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見過郷親(郷親との対面)

前回:起乩カミオロシ前夜、父は娘に遺言を託した。あの金色の幻影は、神の啓示か、それとも脳転移の前兆プロドロームか……!?


========


起乩カミオロシ当日。空は曇り、どこか物悲しい。福徳宮前の広場。


李金土リ・キントは一本のタバコを手にベンチに座り、馴染みの顔ぶれを静かに眺めていた。今日は一段と賑やかだ。

傍らの小さな机には、いつものパックではなく、たった一本のタバコだけが置かれている。

その横の広げた新聞には、ある見出しが躍っていた。


猪哥亮ジュ・ゴー・リャン、肝転移で逝く! 生前に禁煙し団らん、見事な人生の幕引き』

そこには、名コメディアンの遺影と、歌い踊る愛娘・小燕シャオイェンの写真が並んでいる。


金土は火をつけ、深く吸い込んだ。煙が虚空に寂しく漂う。

「……これが最後の一本だ(賰這支薰啊啦)」彼は独りごちた。


煙が晴れると、広場の人々が急に鮮やかに見えた。

金土は目を細め、日常を共にしてきた彼ら一人ひとりの姿を、網膜に焼き付けるように見つめる。

彼は、彼ら全員を「コードネーム」で覚えていた。


海港派出所の女警官「ロー」が、傘を振り回して爆竹遊びの「ホウ」を追いかけている。

「このガキ! 私の綺麗な傘(靚遮)を焼きやがって! ぶち殺して(吞咗你)やる!」

広東語混じりの怒声に鳩が一斉に飛び立つ。猴は逃げ足を速めながらも、茶化すのを忘れない。

「大食い姉さんに食われるくらいなら、自爆して死んだほうがマシだね!」


太極拳の師範「タイ」が、緩やかに手を押し出しながら割って入る。

「まあまあ、落ち着いて……まずはお茶でも飲んで、点心(包子)でも食べなさい……」

彼女は手で「茶碗」と「肉まん」の形を作って見せた。

金土と目が合うと、彼女は拳を包んで一礼する。

金土も手を振り返した。「師太シタイはいつも道理を説くのがゆっくりだなぁ」


こちらでは、盲目のマッサージ師「テン」が、娘の友人「ラン」を揉んでいた。

天が郎の股間近くを指差す。「この辺りやけぇ弱ぇんだぜ。感じるんだよ」

郎がツボを指し返した。「俺のほうが詳しいんだぜ! 医大でツボの研究をしてるんだからな」

彼は身振り手振りで説明する。「こっちは気海きかい穴! 後ろは腎兪じんゆ穴だ!」


天はニヤリと笑う。「分かってるよ、お客さんは実験材料だろ! この傷跡を見ろ!」

郎の脳裏に、日常(の研究対象)が浮かぶ。教授がレーザーポインターで彼の裸体にツボを照射し、解説する日々。その功績か、彼の体にはツボの形に焼き印がついていた。


彼は幼い頃、長老に言われた言葉を思い出す。

『お前は山を降りる。何があろうと、お前は村の誇りだ(Ljaivavaw...)』

郎は真剣な顔で天に言った。「いいか、ツボが貫通すれば、俺は100%の力を発揮できるんだ!」

彼は両手で剣指けんしをクロスさせ、叫んだ。

「アイサッ(矮殺)!」

(※アイサ:台湾原住民が放つ、言葉にできない高エネルギーな感嘆詞)

金土は思わず吹き出した。「生意気なガキめ!」

挿絵(By みてみん)

「アイサはアイサだ!アイサこそが態度だ!もう俺に聞くな!」by: 台灣原住民「威是朵拉」(@dora88815)


だが、彼の視線は次に、一人の少女に吸い寄せられた。

ポニーテールの少女が、熱心に玩具の弓を引いている。その幼い顔立ちは、子供の頃の亜嬌アキョウを思い出させた。

「子供の頃のア嬌にそっくりだ。いつも弓矢で遊んでた……」

金土の目尻の皺に温かさが宿る。練習する娘に、よく活を入れたものだ。『精神チアンスンを叩き起こせ! 目標はそこだ、負けるんじゃない!』と。


パサッ。


少女の足元にマクドナルドの袋が投げ捨てられた。少女が怒りの目を向ける。

犯人は、ブランド服に身を包んだ鼻持ちならないガキ「ディー」。

ハンバーガーを頬張りながら少女を嘲笑う。ポイ捨ては彼の日常だ。


そこへ、清掃員の女性「ジン」が竹箒とチリトリを持って静かに近づき、ゴミを拾い上げた。

迪が少女に言い放つ。「こいつが拾うのが上手いから、俺が捨ててやってるんだよ。ハハハ!」

さらにドリンクのカップも投げ捨てる。

浄は何も言わず、ただ微笑んでゴミを回収した。一瞬だけ彼をチラリと見たその顔は、献身的で、どこか恥じらっているようにも見えた。


浄は、あの羅警官の双子の妹だが、性格は正反対。クソガキへの対応も真逆だった。


「あのクソガキ、また環境を汚しおって……」金土は眉をひそめて煙を吐いた。


そこへ、禁煙ボランティアの少女「ニー」が、チラシの詰まったバッグを背負って近づいてきた。彼女は手慣れた動作で金土に向き合う。


掌を蓮の花のように広げて言った。

「おじいちゃん、おいで! 今日もいつもの、火消し灰皿だよ〜」


金土はまた慣れた手つきで首を振った。「熱くないのか? おてんば娘め」


尼がいたずらっぽく変顔をすると、金土も変顔で返す。尼は口を尖らせて去っていった。今日も、いつもの光景だ。


金土はタバコを最後の一口まで深く吸い込み、目を閉じた。


「ふぅ……」


ゆったりと息を吐き出し、その一瞬の充足感を味わおうとした。


だが、今日は「いつも」とは違っていた。


安らぎが訪れる前に、彼の意識は深い闇へと沈んでいった。


========


次回:『開壇かいだん

会うべき人には会った。

いにしえの儀式が、今、幕を開ける。

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