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74:姿を変えるもの

 そう決意したところでちょうど良く、ポーンと聞き慣れた音がした。


『汝の知と、友との絆はここに記された』


 本に書かれた文字もいつの間にか変わっている。


『魔法学者への道(六):達成率85% スキル『汝、語り部たれ』を手に入れました。このスキルはクエストの失敗時には失われます』


 お、進んだし、新しいスキルだ。

 やはりまだクエストは先があるらしい。85%ならあと一つくらいかな?

「ウォレス、クエスト進んだ?」

「うむ。あと一つありそうじゃが……先にスキルを確かめようかの」

 ポチリとスキル名を押すと、詳細が出てくる。えーと、新しいスキルの効果は、と。


『汝、語り部たれ:知を語り伝える者よ、話術や演戯は時に汝の助けとなるだろう。効果:強化スキル(P)戦闘時、持っている知識をそれっぽく語るほど、自分と仲間の魔法やスキルの効果が増す。プレイスタイルに合わせた演戯を追求すべし』


「……??」

「おじいちゃんどしたの、変な顔して」

「梅干しでも食ったみたいな顔になってるぞ?」

 うん、読んだ文が意味わからなすぎてちょっとね……。

 演戯? いや、今の私のロールプレイも演戯っていえばそうだけども。その上でさらにかっこよく何かを語ると効果大ってことなのかな……そもそもそれっぽくってどういうこと。謎すぎる。

「新しいスキルがちと謎すぎてな……まぁ、使ってみるしかないかの」

「そういうのありますよね。とりあえず試してみれば良いと思いますよ。ちょうど皆揃ったから、上手く行かなくてもフォロー出来ますし」

「そうよ、何でもやってみましょ」

「使えば何かしらわかるさ。さ、次へ行こうぜ……っと、そうだその前に写真撮らせてくれ!」

 ギリアムに言われてふと自分の背後を見やれば、今まで触れてきた沢山の本がふわふわと宙に浮いている。私の体を取り巻く光の帯も、気付けば幾重にも重なり、キラキラして綺麗だ。

 一本一本は細いし光も淡く、文字っぽい模様の連なりなので何となくレースのリボンのようにも見える。

 数は多いがどれも私の肩から下の位置で浮いているので、特に邪魔になることもなかった。視界を遮られたら困ってたかもしれないが、幸いそういうこともない。

「ちょっと杖掲げてくれ、手を伸ばして、そうそう!」

 ギリアムに指示されるまま、杖を持った手を少し上に上げる。

 さっきのスキル……こういう動作も演戯のうちに入るんだろうか? その辺がわかりやすいスキルだと良いんだけど、どうだろうね?


「よし、バッチリだ! いつでも次行っていいぞ」

「ギルさん、めちゃくちゃ良い笑顔で撮ってたわね……写りのいいの後で私にも送ってね」

「ボクも欲しい!」

「あ、俺にもお願いします」

「……俺も……いや、ジジイの写真とかあっても……ファンタジーっぽくていいけど、うう」

 格好いい魔法ジジイの写真を皆が欲しがってくれてちょっと嬉しい。私も送ってもらったら大事に保存しておこう。

 約一名が何か葛藤しているが、魔法ジジイがかっこいいことをそろそろ素直に認めても良いと思うよ!


「さて、では次に行くか……次は何じゃろうの」

 宙に浮いたまま私たちを待っている本に、改めて向き直る。多分これが最後の本になると思うんだけど、どうかな?


『知の道を友と歩く事を選んだ者よ、汝の知が持つ力を示せ』


 お、文面が変わった……と思う間もなく、本が光り始める。

「ウォレス、急げ!」

 ミストに声を掛けられて私は慌てて駆け戻った。盾を構えたミストの後ろに隠れこむと、ちょうど光がおさまってゆく。

「今度は何が出るんだ……って、またハリネズミ!?」

「皆、ミストの後ろに!」

 現れた敵は最初に戦った連撃ハリネズミだった。私の声に全員が慌ててミストの背後に駆け込む。

「鉄壁!」

 ミストがスキルを使った途端、放たれた無数の針がそのバリアに激しくぶつかった。

「ウォレス、カウンターいつだっけ!?」

「三十秒の針攻撃の後じゃよ! 多分あと少し……」

 連撃ハリネズミは三十秒続く攻撃の後、三回光って大技を放つ。私もそれに合わせて呪文を詠唱し始めたのだが、しかしその直後に私は思わず口を止めた。

 ハリネズミの体全体が光っている。まだ三十秒経っていないし、その光り方もおかしい――

「ミスト、カウンターせず様子見を……」

 ――そう言いかけたとき、ミストが慌てた様に前に数歩出た。何を、と止める間もなくミストは盾を横に振って低く構える。次の瞬間、その盾に黒い影がぶつかった。

 ドゴン! と激しい音を立てミストの盾に当たったのは、横薙ぎに振るわれた黒い尾だった。

「ちょっと待って、ハリネズミがいつの間にかトカゲになってる!」

「ホント!? トカゲならボクが出るよ!」

 スゥちゃんがそう言って飛び出し、ミストが止めているトカゲに向かって斧を振るう。

「てぇいっ!」

 大きな斧はさすがの攻撃力だ。一撃で黒鉄オオトカゲの硬い鱗を何枚か削り取った。

 そこに同じく重量のある武器を担いだギリアムが走り寄ったが、しかし追撃をする前にトカゲの体が淡く光った。

「あっ、鱗の傷が回復しましたよ!?」

「ちょっと待ってどういうこと……あ、また!」

 光を帯びたトカゲが、その光に溶けるように輪郭を失い、そして今度は縦に伸びる。


「木だ! トレントが来るぞ! 後ろも警戒!」

 ミストの声と共に姿を現したのは、ユーリィたちと共に戦ったブロッコトレントだった。

 トレントは現れるなり、傍にいたスゥちゃんやギリアムに向かってブンブンと枝を振り回す。ミストの背後に立つ私たちの傍にも根が現れ、それを慌ててユーリィとヤライ君が切り払った。

 私は皆に守られつつ少し後ろに下がり、暴れるトレントを良く観察してみた。

 見た目は確かに私たちが少し前に倒したブロッコトレントそのままだ。上にヤドリギが付いているかどうかまでは見えないが、トカゲの受けたダメージが回復したなら、いるのかもしれない。

 しかし次々に変化する姿を見ていると、このモンスターの正体は多分違うもののような気がする。

「今まで倒したモンスターが出てくるらしいのはわかったが……攻撃してもHPバーも出てこぬし、コイツは一体……」

『梟の慧眼』で敵の正体を看破したらいいのか、と慌ててスキルを使用してみたが、ビー、という短い電子音と共にその使用が失敗したことが知らされた。

「エラーじゃと!? この敵にはそのスキルは使用できません……そんな敵もおるのか」

 これは困った。正体がわからなければ攻略法がわからない。

 正体を見破るのが私の仕事なのに、それが通じない……いや、もしかしたら、私はコイツのことを既に知っている、とか?


 私が考えている間も皆は戦っていたが、トレントが光を帯びてシルバーもちスライムの姿になった途端、スン、と一斉に攻撃を止めた。

「なぁ、これどうしたら良いと思う? 攻撃したらまた餅をつかされるのか?」

「多分触らないのが一番な気がするわ……もしかしたらまたハリネズミになるかもだし、予め集合しとく? ミスト、そうなったら防御よろしく」

「おう……あ、光り出した。予測当たりそうだな」

「わ、待って待って!」

 光り出したシルバーもちスライムは淡い輪郭をぼよんと一回弾ませて、皆の予想通り丸っこいハリネズミにまた変わった。

『鉄壁!』

 ミストがまた皆を背に庇い、ハリネズミが飛ばす針を受け止める。

 ユーリィが下がってきて、考え込む私に声を掛けた。

「ウォレス、コイツのことわかる?」

「今考えておるから、このまましばし時間を稼いでほしい。正体を看破出来ぬので、今該当する知識がないか思い返しておる」

「どっかで読んだってこと?」

「恐らくのう」

 けれど今まで私が読んだモンスター図鑑には該当するようなものはいなかったはずだ。

 次々と別の魔物に姿を変える、というのがキーワードのような気がする。そんな魔物について書かれた本があったか、脳内で必死に検索をかける。


『汝の知が持つ力を示せ』


 この言葉が、何だか妙に重たく感じた。

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― 新着の感想 ―
 ワンチャン、精霊説
[一言] それっぽく語る。 「もしやあれが噂に聞く」「知っているのか○電」「うむ」みたいなやつだろうか。
[一言] 「熱膨張って知ってるか?」ってドヤ顔で語ればアツアツコーヒーの温度が更に上がるスキルか 使いにくいな
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