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私を庇護してくれた男の人は、この世界のオークデュレ帝国の皇帝陛下アドリス・オークデュレ様。
そしてそのアドリス様の奥様になるのが、王妃様となるカトリーヌ・オークデュレ様。
そのお二人のお子様が、王太子のラグナス・オークデュレ様で、彼の奥様になるのが王太子妃のディアナ・オークデュレ様。
お二人のお子様が、王子のフレデリック・オークデュレ様に、王女のルーシィナ・オークデュレ様。
ちなみに、ルーシィナ様は私よりも3つ年上だった。
「凄いわ…リーチェは賢いのねぇ…」
「…いぇ、きっとマーベラス様の教え方が上手なのです…わ、私にも解るように言ってくださるから…」
「ありがとうございます。 私もベアトリーチェ様のように素直で可愛らしいお嬢様の先生になれて光栄ですわ」
私が一緒にお勉強しているルシィ様にそう返すと、マーベラス様は嬉しそうに微笑み返してくれた。
だが────。
私は、この人が怖く感じてしまって……。
正直、お勉強の時間はいつも緊張する。
陛下と呼ばれるアドリス様に庇護して貰ってから、早くももう半年が過ぎた。
大分、この世界のことも解ってきたと思う。
私の名前はベアトリーチェ。
カトリーヌ様とディアナ様とルシィ様が、三人で決めてくれた。
響きが可愛らしくて、私に似合うかと不安だったが……皆がぴったりだと言うので、とても嬉しい。
あだ名はリーチェ。
略称で呼ばれるのは家族と、仲の良い人達だけだと言う。
なんだか、アドリス様の家族に受け入れて貰ったようで、本当に嬉しく思う。
「失礼。 此方にリーチェが居ると聞いたんだが…」
「まぁ…フレデリック様っ!」
「……君は…マーベラス伯爵家のご息女だったかな?」
「覚えていて下さいましたのね! 嬉しいですわ! アナベラですわ!」
「あぁ…アナベラ、済まないがリーチェとルシィに用があるんだ…勉強は終わりだよね?」
「……ええ、終わりですわ」
フレデリック様がそう言うと、何故か私はマーベラス様に一瞬睨まれた。
────どうして睨まれるのだろうか……
解らなくて…でもとても怖く感じて、私は慌てて俯いた。
「リーチェ? どうしたの?」
「何でもありません……フレディ様、私とルシィ様にご用ですよね?」
「あ、あぁ……僕というか、母様がね。 では行こうか…アナベラ、では失礼するよ」
「……ええ、ルーシィナ様、ベアトリーチェ様、フレデリック様、御機嫌よう…」
淑女の礼と言われる挨拶をすると、にっこりと微笑んだマーベラス様は部屋を出て行った。
「…解りやすいですわねぇ…あの方」
「……確かにね。 でも、伯爵家とはいえ、愛人の子供だと噂もあるし身分が半端だからな。 相手にはならないよ」
「そうですわね…でも用心した方がよろしいかと思いますわ。 リーチェのことは、まだ公になってませんもの」
「……私?」
突然二人の会話に自分のことが出てきて、私は何かしてしまったのかと不安になった。
「リーチェ、三日後に夜会があるんだ。 出来るだけ陛下やカトリーヌ様から離れないでくれるかな?」
「行かなければならないのですか?」
「今回は…君の御披露目なんだ。 君が主役だから、行かなければならない」
「……御披露目…」
「大丈夫ですわ、私も側に居ますもの」
「……が、頑張ります…」
ルシィ様に両手を握り締められて、私は小さく頷いた。