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47:プロローグ

 富士山に自力で登ったことはない。


 運動が苦手な私では、多分十分も歩くと息が切れて死にそうになるんじゃないかと思うからだ。

 けど、その雄大な姿を近くで見たことはある。随分昔に、一度だけ家族旅行で行ったから。五合目までバスで行って眺めただけだが、登った場所からの景色は良かった。けれど同時に、富士山の姿が近すぎてあまりよく見えない事に少しがっかりもした。むしろ登る前に下から初めて見た時の方が、その大きさに感動した気がする。

 その時に私は思った。きっと富士山は遠くから見るのが一番いいのだ、と。


「と言う訳なんじゃよ」

「いや、何がどういう訳なのか全っ然わからん」

 サラムに呼び出したミストに、私は喫茶店で蛍光緑のぷるぷるの半球にドピンクと水色のマーブルのクリームが乗った甘いお菓子を奢りながら事情を話した。ミストはものすごく嫌そうに、時折目を瞑りながらそれを食べている。

「くっ、なんでこれ総合的にはカラメルプリンほんのり紅茶味なんだ……しかも結構美味いのがめちゃくちゃ混乱する……」

「ミストの好きな味だろうと思ったのだが、当たりだったかの」

「当たってても全然嬉しくない……目を開けて自分が食ってるものを認識したくない」

 呻きながら食べる事は無いと思うんだけどな。味は悪くない。味は。


「で、さっきの何なんだよ。富士山がどうしたって?」

「いや、だからな。わしは今転職クエストに挑んでおるのだが……」

「お、やっとか。何にしたんだ? 魔道士系の転職って、塔にソロで登るんだろ?」

「うむ……塔には登ってない」

「え、じゃあなんだ? 隠しクエスト? ウォレスは変なの引き当てそうだけど……」

 呼び出した理由をもっと詳しく話したいのだが、ここではちょっと気が引ける。

 私はウィンドウを開いてミストにパーティ申請を送った。

 音がして気づいたミストがすぐにパーティに参加する。そのパーティ会話で、ミストに早速話しかけた。これなら周りの人に聞かれる心配は無い。


「わしは、塔に登るのではなく今地下に下っておるのだが」

「おお、やっぱ隠しクエストなんだ? ソロダンジョンか? もしパーティオッケーとかなら手伝うけど、そう言う話か?」

「今は準備段階で、戦闘があるのはもっと後じゃな。その時はパーティでいけるようじゃから、皆に協力を願いたいと思うておる。それで、ミストには撮影係を頼みたいのじゃよ」

「……ん? なに係?」

「撮影係。だから、さっきの富士山じゃよ」

「いや、だから全然繋がらないんだって!」

 話の流れに困惑したミストがテーブルに両肘を突いて頭を抱え込む。どう説明したらわかりやすいかな? 


「何というかの……転職クエスト中のわし、多分、いや絶対めちゃくちゃカッコいいと思うんだがの! けれど残念ながらそれはわしからは見えない……そう、登ってしまうと富士山の全体の姿が見えないように! 自ら理想の爺になってしまったが故に、わしにはその姿が見えないというこの悲劇! だが難易度の高い転職クエストに挑む魔法爺をぜひ記録に残しておきたい……しかし三脚とカメラでは何か違うしクエストに集中できそうにない。そこでお主に撮影係を頼みたい! という訳なのだが」

「お前って……ぶれなさすぎて、一周回ってなんかいっそ清々しい気がしてきた」

「ふ、褒めても何も出ぬぞ」

「褒めてねぇえ!!」

 別にユーリィやヤライ君に頼んでも良いんだが、二人は良く動く職業だからどうかなって思って。スゥちゃんは背丈が小さいから上手く撮れるかわからないし。あと一人は戦闘スタイルをまだ知らないからさ。


「難易度は一番高いものに挑みたい。そうなるとできればフルパーティ埋めたいから、あと一人、この前出来た友人に協力を頼もうと思っておるんじゃが……まぁ、準備が整ったら改めて日程の調整なんかを頼む」

「わかったよ。撮影は……まぁ、うん、頑張る」

 いや、撮影こそ頑張ってくれないと困る! そこはよろしく!


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― 新着の感想 ―
なんか富士山の威容が途中まで登っちゃうとわからないって話で、すぐにあーそういうことかとピンときました。 魔法ジジイ推しなのに自分でなっちゃってるからね… 転職クエスト中のわし、多分、いや絶対めちゃくち…
[良い点] おおおお、復活万歳!
[良い点] まさか続きが読めるとは!更新再開とても嬉しいです
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