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76:クエストの終わり

「あー……恥ずかしかった」

「あ、ウォレスにもそういうのやっぱりあるんだ」

 魔物が消え静かになった草原にへたへたとしゃがみ、俯いて小さく素の感想を零すとそれを聞いていたユーリィがくすりと笑った。

「突然語り出すから何かと思ったぞ」

「くっ……それっぽく知識を語ると謎のゲージが溜まって全員の魔法やスキルにバフが掛かる、とかいうスキルのせいでアレだっただけで……戦闘中に悠長に語り出すやつがいるか! と言うのがわしの本音なんじゃが」

「また何だか面倒くさそうなスキルですね……でもかっこよかったですよ。バフの効果もかなりあったみたいですし」

「おじいちゃん、ノリノリだと思ってたよー!」

「ボスとかの長期戦用かもな。けど浪漫があってすげぇ良かったぞ」

 うう、皆の感想が痛いような嬉しいような……何で運営はこんな面倒くさいスキルを作ったんだ!

「もう二度と使わぬ気がするがの……」

「えー、勿体なくない? 長々語らない場合はどうなのかとか、気になるから今度一緒に検証してみようよ」

「多分、何か上手い使い方があると思いますよ」

 それは確かに……一理あるかも? サッと語って十とか二十パーセントくらいで済ませたらどのくらいの効果になるのかは気になるかな。

「そういうチャージ系のスキルって私もあるけど、ちょっと使いどころが難しいのよね」

「ユーリィのスキルはどうやってチャージするのかの」

 顔を上げて聞くと、ユーリィは右手に持った銃を持ち上げて両手で構え、真っ直ぐ前に腕を伸ばした。

「こうやって両手で構えてじっと動かないのよ。それなりに時間が掛かるから、安心して使える場面は限られるわね」

「俺もあるぞ、チャージ系。俺のはメイスを持ってぐるぐる回転した回数でチャージされるんだ」

 ギリアムは苦笑と共にそう教えてくれた。

「回転……目が回らんか?」

「回るな。そのうえチャージが溜まったときに上手いこと敵に当てられるように回りながら位置を調整しなきゃならなくて、面倒くせぇし」

「それ系のスキルって威力が強いから必殺技っぽいけど、ネタ感もあるよな。ま、ウォレスもあんまり気にせず色々試したらいいさ」

「うむ……そう考えておこうかの。とりあえず今はもう良しとしよう」

「おじいちゃん、転職クエスト、これで終わり?」

 んー、多分そうだと思うんだけど、どうかな?


 立ち上がって前を向けば、魔物が消えた場所には一冊の本が浮いている。

 皆が見守ってくれる中、私はそれに近づき手を伸ばした。

「これが最後の本か否か……」

 そう呟いて指先で触れた途端本はパラパラと勝手にめくれ、そして開いたページから突然ドッと黒が溢れた。

「っ!?」

 驚いて思わず引きかけた身を溢れた闇が瞬く間に包み込み、視界が黒く染まる。

 ハッと気がつけば私は暗闇の中に一人立ち尽くしていた。辺りを見回したが、仲間たちの姿はどこにもない。

 視線を下に向けると、何故か自分の体はちゃんと見えた。完全な闇の中ではないようで少しホッとする。

 戸惑いながら視線を前に戻すと、前方にポツリと白い小さな光が灯った。だがそれは随分と遠くにあるようでとても小さい。当然ながら私の周りは暗いままだ。

 あそこに行けばいいのだろうか、と足を踏み出そうとすると不意に声が響いた。

「新たなる賢者を志す者よ。まずは、その道の入り口に立ったことに祝福を」

 聞き慣れた声に慌てて横を向くと、そこにはアカシアの姿があった。

 けれど小さくない。私よりも背が高い姿だ。

 見慣れないけど、大きいアカシアも何かめちゃくちゃ賢者っぽくていいね!

 並んで写真……いや、その前に話しないと。


「道の入り口か……それにしては、随分と暗いようじゃが?」

 賢者へ続く道、と言われて想像するものとこの場所は何だかかけ離れているように感じる。賢者なんて華々しい名の職業なら、もっと明るい道でも良さそうなものなのに。

「そうとも。もう何度も聞いただろう。知の道は目に見え難く、時には薄闇に続く、と」

「ふむ……確かに」

「この道がこうして暗闇の中に続くものだとしたら……それでも、君は進むかね?」

 道と言っても、それらしきものは暗闇の中には見えない。私は何となく足元に視線を落とし、ふらりと一歩足を踏み出した。

 すると、私がさっき足を置いていた場所がほの白く光って足跡として残った。もう一歩足を踏み出せば、その後にも白い足跡が。私が数歩進むと、後に残る足跡は白く光る新しい道のように感じられた。

 私は顔を上げてアカシアを見て、それから遠い光に目をやった。

「この先にある道は確かに闇に包まれ、今のわしには見えておらんな。何を求めるでもなく、闇雲に本ばかり読むわしの旅は確かにそんなものかもしれん」

 かっこいい魔法爺になるというのが私にとっての不変の目標だけど、まだ具体的にこれっていう何かを決めているわけじゃないしね。

「そうやって誰かが遺した本を読んでばかりいるが……誰かが歩いた後を追うなら、忘れ去られ、見え難くとも道は確かにそこにある。ならば歩みを止める理由はあるまいよ」

「もし、道がなければ?」

「その時は、わしが最初じゃな。大手を振って、どこにでも行けるじゃろうよ」

 最初の一人が行き、その後を無数の者が歩くことで道は出来る。

 その時はせいぜい、うんとかっこよく堂々と歩くしかないね。私の後にかっこいい魔法爺や魔法婆を目指す人が出るかもしれないし!

 胸を張った私を見て、アカシアがくすりと笑う。

「やはり君には、この道が似合うようだ」

 アカシアはそう言って、私に何かを差し出した。釣られて私も手を差し出すと、手の上に丸い何かが載せられた。

 暗い中でも淡く光るそれは、丸いメダルだった。大きさは私の手の平より少し小さいくらいで、ヒヤリとした感触から金属製のようだ。

 色まではこの暗がりでははっきりしないが、縁をぐるりと飾る葉っぱと、それに囲まれるようにして梟の絵が描かれている。

 裏返してみてもそれ以外の飾りはない、シンプルなメダルだった。

「知を求むる者に、きらびやかな飾りはいらぬ。蓄えたその知と友を頼りに、望む道を行くが良い」

 アカシアがそう告げた途端、メダルが眩く光り出す。暗闇に慣れつつあった目を思わず閉じ、そして再び開くと、私は銀葉の庵にクエストを始めた時と同じように立っていた。

 ハッと見回せば後ろには仲間たちがいて、不思議そうな表情で私を見ている。

 もう一度前を向けば、そこには見慣れた銀葉アカシアの木と、その下のテーブルと、そしてテーブルの上に立つ小さなアカシアの姿があった。

「……終わった、のか」

「ああ、終わったとも。おめでとう、ウォレス」

 アカシアの声と共にポーンと音がしてウィンドウが開く。


『魔法学者への道(六):Clear! 特殊アイテム『ウォレスの書』を手に入れました』


「ウォレスの書?」

「ああ。さっき渡したメダルを出してみるといい」

 メダル……あ、左手に握ったままだった。明るいところで見るとメダルは金と銅の中間くらいの渋い色合いをしていた。

「それを持って、『書よ、開け』と唱えるのだ」

「ふむ……『書よ、開け』」

 私がそう言うと、手の上のメダルがふわりと十センチほど浮き上がる。そしてそれがピカッと一瞬光ったかと思うと、次の瞬間大きな本が現れた。

「おお!?」

 大きさは……表紙はA4サイズくらいだろうか? 本にしては結構大きい。厚さも六、七センチはありそうだが、私の手の上でふわふわと浮いているので重たくはない。

 表紙の革は渋い茶色で、真ん中にはさっきのメダルがピタリと貼り付いていた。

 驚いて眺めていると本は触らずともぱらりと開いた。表紙と最初の数ページがひとりでにめくれ、そこに書かれた目次が目に入る。目次に並ぶのは沢山の文字で……それらにはもちろん見覚えがあった。

「これは……わしが今まで読んだ本かの?」

「ああ。これは君が集めた知が記される、君だけの本だ。魔法学者には必須の武器でもある」

「え、かっこよ……んん、いや、それは助かる……頼もしい武器じゃな」

 おっと危ないつい本音が。

「使い方や、魔法学者らしい戦い方は、君自身が模索していくといい。君には良い仲間もいるのだ。彼らと共に存分に楽しむといいだろう」

「うむ……そうしよう。ありがとう、アカシア」

「ああ。君のこれからの旅路に、知の神の祝福があらんことを」

 んー、祝福してもらえるのは嬉しいけど、そんな別れのような言葉を言われては困るかな。

「また遊びに来るからの。次は、アカシアが知らぬ本を探して土産にしよう」

 そう言うと、アカシアは目を細めて頷いた。

 うん。老人の姿をした精霊の柔らかな笑み……やっぱり最高だね!

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― 新着の感想 ―
分厚くてでかい本……。 もしこれが、破壊不可能な代物だった場合……(汗)。
 今度からはロールプレイも求められるから、不慣れな行動で頭が真っ白にならないように補助具は必要だわな
活字中毒老年魔術師(中身不思議系美少女)、うん激しく好みですね。 面白いです、良い物語をありがとうございます。
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