第1話_フリーズからのフリーズ
サムズアップした右手から汗がにじみ出る。
(ん?どういうこと? たしか俺、フリーズ引いたよな?今の投資分こっから取り返すところだったよな?、、どうなって髭のなげえ爺さんの前にいるんだ??)
自分の状況が理解できない。
いや、頭ではなんとなくわかる。
異世界転移、、、
そんな言葉が頭をよぎる。
そういった内容の物語をよく読んでいた。
だからこそ、今この状況が異世界転移であろうことはわかっていた。
しかし、実際自分の身に起きてしまうと、すんなり受け入れることは難しい。周りの状況を理解したいが驚きからか、体は動かず、目だけがあちこちに泳いでしまっている。
とんでもなく広い部屋に、豪華な装飾品の数々。
そして金色輝かしい王冠を被ったじいさんが目の前におり、その老人の後ろに本人であろうバカでかい肖像画がある。
普通なら状況から、王の間にいて、今目の前にいるじいさんは王様、、なんだろうと考える。
しかし、今はそんな普通ではない。いきなり目の前の状況が変わったのだ。
本来は目の前にはボタン3つ付いた筐体があったはずで、椅子に座ってそれを押そうとしていたのである。
そんなところから今の状況へ、 これが普通でいられるわけがない。
(あ、1万入れて6000円しか貸出してない、4000円台に残ったままじゃん、、)
小嶋は目の前の状況理解を捨て、さっきまでいたところにて投資した金のことを考えていた。
俗に言う、現実逃避だ。
完全に固まっていると、目の前にいた老人がプルプルと震え出して、、、
「よっしゃ!召喚、大成功ぉおおおお!!!」
と、いきなり大きな声をあげた。
さっきまでの威厳のある顔はどこにいったのか、
ガッツポーズを何度もして喜びを体全体で表現していた。
「えっ? なんなんなんなん???どこ?やっぱ異世界???俺のフリーズは??なんであのタイミングなん???回収させろよぉおおおおおかしいだろおお」
そんな大声のおかげか、小嶋は一気に現実に戻され、 矢継ぎ早に、誰に問うわけでもないが自身への不条理を愚痴を交え問いかけていた。
そのおかげか、少し冷静になり、
(これってやっぱ異世界? フリーズ恩恵は異世界転移?? フリーズ=人生やり直し??、そこまでわるいじんせいじゃなかったけど、やり直しすんの??)
すこしでも状況を知りたいと思い、
目の前の老人に目を向けた。
(このじいさん、放っておくと永遠にガッツポーズしてんじゃねえか?、、とりあえずこの状況、、聞かないとな、、)
「あの、、ここどこです?、どこでしょうか?
あと、あなたのお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?、願わくば、この状況も説明頂きたいです。」
相手の身なりを考え、途中から言葉遣いを気にしながら、精一杯質問をしてみた。
(あ、やべ、、言語の壁は、、、、向こうの言葉は理解できるな、よっしゃ!とか言ってるし日本語かな??大丈夫か、)
言葉のことを気にしていると、
「よし!言葉もわかる!!この召喚は成功じゃな! ちなみにここはユージン王国で、わしは7代目ユージン国王、 ヤクシ・ジーン・ユージンである。主を召喚したのはわしじゃ。」
目の前にいる老人はすこし威厳を見せるためか、キメ顔で髭を撫でつつそう言った。
(やはり、異世界転移、、、 確実に住んでいた地球じゃないっぽいな。なんなら時代も違うかな)
好きだった異世界転移の物語から得た知識もあり、小嶋は少し落ち着きを取り戻した。
「さて、召喚もできたことだし、まず主の名を聞かせてくれぬか?」
「あ、そう、、、ですね。
僕の名前は 小嶋 翔です。 こちらでは ショウ・コシマ でしょうか、、」
小嶋はファミリーネームが最後にくるのであろうと思い、そう名乗り直した。
「ショウ・コシマか、 ではコシマと呼ばせてもらおう。 早速ではあるが、コシマ、主のチカラを図りたい。 主をこの世界に呼んだのには理由があるが、こちらの都合上、説明はチカラを見ながらとさせてもらおう」
急ぎのことでもあるのか、ユージン王は家来を呼び、水晶を持って来させた。
「ではコシマ。まずこの水晶に魔力を送ってくれ」
そういうと、王は水晶を目の前に差し出した。
「魔力、、ですか、、、え?どうやって?」
魔力、、いかにも異世界らしい言葉を聞けて、ますます異世界転移してしまったのだなと実感した小嶋だが、魔力というものをどう出すのか知らない。
「魔力も出せんのか??どんな世界に繋がったのじゃ、、これはもしかして期待できぬのか、、」
少しがっかりしたように王がつぶやいている。
「とにかく手を取りチカラを入れろ。 流し込むイメージじゃ」
気持ちを切り替えたのか、王は少し強めに指示を飛ばした。
(流し込む、、、こうかな、、、)
なんとなくだが、チカラを入れる感じを試してみると、水晶から光がポウッと放たれていく。
(お、もしかしてこれが魔力なのか!
光るってことは結構適正ある??? 異世界で魔法使えるようになるじゃん!)
光る水晶を見て内心喜ぶ小嶋。
だが反対に王はとても残念な顔をしている。
「こんな小さい光か、、、、しかも色もパッとしない白のような赤のような青のような緑のような、、どっちともつかない判別不可能な色をしておる、、」
たしかに言われてみるとその通りなのかもしれない。と、小嶋は思った。
大きさの大小はよくわからないが、色は曖昧である。 ほんとはもっとハッキリくっきりするのだろうか??
「なるほどな、、、コシマ、とりあえず別室に待機しておってくれないか??」
気を落とした王は少し弱々しい声でそう告げると、家来のものがやってきて小嶋を別室にあんないした。
家来についていきつつ、小嶋は王の態度の急変に少し不快感を感じた。
(なんだよあの失望っぷりは、、俺に魔力が少ないってハッキリ言ってるようなものじゃないか)
案内された部屋にあったソファに座り、小嶋はこの世界のことを考えていた。
(異世界、、、ってことはモンスターとかいるのかな??魔力があるんだ、可能性はある。
てことはゲームみたいにレベルアップとかの概念もあるかもしれないし、なんならスキルとかもあるんじゃないか???夢広がるな!!)
この世界でどうするか、も考えなければならない。なんなら、帰ることも。
(王による転移でもあるし、いろいろ支援もしてもらえるだろう。 こっちでも魔力が少ないにしてもそれなりの生活が出来るだろう。なんなら向こうより良くなるかも?王の保護だし!)
ひとしきり考えた後、そう結論を出すと、そう思うことにすると、
『おっしゃ!これじゃああああ!!これよこれよ!!レアじゃレア! 2度目にしてレアじゃあ!』
ものすごい歓喜の叫びが部屋の扉の向こうから聞こえてきた。
(あの王じゃん、この声、、テンションたけえなぁ、、、)
あのあったばかりのついていけないテンションを想像し、あれは頻繁に起こることなのか、と嫌になっていると、ズンズンと大きな足音が向かってきた。
バァン!!と勢い良く扉が開けられると、そこにはさっきのハイテンション王がいた。
「てなわけで、コシマ、主もう要らん。」
王は、扉を開けたままの体制で、部屋に入って開口一番にこう告げたのだった。
「は??」
小嶋は思わず声を漏らした。
無意識に出た声は、今日何度目かわからない、
理解が追いつかない。状況を掴めない。現実を受け入れられない。そんな状況にまたしてもなってしまったということを告げる鐘みたいな役割をしていた。
(は?)
(は?)
(は?)
そしてグルグルと小嶋の頭の中で繰り返されるのであった。
またしてもFreeeeeeze!!
読んでいただきありがとうございます。