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虎の子戦車隊  作者: j
ビルマの戦い
8/12

我が軍、ビルマ北部に侵攻中

 翌日・・。

 3月8日

 高らかな陸軍の楽器隊の演奏と共に戦闘後のラングーン市街地を行進する戦車隊はギルギルと音を言わせながら、原住民の声や見に来た友軍歩兵に答え、ビルマの北方へと進んでいく。

 8日夜、私は誉サエカ少尉の戦死を通知を渡され一人声を殺し深夜の野営地の中で涙をたくさんこぼした。


 

 数十日の時間を経て我が戦車軍はビルマ中部に到達し、山岳部に囲まれ、聞き慣れた砲声と機銃の音が轟く地上戦に私達は下がらず上がらずの並行保ちの士気を持ちながら戦いに励んでいた。

 今回私は射撃手担当だ。腕を痛め、包帯巻きになった辻は車長の席で私達に指示を与えていた。

 山岳の麓を進む中、

「敵戦車12時方向、距離200」

 辻の声を耳に照準機を片目に、小箱の様な戦車が一台がメモリと十字に混じり写っていて敵戦車は砲を他の様に構えこちらに気づいていない。

 発射機は倒れ、篭った爆音と一緒に薬莢が飛び出たが、


「熱い!あつ、あつい!!誰か水、水!!」

 近衛の叫びに思わず振り向いた。

 なんと、砲の装填口に備えられた薬莢要れから外れ、熱された空薬莢は操縦手の近衛の腕に乗っかっているではないか!


 こんな狭い中、辻は「あっつ!」と言った後の舌打ちと共に薬莢を払いのけると重音を立たせて足元に落ちる。水筒いっぱいに入っていた水を、赤焼けた腕にぶっかけ濡らした手ぬぐいを腕に巻きつける。

「近衛、これで大丈夫か」

 辻の声を耳に私は再び照準機に目を当てて敵戦車の様子を見た。

 M3軽戦車は砲を回し始めた。こちらの存在に気づいたのである。


「近衛!戦車を昼の角度に回せ!」

「了解!」

 ガチャガチャと言うレバーの音になんと手際がいいのだろう。戦車は上下左右と大きく揺れながら車体は斜めになり、私は砲を敵に定めながらハンドルを小刻みに回転させ修正。砲台は弾を飲みこみ装填は完了された。

 相手の砲がこちら砲口を向き火炎を吐いた。

 狭い車内を押しつぶす様な衝撃が鈍い金属音と共に響き渡った。

 

 照準の中で動くM3軽戦車の砲塔に十字線をあわせ発射機を倒す。耳元で篭った砲弾の炸裂音と共に草木を弾き飛ばし、高速で飛ばされた砲弾は敵戦車の砲身の中へと吸い込まれた。ヤカンが沸騰したかのようにハッチの蓋が、森林の屋根をつき抜け後に真っ赤な火柱が勢いよく立ち上がった。

「やった撃破!いたっ・・」

 

 喜んだ坂井は痛そうに火傷を負った左腕を押さえた。

「よし、このまま進撃」

 私は心配だったので近衛の操縦を見る。やっぱり左腕を気にしながら動かしているがギコチナイ様子だ・・。また操縦するたびに歯を食いしばっている。

 

 無理しているな・・。

「近衛、痛いか?」

「いえ、大丈夫です」

 作り笑顔で誤魔化そうとしても巻いた手拭から鮮血が滲んでいる。

「ダメだ無理をするな。私と変われ」

「え、でも操縦・・」


 したことは無いけど教えてもらえば何とかなるだろう・・。

「やったことは無いけど口で教えてもらえば大丈夫だ」

「あ、じゃあ私がやります」

 装填手の坂井が言うと私は「よしわかった」と言い、持ち場に変わる。「ハンドル操作は軽いから重たいレバーよりましだよ」と辻は笑い混じりで坂井に言った。


「敵歩兵の待ち伏せです。3時方向、9時方向よりこちら向かいます」

 辻が言うと私は重たい砲弾を手にした。すると装填手の坂井は「榴弾があります。それを使ってください」と言われてしまい私は手惑いながら砲弾ケースを探る。


「榴弾・・?どれだ・・」

 この弾頭が真っ赤に塗られてるのが榴弾なのかな?

「あったあった」

 

 おそらく黒いのが徹甲弾だろう。それをケースに戻し、赤い弾頭の榴弾を両手で持ち上げながら、57mmの砲身に砲弾を片手で押し込む。

 車内の砲塔が黒板に爪を立てた軋んだ音を鳴らして緩やかに回る。なんとも言えず非常に気分が悪くなる音だ。

 そして砲弾は射撃と共に発射され、白煙は薬莢と一緒に装填口から飛び出る。頑丈なケースに空の薬莢が詰まれていく。


「車長早く装填を!」

 坂井はこんな重たい砲弾を軽々、早く装填するのか・・!私にはちょっと厳しいな・・。

 背中から差し込む大きな光を浴びるので後ろを振り向いた。辻が砲塔機銃を撃ちまくっているのだろうか、車内に機銃の小さな薬莢が落ちまくって高く軽い金音を耳に入れさせられる。

 

 しかしこんな事を見ている暇も無かったので私は黙々と砲弾を装填していく。

 こんな重たい仕事は久しぶりだ。

 車長も大変だけど装填も大変だ。常に運動してないと明日から筋肉痛になるな・・。

 

「坂井さん、戦車隊が前進を開始」

 辻の命令に代理操縦手になった坂井は無言でレバーを切り返していく。無駄なく素早く、まるで操縦を専門としたかのような動きである。

「敵の歩兵隊は榴弾で袋撃ち。全滅です~」


 ハッチを閉じる辻は汗まみれのまま私に言う。

「しかし装填手は大変だな・・」

「へへ、装填の方はまだいいですよ」

 と車内が冗談混じりの会話と共に笑いの声で包まれた。


 その後ビルマ中部まで敵を押し進んで、とうとう短期間でビルマの北部へ到達。 

 しかしそれまでの侵攻を阻んだのは我々より遥かに強力な"巨体"2両に友軍戦車4両が撃破され、太平洋戦初めての戦死者がでた。

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