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メルヘンなんてクソくらえ!  作者: 夢見る女の子
24/37

もったないから涙は最後までとっときな!

ある、涼しい早朝のこと。

チトの家に、リートちゃんが訪ねてきました。


チト「こんな朝早くにどうしたの?」


リートちゃんはぐったり疲れた様子で、ぽつりぽつりと話しました。

昨夜遅くに、突然兵士が訪れ、父を無理矢理連れていったこと。

それから朝まで、ひとり泣いていたことを。


チト「一体、何なの……」


中に入れ、ココがリートちゃんを慰めていると。

間もなく、カナリィがやって来て、リートちゃんと同じことを話しました。


チト「カナリィ、二人を頼むよ。私は町の様子を見てくるわ」


カナリィ「はい!お気を付けて!」


チトは、すすり泣く声に包まれた町を歩き、まず、オコゲくんとオカユちゃんの家に向かいました。


オコゲ「チトさん。朝早くにどうしたんですか?」ねむねむ


チト「あなた達の両親は?」


オコゲ「また隣町です」ふあ…


チト「そう……。あなた、今すぐ着替えて、妹を連れて私の家に行きなさい」


オコゲ「何があったんですか?」


チト「さあね。分からないから、心配なのよ」


オコゲ「そうですか。分かりました、チトさんがそう言うなら、とにかくそうします」


チト「えらいえらい」なでなで


オコゲ「いひひ……」てれ


チト「気を付けてね」


オコゲ「はい!」


それからチトは、カフェ・プリンセスに向かいました。

そこには椅子に腰掛けて体を折り、テーブルの上にあるミルクの空き瓶の中を放心して儚く見つめる、弱々しい姿のおばさんだけがいました。


おばん「待ってたわ」


チト「おばさん!」


おばん「必ずここに来るだろうと、ずっとあなたを待っていたの」


チト「何があったのか、知っているのね」


おばん「思うに。きっと徴兵よ」


チト「徴兵?」


おばん「大きな争いに備えて、大人の男性が連れていかれたのよ」


チト「国がやったのか。……はっ!まさか!」


おばん「ええ。私の若旦那も連れていかれたわ」


ミルクの空き瓶の中に、おばさんの涙が一滴溢れ落ちて、底に残っていたミルクと混じりました。

それはまるで。

憎しみと悲しみが混ざり合った、おばさんの心情を表したように思え、チトはそっと、優しく背中をさすってあげました。


おばん「ありがとう。優しくなったね」


チト「勘違いしないでよね。別に、あなたのことを思ったわけじゃないし」でれつん!


おばさんは、力無くチトの手を取って、こう言いました。


おばん「私の最後のお願い。聞いてくれる?」


よく見ると、おばさんの服は所々濁った色で染まっていました。


チト「最後なら、聞きたくないわ」


おばん「兵士達は、隣町の方へ去って行ったわ」


チト「言わないで」


おばん「今なら、急げばまだ間に合うかも知れない」


チト「もう喋らないで!」


おばん「私の愛する若旦那を。連れていかれた人達のことを……頼んだわよ」ぱたり


おばさんは、またテーブルに伏して眠りました。

その時、ミルクの空き瓶が床に落ちて、音を立てて割れました。


チト「おばさん……」


チトはおばさんに背を向けると、背中越しに語りかけます。


チト「帰って来たら、賃金貰うからね」


そして店を飛び出すと、教えられた方角へ、町の外に広がる草原を全力で疾走しました。

何度転びそうになっても、どんなに苦しくても、どれほど疲れても、ひたすら真っ直ぐに。

負けないで、もう少し。


チト「あれは……!」


やがて遠くに、ひとかたまりになって休憩する、兵士達と町の人達が見えました。


チト「やっぱし数が多いな。私は子供だし、何よりおまじないの力もないし……」


チトは岩の陰に隠れて、何かいい策はないかと考えましたが、ふと、おばさんの笑顔がよぎった時、考えることをやめました。


チト「よし。行くか」


チトは、顔を叩いて気を引き締めると、毅然と敵の前に立って、吼えるように叫びました。


チト「私の名前はチトグレーテル!今すぐ、町の人達を解放しなさい!」


その声に。

奥から、一人だけ馬にまたがった騎士が現れました。

鎧の立派な装飾を見るからに、どうやら、この中で一番偉い人のようです。


騎士「貴様が噂に名高い、チトグレーテルか。まだ幼い少女ではないか」


チト「だったら何よ」


騎士「貴様は命が惜しくないのか」


チト「殺される為に来たわけじゃないし」


騎士は、大きな刃の付いた槍の先端を、チトのツンとした鼻先に突き付けました。


騎士「我々と争い解放を果たすか、貴様が我々の配下になることを誓うか。貴様はどちらを選ぶか」


チト「私みたいな、か弱い少女を配下に置いてどうするわけ?」


騎士「それは戦場に立てば、自ずと理解するであろうことか、どうだ試してみるか」ふっ


チト「ちっ、どちらにせよ連れていく気じゃないの」


チトに選択の余地はありません。

それは子供でも、十分に理解できました。


チト「いいでしょう。さ、町の人達を解放しなさい!」


騎士「皆聞いたか!いいか!」


兵士達はそれを聞いて、町の人達を解放しました。


フェルトおじさん「チトちゃん!」


チト「何も言わないで。今、あなたの娘が、あなたの帰りを待って泣いているわ」


フェルトおじさん「リートが……。君は」


チト「私のことはいいの。これでいいのよ」


騎士「準備はいいか」


チト「一度、家に帰らせてちょうだい」


騎士「その理由は何か」


チト「たった一人の弟に、最後の別れぐらい言わせなさい」


騎士「直ぐに発つか?」


チト「約束するわ」


こうして、チトは一度町へ戻りました。


チト「というわけよ」


ココ「そんなあ!やだよ!行かないでよー!!」ぎゅ!


チト「泣くな。男でしょう」


ココ「でも……でも!」しくしく


チト「何も、一生会えないわけじゃないのよ」


ココ「それはどういうこと?」


チト「私は必ず、ココへ生きて帰る」


ココ「本当?」グスッ


チト「嘘じゃねえよ」なでなで


ココ「……わかった」ごしごし


チト「よし、いい子」


チトは、優しくココを抱き寄せました。


ココ「チト」


チト「愛してるよ、ココ」ぎゅ


ココ「僕もさ」ぎゅ


しばらくして、二人は惜しむように体を離すと、いつもと変わらぬ挨拶を交わしました。


チト「行ってきます!」


ココ「行ってらっしゃい!気を付けてね!」


次にチトは、栗色の微妙な懐中時計を手に取ると、それに話しかけます。


チト「カフェ、あなたは道連れよ。嫌とは言わせないんだから」


そしてそれを首に下げると、チトは家を出ました。

家の前では、親しい人達がチトを待っていました。


フェルトおじさん「君には感謝しかない。だから必ず帰ってきて、お礼をさせてくれ」


チトは。


今まで使っていたズックの肩掛けカバンの代わりに最近新しく買ったお気に入りである可愛い猫の刺繍がチャームポイントの布製の肩掛けカバン。


から羊毛で作られた、可愛い女の子の人形を取り出して言います。


チト「これで十分よ」


フェルトおじさん「それ、大切にしてくれているんだね」


チト「約束したからね」


リート「必ず帰って来て、また遊んでね!」ぎゅ


チト「いいよ!いっぱい遊んであげる!」なでなで


リート「んふふー!」


オコゲ「チトさん!いつまでも待ってますから!」


オカユ「いつまでも待ってるから!」


チト「大丈夫。すぐ帰るよ!」なでなで


カナリィ「チト」


チト「何?」


カナリィ「これ、ミルク。途中で飲んで下さい」はい


チト「ありがたく頂戴するわ」


カナリィ「……私達は。友達で、家族ですよ」


チト「うん」


カナリィ「だからまた……ぐすっ。皆でお泊まりを、うう……チトー」さめざめ


チト「泣かないの。必ず帰るから、ね」なみだぬぐい


カナリィ「はい!」


他にもいたけど省略。

それから町の外れには、店長とおばさんが待っていました。


チト「若旦那って、店長のことだったのね」


おばん「ごめんなさい。ずっと内緒にしていて」


チト「こんなに老けてるから、もっとおじさんかと思ってたわ」


店長「かいくしき」


チト「トマトを勝手に食べこと、怒ってるみたいね」


おばん「あらやだ、ほほほ」


チト「てか死んだように寝てんじゃねえよ。大人なんだから空気読んで耐えろよな」ふふっ


おばん「あなたが、酷い拷問と辱しめを受けることを心より願うわクソガキ」ふふっ


店長「なちぬひに」


チト「ココのこと、任せたよ」


店長「やみよりゆ」


チト「私なら平気」


店長「おにおんりんぐ」すっ


チト「いただきます」あむ


それからチトは拳を握りしめ、一度も振り返ることなく、敵のもとへ向かいましたとさ。


続け!

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