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虎の子戦車隊  作者: j
マレーの戦い
2/12

突進せよ、マレー作戦2

 私達戦車隊は休む事なく、ひたすら進んでいくと攻撃されずに白壁聳え立つ都市がジャングル越しから見え、砲撃と銃撃と共に建物が崩れ落ちた。

 都市なら敵が陰に潜んでいるな・・。

 ビルの窓や裏路地、厳重に見なければ。

「敵を見つけ次第砲撃」

「了解!」

  

 潜んでいそうなところに敵はいる。こうしてスコープ越しから外を眺めていても、敵の顔や姿は見えずに頼りになるのは、火薬が何回も破裂する銃声を聞き分けなければならない・・。

 例えば三八式歩兵銃は撃ったところ、それほど響かない音を発するのだ。敵が同じ弾丸を使おうとも、その微かな変わり具合だけでも私は神経を使って判別する。

 走っていたチハ戦車が急に揺れ始めると下部から篭った轟音が耳に入り、戦車はディーゼルエンジンの音だけを響かせながら動かなくなってしまった。


 また何かに引っかかったか?

「履帯の・・です!・・た!」

 操縦士の近衛の声が上手く聞き取れない。


「何だって!?」

 と大きな声で聞き返した。

 大砲の射撃に耳奥がキーンなるのが私はとても嫌だったのでコルクで耳をふさいでいる。その為友軍の声や無線、たまに取れなくなるのだ。

「履帯が外れました!」

 焦った顔を向けながら答えた近衛に私は恐ろしく汗が吹き出でて、蒸し暑さがより増した。

 動かない戦車は只の的だ!どうにかして修理しないと!


「短機関銃を貸して!」

 投げ渡された百式短機関銃を手に、「第九七戦車小隊長の澪軍長です!履帯損傷に修理を求む!」と咽頭マイクから通じた声に『他の隊から連絡あり。工兵がそちらに向かっている、耐えてくれ』と耳あてヘッドセットに隊長の返答が入った。

 弾丸の雨が飛び交う中で外に出た私は道路を斜めに塞いでるチハ戦車の左に身を隠した。履帯が綺麗真っ直ぐ切れていた。修理に時間がかかるぞ。


 内側の損傷だったのでチハが盾になる形だ。我が身を晒される事無く修理が出来ると思った。しかし肝心の工具がない。

「車長、工具です!」

 辻に投げ渡され、ハンマーボルト締め、さまざまな工具品が散らばり掻き集めるかのように手にした時、「貴様らが九七戦車小隊の澪軍長か」と数十名の筋肉ある小柄の男性工兵が駆けつけ、その後にハ号戦車や八九式が1台ずつ到着。「小娘がやっても無駄だ。俺らがやるから援護しろ」と言われながら私は陰から敵の居場所を探っていた。


 銃弾は私達戦車に集中的に飛んできている。火薬が破裂した後に、耳元を通る弾丸の飛翔音に心拍と血液が上がり、今にもオーバーヒートするくらい頭が混乱していた。

 戦車の指示以外、何か出来る事はないか!

 隅々に視界に入る小さなコンクリート製のビルの窓から、人影が微かに動き光の矢が目に刺さった。


 狙撃兵だ!

 こちらが狙い撃ちされてると思うと恐ろしいものだ。

 狙撃兵の距離は100m以上あるだろうか。到底短機関銃では届かないので、細くて長い三八式歩兵銃を工兵から借り、戦車の陰から銃を構えた。


 ぼやけるリング照門。くっきりと見える照準と敵兵の黒い影。

 パッと相手から火花が開いた。 車体に弾丸が当たり、小銭の様に潰れた鉛が足元に落下。

 私の番だな!

  

 この間に、敵は次の弾丸を装填しているに違いない!

 倒された引き金に押される反動、右肩に衝撃が走った。

 確実な命中弾!

 敵の人影は確かに倒れ、小銃の様なものが窓から落ちていく。


 なり轟く銃声は止む事がなくむしろ激しくなっており、心底沸く「ここから離れたい」と言う気持ちが溢れんばかりに・・。

「応急修理完了!完全じゃないから無理して走るなよ!」

 

「ありがとう、工兵の皆さん!」

 やっと中に入れる・・。

 まとめられた工具、百式短機関銃を抱いて逃げるかのようにハッチの上から乗り込んだとき、不思議と安心感が出始めて私はほっとする。

 

 こんなにも戦車が安心な場所だなんて・・。

 しばらく鉛の弾から逃れられるよ・・。

 そういえば砲弾を撃たなかったのは修理中だからだったのだろうか。


「とりあえず前進」

「前進ッ」

 奇妙な音に騒音を持つ戦車は再び市街地の中を前進開始。

 

「進めや進めや、皆々進め、倒せや倒せや皆々倒せー」

 楽しそうに"突撃ラッパ"の歌を歌い始めた、近衛操縦手に続き、


「進めよ進めよ全軍進め、我らの後から全軍続け」

 私もそれに乗って声を出して歌うと、

「弾込め、撃ち込め、どんどん狙え、私の射撃は世界一ー」

 突撃ラッパをアレンジした歌に楽しくなり、


 最後の辻の番には、

「装填、装填、私の仕事、砲弾持てばすぐ込めるー」


 こうして戦う歌はどこか格別の気分がした。

 この日、あっけなく英軍は退却しこの市街地を手に入れると、市民から貰ったリンゴは甘くて苦い味がした。

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