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虎の子戦車隊  作者: j
ビルマの戦い
6/12

ラングーンの戦い1

 ――3月7日


 戦車のエンジン部の下で仰向けになりながら、毎日変わらず青空の中に混じって飛行する機影を眺め、私は横になっていた。

 日本軍は河を渡ってこのままビルマのラングーン向けて北上していった。

 しかしその代償に不要が溢れかえる始末で、移動するにも自動車、バイク、装甲車などは燃料関係であまり使いたくないらしく、徒歩で収容所まで歩くらしいのだが・・。

 ラングーン進行中に向けて私達の戦車がエンスト。記入は無かったが第8戦車軍の中に所属、その第1混成機甲大隊に入っているのが私達、第九七戦車小隊である。

 無線で「後ほど追いつくと」連絡した後私達は山脈の道路のど真ん中で燃料補給をしていた。

 何十リットルと入ったオリーブ色の四角い缶を両手に、蒸発されるくらいに蒸し暑い日の下で私はタンクに軽油液を注いでいた。

「あっつー・・」

 頬から光る汗を拭う坂井に、

「まあ、熱帯地だしねー」

 と水筒の水を飲みながら操縦手の近衛は、ハッチの中に潜り込んで答えた。

 集団一列に両手を挙げて歩いてくる団体が視界に。道路脇の木陰から小銃を持った兵士がその群に銃口を向けている。

「あ、英軍の捕虜だ」

 辻の声に私はその行列に目をつけて「ムカデみたいに長いな」と横を通る捕虜と随伴の友軍兵士が歩くのを眺めながら私はぼやいた。男性ばかりでもやっぱり疲れきった顔だ。ふらふら歩く一人の捕虜も居れば、平然とする人もいる。

「ほら、そんなのは良いから行くよ」

 長い長い集団を後に私はチハの車内に入り、戦車は爆音を唸らせながらビルマの地を揺らすように進んでいく。

 揺さぶられる中、蒸される暑さに私は参ったのでハッチから上半身だけを出し、緩やかに流れる風を浴びながら私は涼しさを満喫した。と、ここで辻が「隊長ばかりずるいですよ」と言うので「悪い悪い、皆で5分交替で変わろう」と言いながら戦車内に潜りこむ。

 暑い。とにかく暑い。

 脇、背中、ヘッドギア、マイクまでもが水浸しになるんのではと言うくらいに汗が沢山出る。

 腕時計は綿でも付いたかのように曇って今が何時何分と見える気がしない。

「あ、黒煙が立ちました」

 突然ハッチを閉めて「正面、ラングーン方面から砲声と爆音が鳴ってます」と私に言う。すでに戦闘が開始されて遅れを取った私達はエンジン全開で戦火の波に飲み込まれたラングーンへと発進した。

 

 白の西洋の建物が立ち並ぶラングーン市街は弾痕の跡、目に入った3階建てのビルは半壊して、今にも崩れそうにボロボロな姿をしている。

 しかし意外にも戦闘は激しくなく、むしろ歩兵だけでも制圧できるのほど、敵の反攻は少なく感じた。

 前進する歩兵達が大通りに無残に黒焦げた自動車の残骸、建物の陰に隠れる。様子を眺め、ハッチから顔をだした。すると軍刀を翳した分隊長の一人が「あそこの機銃陣地を破壊してくれ」と言われ、首に垂らした双眼鏡を覗いて見ると必死に撃ちまくる英国兵士が、詰まれた砂袋に篭って居るのがみえた。

「分かった。やってみる」


 距離は300mあるだろう。坂井が抱いた57mm砲弾が砲内に装填されると「撃て」の合図に主砲は撃たれ、反動と共に焼けた薬莢が熱を出しながら吐かれた。

 双眼鏡のレンズから写しだされる敵の姿は跡形もなく吹っ飛ばされ、雪崩のように毀れ落ちる大量の砂だけが地面を山になるくらいに漏れ出した。

 

 機関銃による弾幕が無くなったとき、歩兵達は遮蔽物から物陰へと転々移動しはじめ、それを見た私は歩兵の動きを阻害する物は徹底的に破壊しようと考え、車内に顔を隠してハッチを閉じた。

「あ、弾が無くなりそう・・」

 坂井の言葉に弾薬庫を目に向けるとケースに並べられ、金光する薬莢に黒の弾頭がつけられた57mm砲弾が数えて25発しか残っていない状況だった。

 貧弱な日本陸軍の補給は他の国より遅れてたり、色々事情はあったり。

 実は弾薬不足に困った戦車隊があったので半分ほど譲り「後の補給でなんとかなる」と判断したのが致命的なミス。あまりにも愚かな判断に自身が憎い。


 キューポラから覗いて見えて、走り進んでいく大通り。敵のM3軽戦車が1両だけ、遮蔽物から砲と車体の半分だけを出してこちらを狙っている。距離はそれほど遠くなく、80m程で「突っ込め、体当たりだ」と私は命令を下すと、チハ戦車は一瞬速度を増し、エンジンの音も高くなって、道路を走り抜け、

「衝撃に備え!」

 身を屈め、車内の生ぬるい取っ手を握った時、鉄同士が衝突。身体ごと飛ばされるくらいな強烈なショックに、聴覚が引き裂かれるような激しい音が耳に響いた。

 

 再び外の様子を確認する。

 あっけなく横転し、ギルギルと音を鳴らして回る履帯と下部。M3戦車に追撃を浴びせようと、57mm砲が撃たれて装甲の薄い下部に直径1m以上はある弾痕が作られ、そこから赤い火が小さく灯されていていた。

 

 よし1両撃破だ。

 中々気が緩めないな・・。


 長く戦場に居ればストレスも溜まるし、イライラだってやってくる。これを持ちながら戦えば適切な判断や冷静が落ちてしまう。だから「困ったときは冷静になれ」と言うのは早く物事が思い浮かぶ事があるし、迅速に対応できるからだ。

 炎上したM3軽戦車を後に、敵の陣地を蹴散らしていく。弾薬もゼロになっても車体機銃で歩兵達を支援したが、


「敵のトーチカが突破できない?」 

 友軍の無線に「40mmがいる」と強力な砲に進めず困っているようだ。

 またその対戦車砲の40mm距離は我々のすぐ傍だと言うことで、私は単身でやると決め車外に出て行った。 

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