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61:クラゲ防衛戦

「いきなり攻撃されたりしたら困るし、ウォレスはちょっと下がっててね」

 はいはい、鈍くさいですからね。

 残念ながら自覚がとてもあるので大人しく後ろに下がる。私が持っていた料理は携帯食料も含めてほぼ全部、皆に分散して渡しておいた。

「補助魔法くらいはあった方が良いかの?」

「うーん……ヘイトがどう向くかわかんないんだよな。つーか、何か役に立ちそうなのってある?」

 そう言われると少し困る。攻撃力や防御力なんかを上げても、戦う事になるのかどうかもまだわからないしね。そうするとあとは……。

「せいぜい素早さかの……ちと変わったところでは、スキルの効果を上げるようなものもあるがこれも無意味そうだしの」

「そんなのもあるのか。けどまぁ戦う訳じゃないならやっぱ」

「ちょっと待って、おじいちゃん! それ、何のスキルでもいいの?」

 会話を遮って食いついたのは意外にもスゥちゃんだった。

「多分何でも大丈夫じゃと思うが……何か掛けたいスキルがあるのかの?」

「うん。あんね、ボクの商人スキルなんだけど、『商品知識』っていうパッシブのがあるんだよ」

「生産の方のスキルなんか、今役に立つか?」

「わかんないけど、でもこれからコレ、アレに投げるんだよね?」

 スゥちゃんの手の中には魔法焼きがある。確かにこれから投げる予定のものだ。ギリアムが本当に渋々分配してくれたのだ。

「『商品知識』って、使用アイテムの効果がアップするんだよ。だからもしかしたら、投げた時の効果が大きくなったりしないかなって思って」

「なるほど……それは試してみる価値があるかもしれんの」

「いいんじゃない? どうせ初見のクエなんだから、何でもやってみましょ」

 と言うことになったらしい。


「ならば行くぞ。『来たれ来たれ、秘密の護り手、宵闇の娘。紡がれし記憶、語られし言葉、全ての叡智はその帳の中に。我らが育みし技は帳を抜け力を得る。揺らせ、闇の帳。スキル指定、商品知識』」

 呪文を唱え終わると黒い魔法陣がスゥちゃんの足下に現れ、その体を一瞬闇で包む。

 効果時間は五分。

 魔法が掛かったのを見た皆も頷き、手始めにユーリィが走り出し、手にした魔法焼きを高く放った。

「スゥ、次試して!」

「オッケー!」

 僅かに減った黒いバーを全員が確かめ、今度はスゥちゃんが魔法焼きを投げる。それがクラゲの口に吸い込まれると、またバーが僅かに減る。違いは僅かだったが、その減りは確かにさっきよりも大きく見えた。

「スゥの方が良さそうね……誤差みたいな差でもバカに出来ないし」

「良し、じゃあ分けた料理とか全部共有に突っ込むから持ってけ!」

「りょーかい!」

 皆がアイテム移動の操作をする間に、スゥちゃんはまた魔法焼きを取り出して連続で放り投げる。

「あっ!? 弾かれた!」

 しかし今度はクラゲの口は一度しか開かなかった。あとから投げた方はクラゲの体に当たってポンと弾かれ、ジャンプしたヤライ君がそれをさっとキャッチした。

「クールタイムですかね?」

 半透明のクラゲの体の中には、確かにまだ前に投げた魔法焼きがうっすらと見えている。ヤライ君はそれが薄れるのを確かめ、拾った魔法焼きを投げた。今度はちゃんと吸い込まれた。

「面倒くせぇな。時間制限ありだってのに、待たなきゃ駄目なのかよ」

「一回のゲージの減りも僅かだし……長丁場になりそうね」

 クエストの制限時間は一時間。カウントはもう始まっていて、相談も含めて五分をほど費やしている。


「魔法焼きが軽すぎるのかもしれんぞ。他のものから投げてみてはどうじゃろう」

「じゃあとりあえず色々試してみるね!」

 スゥちゃんは頷くと、インベントリからアイテムを取り出した。他のものと言っても、選べる選択肢は余り多くない。さっきお供えで悩んだことからもわかるとおり、皆そんなに沢山の種類の食料アイテムは持っていないからだ。

 今回は村の側での軽いクエストのつもりだったので、遠出の時のようには数も揃えていない。一種類につき五から十個持っていれば良い方だろう。

 ギリアムの魔法焼き一スタックは例外だ。

 スゥちゃんはクラゲの様子を確かめるとユーリィが提供したモモペスのモモ焼きを投げる。こんがりと焼けたモモ肉をクラゲが呑み込むと、その空腹ゲージが目に見えて減った。黒いラインの端が左へ移動し、その右側からはっきりと青い色が出てくる。黒が空腹度で、それが減れば青の満腹度に置き換わるらしい。


「あ、減った! 結構減ったよ!」

「やっぱ肉の方が反応良いのか……」

「単純にカロリーかもしれないわよ」

 確かに、食料アイテムも種類によって満腹度が違うらしいしね。魔法焼きはあくまでお菓子だし、軽食の部類だ。

「じゃあお菓子系以外から行くね!」

 そう言うスゥちゃんの手には、ミスト秘蔵のセダジシのステーキが。

「あああ、くっそ、あとで絶対報酬から精算してくれよ!?」

「わかってるわよ、ちゃんと補填するから」

「買い直すために並ぶのも付き合うからそう嘆くでない。みるが良いあのゲージの減りを。ミストのステーキやりおる……」

「褒められても嬉しくねぇ!」

 いや、今のだけですごく減ったぞ。これならクリアに希望が持てそうだ。と言っても肉アイテムは多くないんだよね。


「うーん、投げ方ちょっと変えた方が良いかな?」

 スゥちゃんはそう言ってウリクラゲの右端の方へと慎重に移動する。料理を高く投げると時間ロスだと考えたらしい。

 口のすぐ手前に行き、右手にアイテムを出してちょっと振るとクラゲが口を開こうとする。スゥちゃんはその開きかけの隙間にさっと料理を投げ入れた。すると口は開ききる前にまた閉じた。

 また新しい料理を出して少し待つと、食べ終えた口がそれに反応して勝手に開く。

「上手いわね。それなら食いつかれなさそうだし、頑張ってスゥ!」

「うん!」

 わんこそばをゆっくりめに盛るようなスゥちゃんの作業を応援していると、不意に部屋の隅からゴゴン、と重い音が聞こえた。

「何だ?」

 皆がそちらを振り向くと、壁に穴が空き、そこからのそのそとウミウシが現れるのが見えた。

「敵です!」

「暇してたから丁度良いわね」

 ウミウシならばとヤライ君がそちらに向かおうとすると、今度は反対側からカニが現れる。

「おっ、カニ刺し! 行くぜ!」

 カニ肉に並々ならぬ意欲を見せるギリアムが嬉々として走り出した。

「ちょっと、カニは一人じゃ効率悪いってば!」

 ユーリィも慌てて走り出す。どの敵も単体のようなので、ウミウシはヤライ君一人でも何とかなるだろう。カニの方の二人には何か魔法がいるだろうか、と思いながら見ていると。


「ウォレス、防御と足止め魔法頼む。ギャリギャリいう音が近づいてきた」

 ミストが盾を構えて音の方へと体を向ける。今度はサザエか。

『――奮い立て、我が戦友。汝が肉体は鋼のごとく』

 先にミストに防御アップの魔法を掛けその背後に隠れるように立つ。

『踊れ踊れ大地の子――』

 大地の鎖を唱え、途中で止めて敵を待つ。同時に視界の端で必死でアイテムを投げるスゥちゃんを見る。スキルアップはあと一分半くらいかな。それまでにサザエが何とかなるかな?

 などと考えていると、サザエが壁に空いた穴から姿を見せた。ぐるぐる回りながらこちらに――向かってこない!?

「ミスト、挑発! こいつらクラゲを狙ってる!」

 突然ユーリィがそう叫んだ。

「『挑発』! どこ見てんだこの間抜け!」

 ユーリィの声に応えてミストがすぐに挑発を使う。サザエがミストの方へと進路を変え、ギリアムが殴っていたカニもこちらへ目を向けた。しかしそちらは前に立つギリアムと後ろから攻撃するユーリィに挟まれて歩いてくる隙はない。


「クラゲ防衛戦か。なかなか凝っておるな」

「感心してる場合か!?」

「おっと、そうじゃった――『縛せ、大地の鎖』」

 中断していた詠唱を再開し、ミストの盾にドカンとぶつかって止まったサザエに捕縛魔法を発動する。

 即座にもう一つ詠唱を終えて、次の魔法を解き放つ。

『踊れ、炎の円舞!』

 範囲を絞って指定した場所に炎の柱が立つ。激しい炎に炙られたサザエは苦しむように蠢き、軋み、僅かに蓋を開けた。

「ミスト、隙間を!」

「おう!」

 サザエの蓋の隙間にミストの剣先が吸い込まれるように刺さった。そうなれば、中が柔らかいサザエはひとたまりもない。

「ウミウシ終わりました!」

「カニもうちょい!」

 ヤライ君とギリアムの声を聞きながら、私は急いで背後のスゥちゃんに闇の帳をかけ直す。

「ウミウシお代わりきました!」

「サザエもまた来るぞ!」

 何かいきなり忙しいね!?

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[気になる点] このクラゲ、焼きサザエやったら食うのかなあ
[良い点] 肉! [一言] ちゃんとパーティーメンバー全員が楽しめるように防衛クエストを含んでいるところが偉い!
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