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67:軽トラックよりも大きい

「あ、ウォレスさん、ミストさん!」


 再び本に呑み込まれた後、気付けば場所はいつか通ったセダへ続く道の途中だった。

 遠くに見える森を背に、待っていたらしいヤライ君がブンブンと手を振る。

「見てましたよ、二人の戦闘!」

「見ていた?」

「ええ、目の前にモニターが出てきて、二人の戦闘が映ってたんです。かっこよかったですよ!」

 お、それは嬉しい。横にいたミストも照れくさそうにしつつも嬉しそうだ。

「写真もいくらか撮っておきましたよ!」

 ヤライ君、有能~!

 後で送ってもらおうと頷き、周囲を見回せば近くに新しい本が浮いている。

 このまま、少しずつ仲間と合流していく感じなのかな?

「また戦闘になるのか?」

「多分そうじゃろう」

「準備できてますよ!」

 映像を見ていたらしいヤライ君も、何が起きても良いように準備していてくれたらしい。

 二人はそれぞれ武器や盾を構え、私の両脇に立つ。

「さて、何が来るかの」

 本に手を差し出すと、それはふわりと私に近づいてパラパラと開かれた。


『汝らの知と力を示せ』


 その文面を確かめ、私は急いでミストの後ろに隠れこむ。さっきのようにいきなり攻撃されたら危ないからね。

 何が出てくるのかと固唾を呑んでみていると、本はまた強い光をしばらく放って消え失せ、そのあとに一匹の巨大なモンスターが現れた。

「うげ、鉄皮トカゲ……よりデカい!」

「うわ……最悪です」

 現れたのはいつかヤライ君の前で倒した鉄皮トカゲとよく似た姿の、しかしそれより大分大きく黒っぽいトカゲだった。さっきの軽自動車並みのハリネズミを、さらに細長く伸ばしたような大きさをしている。

「ウォレス、距離取れ! こいつは絶対尻尾とか振り回すから! おら、こっちだバーカ!」

 ミストは嫌そうにしながらもそう叫び、トカゲの横に回り込むように走り出した。トカゲはミストの挑発にひかれ、そちらの方に体をぐるりと回す。

 距離を取れと言ったが、足が遅い私の代わりにまず離れてくれるつもりらしい。ありがたく急いで下がり、それからトカゲを観察する。

 その間にミストもヤライ君もそれぞれ自分にバフスキルを入れている。

 私も観察しながらそれを補強するように補助魔法を急いで唱えた。

「んなろっ!」

 ミストに防御魔法がかかった直後、オオトカゲの体当たりが構えた盾にドカンと勢い良く当たった。ミストの足がずずっと二、三歩分ずり下がる。しかし幸いにもさほどのダメージを食らったようには見えなかった。

「意外と、軽い! デカいだけでレベルはいけるっぽいぞ! これなら結構持つから攻撃頼む!」

「了解です! はっ!」

 ヤライ君が大きなトカゲの背に跳び乗って手にした小剣で切りつける。しかし黒光りする鱗は固く、硬質な音と共に弾かれた。

「うわ、固っ! 手が痺れるっ……!」

 ヤライ君はそのままトカゲの背の上を器用に跳び回り、顔や尻尾、もう一度背中と何カ所か場所を変えつつ攻撃し、やがて諦めたように飛び降りて走ってきた。

「ダメです! ウォレスさん、このトカゲの事とか、攻略法知りませんか!?」

 ヤライ君は、名前もわからないトカゲにお手上げだと首を横に振った。

 このクエストの特性なのか、ターゲットにされても切りつけてもモンスターの名前が出てこないのだ。

 実はさっきのハリネズミも、最後まで名は出なかった。

「多分、黒鉄オオトカゲじゃな。エリアボスの」

「マジか! それ面倒そうでパスした奴なんだけど!?」

「俺もです!」

 私が名を告げると、噛みつこうとしたトカゲの顎先を盾で殴りながらミストが嫌そうな声を上げた。

 恐らくこのトカゲは、鉄皮トカゲの上位種の黒鉄オオトカゲで間違いないと思う。

 実物は見たことないのだが、ファトスとセダの境辺りにある鉄皮トカゲの群生地に出るというエリアボスのはずだ。

 地方を分断する街道ボスと呼ばれる魔物ではないので、戦っていない人も多い敵だと思う。


 RGOではボス級の敵は何種類もいるが、用がなければ挑戦しなくても問題なくプレイできるようになっている。

 例えば街道ボスは各地方への道を開放する際、必ず倒す必要があるボス。

 しかし誰かが一度倒せば街道の通行自体は自由に解放されるので、全員が挑戦しなければならないという訳ではない。初討伐は前線組での取り合いだというが。

 エリアボスは、いつかの大蛇のように特定の地域にいる大物のことだ。それも生息地に近づいたり、不意に遭遇しなければあえて戦う必要は無い。

 あとは、クエストを受注してフラグを立てると出てくるクエストボスが一番多いかな。この前のクラゲのような変則的なのも一応その範疇だろう。

 もちろん、ボスドロップやコンプリート狙いにチャレンジする人は多い。

 しかしパーティの相性なんかもあるので挑む相手はえり好みするのが普通だろう。


 そういう意味で言えば、黒鉄オオトカゲはすごく固くて面倒くさいという理由から人気のない部類のボスだったはずだ。ミストやヤライ君もどうやら黒鉄オオトカゲには挑戦しなかったらしいし。

 初期のエリアボスであるせいか、噛みつきや突進、尻尾攻撃と割と単調な攻撃しかしてこないし毒や火を吐くとかいう事も無い。だがひたすら固いという理由から敬遠されている。

 適正レベルを大きく超えればプレイヤーの方が強くなるのでその面倒くささは減るのだが、その頃にはドロップ的にも経験値的にも、わざわざ戻って探して倒しにいく旨味も減ってしまうしね。


「黒鉄オオトカゲは、残念ながら腹も硬くてのう」

「じゃあ前の鉄皮トカゲのようにはいかないって事ですね」

 前にやったような、蔓で固定して腹から串刺しにする作戦は多分使えない。

 正しい攻略法は……多分、あの鱗は若干打撃に弱い特性があるので、打撃属性の武器で力押しで幾つか砕いてそこを刺したり切りつけたりするやり方だと思う。

 ここにスゥちゃんやギリアムがいたらハルバードやメイスで鱗を砕いてくれたかもしれないのだが、いないものは頼れないからその方法も無理だろう。

 だが、弱点が全くないわけでもないのだ。

 進化して亜竜に近づいたこのトカゲは腹皮の柔らかさなどを克服しているらしいが、その代わり竜種に共通する弱点を抱えている。

「恐らく……首の内側に逆鱗があるはずなんじゃがの」

「逆鱗?」

「何でも良いから、何か考えてくれ!」

 大きく開いた口を盾でギリギリと抑えながら、ミストが叫ぶ。

「あ、ヤバいですね! 黒霞!」

 私の所に時折下がりながら、場所を変えて切りつけたり、ナイフを投げたりとちょろちょろしていたヤライ君がミストの所まで慌てて走ってスキルを使った。

 どうやら黒い霞で視界を妨害する技のようだ。視界を塞がれたトカゲが嫌がるように首を横に振る。ミストが一歩下がり、その隙に私もミストに回復魔法を掛け、それから防御アップを掛け直した。


 オオトカゲは、レベル的にはミストがちゃんと持ちこたえられるくらいの相手らしいが、いかんせん大きい。

 ミストがヘイトを取って、大技が来そうな時はヤライ君がそれを妨害するスキルを使うという連携は今のところどうにか崩れず安定している。

 しかしここに私が攻撃で加わると、一発でヘイトが私に傾くのは明白だ。そうなるとそれをミストがすぐに取り返せるかどうかはわからない。

 私の攻撃魔法でトカゲを一撃で倒せる、というのなら話は別なのだが……ちょっと自信がない。

 このトカゲは鱗が割れないうちは、物理攻撃だけではなく魔法攻撃にもそれなりの耐性があるのだ。

 さっき出たばかりのスキルもあるが、それにどのくらいの効果があるのかもわからない。

 これも多分クエストのせいだが、HPバーが見えないのも予測を難しくしている。


 弱点と思われる逆鱗は恐らく、低く伸ばされた首の下。

 希望はヤライ君には弱点への一撃の威力を大きく強化するスキルがあることだ。そこを突ければチャンスはある。

 私の魔法でひっくり返す事が出来れば、その逆鱗をヤライ君に攻撃してもらえると思うのだが……問題はそれをどうやって成すか、だ。

 いや待って、何もひっくり返すことまでしなくても、上を向けさせる事ができれば喉は露わになるね? 

 その方法なら……ある。

「それならわしでも何とかなるかの……?」

 だがしかし、ちょっと怖い。

 うう……いや、やるしかないか。

 かっこいい魔法爺はためらったり……多分しない! ジジイは度胸だ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 逆鱗突いたらヘイト上限に跳ね上がってしばらく減らないんだろうなあ…
[一言] 竜種に共通弱点として逆鱗があるのか ロマン溢れるけどバランス取りは難しそうだなこれは
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