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虎の子戦車隊  作者: j
ビルマの戦い
5/12

戦場にかかる橋

 エンジンの爆音と車員の声に私は起きる。何となく瞼が重く、二度寝したい気分だったが頬を叩いて目を覚ます。そろそろシンガポールに突入する頃だろうか。進み行くチハ戦車に、ハッチから上半身を出して大きく背伸び。今日も午前の日差しが強く、昨日より暑くなりそうだ。

 1941年1月31日からすでに英領ビルマに侵攻した日本軍にまたしても遅れをとった九七戦車小隊の私達は進むたびに置いて行かれているような気がし、いつになったら本部に合流できるのだろうかといつも思い思いに私は日々を流していた。


 燃料の補給をしつつようやくビルマに到達。

 このとき1942年の3月と急いで来ても2ヶ月弱かかる事になり、前線野営地についても本部からは「てっきり死んだかと思った」と言われる始末であり、精神的に参ってしまった。しばらく寝れば気分も良くなるだろう・・。

 軽い睡眠を終えてすでにお昼頃。

 設営隊の片付けが始まり、何十台のチハやハ号戦車、八九式戦車のエンジンが一斉に爆音を鳴らし、排気口は小刻みに揺れながら密林深いビルマの地砂埃を散らして前進を開始した。

 

 特に問題なく鼻歌交じりの中進んでいくと距離は幅100mはあるだろうと鉄筋の橋に転進、しかし事前に爆破して穴を作ったような焦げ跡が残り進めない状況に陥った。

「ちょっと!工兵隊何やってたんだよ!」

 不機嫌な近衛はプンプンしながら戦闘靴を鳴らして貧乏ゆすり。

 ずいぶんと透けるくらいに綺麗な河だ。宝石が散らばって輝くように白く反射している!

 こんな泥まみれの戦車が進むにもったいないなあ。


「どれ、私が・・」

 そういいながら車外にでて、子供が海ではしゃぐかのような気持ちで河に足を入れると特に深くなく浅いほうだ。そのまま歩いけば大体膝辺りまでと言うところ。

 あまりにも気持ちが良かったので顔を顔を洗い、濡らした手ぬぐいで腕や首、を拭う。

 同じ将兵達も新鮮な水に会えたことを歓迎し水筒に水をつめたりと、ほんの僅かだけの休憩が取れ、また戦車達と歩兵たちは嬉しそうな顔で進軍を開始した。



 太陽の日射を阻むかのように次第に密林が濃くなってくる。薄暗くもなりスコープや覘視孔(細く、小さな隙間穴から外が見える装置)から少しばかり入り込み「敵かゲリラが潜んでいるのでは」と緊張感が沸き始め、「私が最初にやられるのでは」とほんの少し胸に針が刺さって痛くなる。

 蛇道というくらいに曲がりくねった山脈道路を抜けながら進み、敵の攻撃もなく難なく下山していくとまたしても広い河が見え始めた。

 原住民から有難く貰った彩色鮮やかなにつまった果物に手を出して、口にしながら山脈の麓の密林で停車したチハから双眼鏡で、河の間を堂々立つ橋の周辺を虱潰しに眺めていた。


「英軍の戦車、戦車砲が茂みに何十と・・」

 この橋は重要な物なのだろうか。

 しかし来るとわかっているならなぜ爆破しないのだろう。

 敵が来ると分かれば私は壊してでも侵攻を防ぐ事をする 


「撃て」の声に戦車隊の砲が橋の方角に定めらた時、砲弾が炸裂。砂埃と硝煙が視界を覆い火薬の匂いが鼻に入るなかで、河やその近くの茂みや密林に弾丸が叩き込まれて水しぶきが白く見えた。その場走行、縦一列の乱れない動きを保ち、下山していけばあっという間に銃火が拡大。キツツキのような機関銃の音に弾丸が車体に当たる音。顔を出せばすぐに死んでしまうくらいの勢いだ。

 橋のすぐ傍、戦車達と歩兵は蜘蛛の子を散らすようかのようにあちこちと走り去って、残された私達九七小隊は見える敵を撃破すると連絡した。

『橋、英軍工作兵が爆薬設置中』

 友軍の連絡に、近衛の右肩を蹴り戦車の走行進路を変更。橋へ向かうよう小隊に通じ、弾丸の雨の中を突進する猛獣の如く、チハはエンジンをフルパワーに密林の中を走り出した。


 突然坂井が肩を押さえその場に蹲ると直径2、3センチほどの小さな弾痕から光が入り込み、うっすら見える鮮血は白い戦車服を蝕むように広がり始めて「坂井、大丈夫か!」と隣に居た近衛は操縦しながら言う。「問題ない」と坂井は言うも血は止まることなく溢れている。

 対戦車銃にしては威力が小さい・・。

 小銃弾が貫通したのか・・?

「坂井、無理はするな。私と替われ」

 初めての射撃手。

 血と硝煙が香る車内の中、席を移動。非常に狭い射撃席はとても窮屈だ。

 

 実は操縦席以外は本来椅子など無く、操縦手以外は全員立つのが基本だが私は狭い中でもせめて休めるぐらいは座りたい理由で、木製の簡素な椅子を隊内で作りそれを設置した。折りたためるのでスペースに多少な余裕は浮く。

 照準鏡を覗けば地震のように揺れが酷く狙いが安定しない。こんな中でも正確に狙える坂井は実に腕がいいんだな・・。

『足止めを食らい橋までいけない。誰かけん制して橋を確保してくれ』

「私がやります」


 辻が装填した砲弾を飲んだ九七式砲は私が倒した引き金と共に火砲を開いた。白線延びる硝煙が肉眼でも見える敵の戦車砲を吹き飛ばし、土柱と残骸が跳ね上がり弾は見事に命中。 

 弾痕や爆破跡の鉄筋製の橋に捻じ曲がった線路が敷かれている。どうしてもここをぶっ壊そうと英軍は努力していたのだろうけど、相当頑丈っぷりに諦めたのかな? 

 

 ずいぶん至近で砲弾が着弾するな!敵も負けてられないのか!

 爆薬を仕掛け途中の10人程の英軍兵士を踏み潰そうとする戦車に、恐ろしい顔をした英兵を「機銃撃て」と辻に告げ、轟く砲撃に混じり車体機銃は連続で撃たれ、軽い金属の音を鳴らして足元に落ちる薬莢が耳に響いて敵は動きもせずにうつ伏せに倒れた。

 車体に強烈な衝撃と共に、ガラガラと履帯が外れたような音がした。

「履帯損傷と前輪損傷!行動不能です!」


 しまった、進みすぎたか!

 橋のど中央で移動が出来ないと私達はただの的になってしまう!

『小隊長!大丈夫ですか!?』

 5番車の連絡に「大丈夫だ!そのまま撃ち続けろ!」と通じながら私は次の手段を脳で迅速に決めようとする。

  

 戦車を放棄するか・・、この状態で援軍を待つか・・。

「車長!猛攻撃で戦車がもう持たないです!」

「近衛、敵戦車は何台いる!?」

 スコープのハンドルを回しながら坂井は「M3軽戦車、6両」と答えた。

「放棄しますか!?」

「駄目だ坂井!とにかく敵を叩け、橋を確保するんだ!」

   

 選択肢は無い。脳裏にうっすら見える白い文字。「自ら誘導線を切断する」私は決断した。

 坂井を射撃席に戻し、機関銃の雨の中から車外に飛び降りた瞬間、コンクリートに黒い弾痕が出来上がり、至近に叩いた音が何発も聴覚に入った。

 両脇から耳鳴りと凄まじい爆風に一瞬何が起こったか分からず、私は吹き飛ばされ背中かから何かにぶつかり気を失いかける。そんな事、何のこれしきと目を開いたとき、橋は爆破と共に寸断され崩れ落ちていた。


 なんて様だ!

 橋さえ手に入れれば進軍日は短縮できたのに!

 私の愚かな判断とその行動に私は実に悔しく、その場で涙をこぼした。

 響き渡る銃声は次第に遠くなり、橋の手前に集結してきた戦車と工兵達が懸命な作業を行っている中、車員と共に傷だらけのチハの傍で泣き声を慎みながら抱き合った。

「みんな・・ごめん」と。


 昼間はいつの間にか過ぎており赤色輝かしい夕日になっていた。

 頬から流れる涙の混じった血のように美しかった。

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