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51:賢者の庵

 はっ、格好いい魔法爺風精霊に感動してる場合じゃない。何か聞かねば……と思うんだけど、突っ込みどころが多すぎてどこから質問したら良いのかわからない。こういう時、動揺が顔に出にくい質で良かったと心から思う。

 落ち着け私……理想の魔法爺の心を常に忘れてはいけない。


「ふむ……幾つか質問してもよろしいか?」

「もちろん。私はここに来た者の問いに答える為にいるのだよ。全てに答えるかどうかはわからぬがね」

 良かった、じゃあ何から聞こうかな。えーと。

「ここは銀葉の賢者の庵と仰ったが、それは一体?」

 問いかけると、アカシアは一つ頷き手にした杖を一振りした。するとテーブルの真ん中から小さな椅子が現れた。彼はそこに腰を下ろし、私の問いにゆっくりと答えてくれるつもりらしい。ああ、優しい。好き。


「始まりの王の友だった賢者の事は?」

「上の書架にあった歴史書で少しばかり。あまり詳しく書いてあるものはなかったがの」

「それは仕方ない。彼の方は己のことを人に記される事を好まなかったから」

 そう言ってアカシアはふふ、と笑う。賢者を懐かしんでいるようなそんな笑みだ。

「サラムを作ってしばらくして、弟子に街を任せて姿を消したと」

「そうだね。さて……何から語ったものか。いや、多くは君がここから探すべきものでもある。ならば最低限にしておくべきかな」

 いや、全部語ってくれても構わないが。しかし安易な知識に飛びついたら魔法爺の名が廃るかなぁ……悩ましい。


「ここは一言で言えば、銀葉の賢者が去る前に作った彼の集めた知識の保管庫なのだよ。まぁ見ればわかると思うが。そして私は彼の長年の友であった、知の精霊。叡智ある所を愛する者。故に、ここに留まりその管理を請け負った」

 妖精じゃなくて、精霊なのか。妖精と精霊はどう違うんだろう?

「……ここに、賢者の全てが?」

「いいや。ここはその一つに過ぎない。知というのは、必要とされる場所に近い所にあるべきだと言うのが賢者の信条でね。だから幾つかに分かれているよ」

「なるほど……では、ええと……この指輪は、ここの鍵なのかの?」

 私は右手をかざして小指にはまった指輪を見せた。アカシアはそれを見て頷く。

「そうとも。それは銀葉の一葉で作られた、庵の鍵だ。上のギルドの転送陣で、指輪をはめてここに来たいと願えば今後はいつでも招かれる。他の庵も、扉さえ見つける事が出来ればそれで入れるだろう」

「それはありがたい……そういえば、久方ぶりの客人と言っておられたが、ここにはあまり人は来ないのかね?」

「もう随分と誰も訪ねてこなかったね。そも、ここに来るにはいくつかの条件を満たさねばならない。知の妖精の祝福も不可欠だ。だが昨今の魔道士は知の妖精よりも魔の妖精を好むようだ。知の道を地道に歩くより、手っ取り早く魔力を増やしたり威力を上げたいのだろう」

 なるほど。確かにそれは魔道士にとっては魅力的な祝福だ。そうすると、私ももっと普通の魔道士らしくしていれば、どこかで別の出会いがあったのかもと言うことなのかな。

 魔の妖精の祝福か……でも、私はこっちでいいかなぁ。妖精の外見にはちょっと興味あるけど……爺じゃないならまぁ別に何でも良いか。


「ここの知識は、私が手に取って許されるものなのかね?」

「賢者の遺した叡智は全ての知を求める者のためにある。好きに入り浸るが良いよ」

 やった! 本が読み放題!

 私はそわそわしながら本棚を見上げた。するとそんな私を見てか、アカシアがくすりと笑った。

「ただし、ここで知を得るには、少しばかりコツがいる」

「え?」

「本棚まで行ってごらん」

 促されて立ち上がり、私は壁際まで歩いて行った。近くまで行ってみると、本棚は見上げても上がよく見えないくらい高い。辺りを見回したが可動式の脚立などはないようだし、一体どうやって上の方の本を取るのだろう? いや、あっても多分登りたくないけど……。

 私は首を捻りながら、取りあえずすぐ目の前の一冊に適当に手を伸ばした。


「……触れない?」

 本が、手をすり抜けた。ここの本はロブルの古書店と同じく、読むのに何か条件や許可がいるのかな?

「触れないだろう?」

 声に振り向くと、すぐ側に杖に横座りしたアカシアが浮いている。空飛ぶ小さい魔法爺可愛い……。

「何か条件が?」

 気を取り直して問いかけると、アカシアは首を横に振った。

「ここは知識の保管庫であるけれど、ギルドの図書室のようにただ並んでいると言うわけではないのだよ。ここに来るべきは、知識を求める者。求めるものを持たなければ、目の前には何も現れぬ」

「……なるほど?」

 それはなかなか難しい。私は少し考え、それから口を開いた。


「わしは、魔法学者への道を求める者。魔法学者とは何か。その可能性は? そしてそこに至る道と、その先への導きを」

 次の瞬間、私の周りを数本の光の帯が取り巻いた。その帯は光る文字のようなものが集まったもので、それはしばらく私の周りをくるくると回っていたかと思うと、ゆるりとほどけてどこかへ飛んで行く。目で追っているとそれは少し離れた場所の上の方の書架に吸い込まれた。

 そして、その場所から今度は数冊の本が飛び出し、私の方へと降ってくる。

「わ、っと!?」

 受け止めなければと思わず手を出したが、本が落ちてくることはなかった。厚さも装丁もまちまちの三冊の本は私の胸の高さにぷかぷかと浮かび、くるくると周りを回る。

 それを見ていたアカシアは満足げに頷いた。

「その本は君の探すもの。さ、ゆっくりと読むと良い」

 アカシアがパチリと指を鳴らすと、床から新しいテーブルセットが生えてくる。

 私は有り難く椅子を引いて座った。すると本達も礼儀正しくテーブルの上に下りてきて静かに重なった。


「ここでは、己の知りたいことを常に明確にして置かなければならない。わかるだろう?」

「知識を得るためには、前提となる知や問いがなければならぬと」

「そうとも。後は例えば、手にした本を読むうちに湧いた疑問や、新たな求めもきちんと憶えておくべきだろう。それが君を新たな場所へと導くのだから」

 私はその説明を聞いて、思わず笑ってしまった。

「確かに、ここはラウニーの言う通り、知の海のようじゃな。渡りきるには船がいりそうだの」

「ふふ、君を乗せる船は、いずれ手に入る。しばし溺れる事を楽しむと良いさ」

 ごゆっくり、と言ってアカシアはふわふわと木の側に戻っていった。

 ああもう、意味深……! 心ゆくまで問いただしたい! しかし多分答えてはくれない気がするから予想するしかない。

 今の言葉の意味は多分、ここの本を読み続けていたら何かしらの本を読むためのスキルが手に入ると言うことじゃないかなって思うんだけど……そうだといいなぁ。


 私は取りあえず本を手に取る前に、ウインドウを開いて自分の装備欄を見た。アクセサリーは……あった。

『銀葉の指輪』というのが増えている。

 銀葉の賢者の庵に入るための鍵で、ウォレス専用、譲渡不可、と。良かった、盗まれたりする心配は無いらしい。

 装備者の知識量に応じて知性をアップ……使い勝手が良いのかどうかはわからないが、私向きというのは確かだ。大事にしよう。

 私はふと中央に生えている木の方を見た。花がついていないし植物の見分けに自信はないが、あれは多分アカシアの木なのかな? 

 葉が銀色っぽくて見慣れないが、この指輪の材料はあれだろうか。銀葉の賢者という名の由来もあの木と関係あるのかもしれない。なら精霊の名も、彼の賢者が付けたのだろうか。

 聞けば良かったという疑問が今頃次々湧いてくるが、自分で調べるのもきっと面白い。

 後でその辺りについても記された本があるかどうか調べて見ようと思いながら、私はとりあえず目の前の本を手に取った。


 目の前にある三冊は、魔法学者についての本、学者の先の可能性が書かれたっぽい本、具体的な転職についての本。

 タイトルから予想すると、そんなところだろうか? さて、どんなことが書いてあるのやら。


週末はちょっと忙しくしてるので続きはまた来週。

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― 新着の感想 ―
……爺じゃないならまぁ別に何でも良いか。に笑いました。      ナミちゃんジジコンじゃなくて枯れ専疑惑。 Googleを挙げてる人いるけど、本を読むのとGoogle検索は違うような? 何よりGoog…
 知識量で強くなる主人公にGoogle検索機能を渡したようなもんじゃねw?
[気になる点] >爺じゃないならまぁ別に何でも良いか またルッ◯ーの系譜が現れても許せると? [一言] 後追いでここまで一気読みでした。 続きもきっとすぐに読んでしまうのでしょう、楽しみです。
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