっている小嶋の方を見た。
「くそが、あがきやがって、その痛みは自業自得だ。とにかく金出しやが、、、、ん???」
黒い男は小嶋を罵倒する言葉が途中で止め、呆然と足もとにある黒いバラバラの物体を眺めていた。
「あれ?あれ?もしかして?」
黒い男は胸元に手を当てて、先ほどまでそこにあったものを確認している。
しかし、、今はそこにない。足元に、なれの果てが散らばっているのみである
「はぁあああ?俺のサングラスがあああ?」
(あれサングラスだったのか、、あ、サングラスってこっちもあるんだ、、、)
丸まって転がりながらも、痛みが和らいできた小嶋はのんきにもそんなことを考えていた。
「変更だ、、有り金だけじゃ腹の虫が治んねえ、、、とにかくお前は半殺し確定、、、
とりあえず死ね!!サァァンキュゥウ」
黒い男は中指を立てつつ小嶋の腹に思いっきり蹴りを入れた。
「かはっ、、」
ドスッと鈍い音がし、痛みが全身を走る。
肺にあった空気を吐き出し、呼吸が散り散りになる。しかし、痛みは止んでくれない。
「オラ!オラ!オラ!」
「かっ、、、ぐっ、、、ぐはっ、、、」
背後に蹴飛ばされた小嶋に、すぐさま背後にいた手下たちが蹴りを入れていく。
次から次へ蹴られていく小嶋はもうどこがどのくらい痛いかわからないくらい全身を蹴られ、声すら出せなくなっていた。
「修理代は貰って行くからなぁ!弁償は当たり前だろぅ??生きてるだけ幸せだと思えや!」
そう言い唾を吐き出すと黒い男とその手下は去っていった。
小嶋は空腹はもはや感じることはなく、痛みによりその意識を保つのがやっとの状態であった。
(やっと、、終わった、、 くそ、、なんで俺がこんな目に、、)
金を奪われ服はボロボロ。
今あるものは自身の身と割られまいと守ったメガネだけである。
側から見ても絶望的な状況からどうすることができるのか、今は痛みで考えることはできないが、小嶋は自分の不運を呪いながら、意識を手放した。