ファンタジー・エレベーター
前回:吐血した廟公が転院したのは、廃墟同然の不気味な「病院」だった。死を目前にした父と、付き添う娘と阿郎は、意を決してレインボーの光が渦巻くエレベーターへと足を踏み入れる。
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時間:7時間前
場所:台南・性霊病院
陳医師の診察室には、薬師如来の神壇がある。彼はうやうやしく神像を下ろし、輝くスチールの保管庫へと収めた。代わりに懐から取り出したのは、ボロボロに欠けた一尊の神像だ。
「廃墟からお迎えしたばかりで恐縮ですが、お力をお貸しください」
低く呟き、彼はその像を神壇へと安置した。
診察を受けるのは、骨が浮き出るほどに痩せこけ、苦痛に顔を歪めた老人。陳医師は震える手で三本の線香を掲げ、祈りを捧げる。
「#$?^……非才なる弟子、ここに第二次大戦の老兵・李金土を託します。福徳正神(土地公)様、どうか聖駕を垂れ、奇跡を持ってこの者を救いたまえ……*&%$」
恭しく、線香が香炉に立てられた。
その瞬間、三本の線香が猛然と燃え上がり、灰が垂直に崩れ落ちた。
同時に、うなだれていた李さんの背筋が松の木のように真っ直ぐに伸びる。その眼差しは虚空を捉え、鷹のように鋭く見開かれた。彼は両手を激しく振り回し、喉の奥から地を這うような声を絞り出す。
「砲弾が来る! 急いで逃げて! 早く、早く!(緊走緊走!)」
陳医師は冷静に問いかけた。「尊駕、今はどちらにおられますか?」
相手は首を彼の方へ向け、こう答えた。
「五層樓仔だ!*」
直後、彼は糸が切れたように意識を失い、傍らにいた美しい看護師がその体を抱き止めた。
(*現在の林百貨店。日本統治時代末期、米軍の猛爆撃を受けた場所である)
李さんは目を覚ました。表情は穏やかで、軽やかな足取りでベッドを降りて歩き出す。行き交う入院患者の一人ひとりに、彼は「防空洞」と書かれた札を必死に指し示していた。その姿は実に精力的だ。美しい看護師たちは、まるで自分の家族が病から回復したかのように、満面の笑みを浮かべて彼を見守っている。
深夜......
李さんは病室の壁に体を打ち付け始め、絶叫を繰り返した。
「火が強い! 子供を先に連れて行って!」
突如、彼の胸元に広大な焦げ跡が広がり始める。まるで烈火に舐り取られているかのように。彼はベッドに腰掛け、荒い息をつきながら硬直した。
駆けつけた陳医師が、再び冷静に問う。
「尊駕、今はどちらに?」
月光の下、相手の頭がゆっくりとこちらを向く。それは梁に押し潰されたかのように不自然な角度に折れ曲がっていた。だが、その口からは穏やかな子守唄が漏れ出る。
「ねんねんころりよ、おころりよ。一晩寝れば一寸大きくなる、可愛いややこ、一晩寝れば一尺大きくなる……」
微笑みを浮かべたまま、月光は深い闇に飲み込まれていった。
その時、一双の目が驚きと共に開かれた。阿郎だ。
周囲はレインボーカラーの呼吸するようなライトに満たされている。そこは、あのエレベーターの中だった。
亜嬌がいきなり毒づいた。「ねえ、大丈夫? 怖いなら来なきゃよかったじゃない、バカ!」
阿郎が声を潜めて返す。「いや……今朝の夢を思い出して。おじさんが何かに取り憑かれて歌ってたんだ……」
金土が横から顔を突き出し、眉をひそめて目を丸くする。
阿郎は狼狽えながら説明した。「昨日、ここに来るって分かってから、山の長老が言ってた漢民族の民俗信仰を思い出して……それで変な夢を見たんだよ」
「……起乩か?」金土が低く呟いた。
その時、エレベーターの扉が勢いよく閉まり、三人は飛び上がった。扉にはカメラが設置されており、性別不明の無機質な声が響く。
「昼食はお済みですか? おや、見慣れないお客様が二名。カメラに向かって、今すぐスマイルをお願いします」
湿り気の一切ない、純粋な電子合成音。
扉の補光ライトが点灯し、亜嬌と阿郎はぎこちなく微笑んだ。直後、四方の壁が脈動する虹色に輝き出す。驚きか、あるいは最新技術への期待か、二人は歯を見せて笑った。このボロビルの中にこれほどのハイテクが隠されているとは、再診への一筋の希望にも思えた。
エレベーターが下降を始める。すると、四方の壁に次々と「勅令符」が浮かび上がった。
「What?!」
「えっ? 医者の描いた幽霊の絵(鬼画符)かよ!」
図案からは「消炎、退熱、收驚、駆邪」といった文字が読み取れる。それらは一瞬で燃え上がり、続いて不気味な白黒の記録映像が流れ始めた。BGMには台湾民俗の儀式音楽が鳴り響く。
映像の中――
病院の正門前。おしゃぶりをくわえた「小乩童」が、眉間に朱印を押し、頭に二つのシニヨンを結って、肚兜姿で二つの車輪に乗り、槍を振り回している。その横では、金縁メガネをかけた痩身の中年男が、道士の衣装を纏い、木剣を舞わせていた。
小乩童がドラを鳴らして天を指し、地を踏み鳴らす。続いて道士が、落ち着き払った動作で門前のテープを剣で断ち切った。開院の儀式らしい。
画面が切り替わる。
病に苦しむ者、狂気に囚われた者、絶望した民衆が、救いを求めて怒涛のごとく病院へなだれ込む。彼らは一人、また一人と、容姿端麗な白衣の男女によって、診察室へと案内されていった。
亜嬌は「ありえない……」と呆れた表情を浮かべる。
阿郎は逆に「漢民族の療法、すげえ斬新だ……」と興味津々だ。
そして金土だけは、厳粛な面持ちで画面を見つめていた。
映像はアクションシーンへと続く......
慈愛に満ちた【望】(視診)、鼻翼を震わせる【聞】(聴嗅診)、問いかける【問】(問診)、そして流れるような指先の【切】(脈診)。
来客たちは泣き崩れ、跪き、筊を投げ、神託を仰ぐ。看護師たちが砂盤に文字を書き、亀の甲羅を振り、体に呪文を描く。鮮やかな手つきでツボを突き、針を打ち、吸い玉を据え、薬を煎じる。
やがて、鋭い眼差しのアップ。金縁メガネの中年道士だ。帽子を脱いだその頭は白髪交じりの短髪。道服に着替えた彼は、鋭利な「サメ剣(鯊魚劍)」を手にし、観衆の前で自らの背や胸、頬を切り裂いた。白装束が鮮血に染まるが、その表情は微塵も揺るがない。
続いて、彼は真っ赤に焼けた炭火の上を素足で歩き出した。足元から火炎が舞い上がるが、その歩みは揺るぎない。防火靴を履いた患者たちがその後に続く。聞こえるのは肉の焼ける音と火の粉の音だけ。全員が静寂の中で見守っていた。
BGMが消え、再び男の瞳がアップになる。今度は道士の正装に身を包み、桃木剣で顔の半分を隠している。そこへ、スーツを着た「役人」の手が伸び、彼の額に一枚の紙を貼り付けた。
そこには「西区派出所」の印と、「勅令 封鎖」の文字。
映像が突如としてカラーに変わる。道士の服が剥ぎ取られ、その下から「炎院長 正英」の名が刺繍された白衣が現れた。彼は二人の警官に連行されていく。
病院の門前は封鎖テープで覆われていた。炎院長が鼻で笑うと、彼を押さえていた警官たちの手が衝撃で弾け飛ぶ。彼は冷静にお札を引き剥がし、家伝の剣法を舞わせた。華麗な旋回、そして一喝――。
封鎖の呪札を貫いた剣先が、「ギャァン!」という音と共に病院の重い扉の隙間に深く突き立てられた。
画面は真っ白にフェードアウトし、「浩気長存(正義は永遠に滅びず)」の四文字が浮かび上がる。
「Bloody hell...(最悪ね……)」亜嬌が毒づく。
「あおぉ……」阿郎は情報を処理しきれず固まっている。
「…………」だが、金土の目には、熱い涙が溜まっていた。
「チーン」
エレベーターの扉が開き、眩しい日光が差し込んできた。
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次回:『冷護士(冷徹な看護師)』
三人は炎院長に会えるのか? だが、まず目の前に現れたのは、凍りつくような視線の看護師だった。
開幕式の小乩童
乩童が震える。
刃が肉を裂き、
鮮血が呪符を濡らす。
信者たちは信じている。
今この瞬間、人智を超えた力が、
自分たちの苦痛を分かち合ってくれているのだと。
それは「医術」ではない。決して。
それは――
病に蝕まれ、悶え苦しむ者が、
「神」が自分のためだけに降臨したのを、その目で見るということ。
病床に付き添い、己の無力さに打ちひしがれる家族が、
跪き、香を焚き、祈りを捧げる場所があるということ。
少なくとも祈っているその瞬間だけは、
誰かが自分たちのために、矢面に立ってくれているのだ。
起乩(シャーマンの憑依)とは、慈しみである。
乩童は決して言わない。「治してやる」とは。
ただ、その背中で語るのだ。「共に立ち向かおう」と。
火の海という名の地獄を前に、
自ら進んで、その先頭を歩む。
「寄り添う」こと。
それこそが、最大の抗いなのかもしれない。




