第5話 踏み潰されても、生き残った。(後半)
第5話 後半
◆
――崩れる。
大型マモノの右前脚が、限界を迎えたように軋み、ゆっくりと沈んでいく。
それは倒れる、というより
“耐え切れなくなった”という表現がふさわしかった。
マモノは途方もなく大きな口を開けて強烈な叫び声をあげる。ビッシリと口内を埋め尽くす歯が、小刻みに震えるほど。
「倒れるぞ!!」
「離れろ!!」
生存者たちが一斉に距離を取る。
キーパーの全身が、限界を超えて軋みを上げていた。
だが――彼は、大型マモノが崩れ落ちる最後まで膝をつかなかった。
「キーパー!大丈夫か!」
駆け寄るシーカー。驚いたのは、キーパーの体が殆ど無傷だったこと。
当然筋肉疲労や、多少なり骨への損傷はあるだろう。だが、目立った傷や欠損は見られなかった。
「やはり⋯!君の能力は限界を超えている⋯!」
ひとり高揚するシーカーをよそ目に、キーパーは歩き出す。
「……まだ、だ。まだ⋯マモノは生きている。」
喉から絞り出すような声。
その一瞬を、誰よりも理解していた者がいる。
「あとは⋯"アイツ"がやってくれる。俺達は⋯そうしてきた」
◆
――東端のビル屋上。
ガンナーは、呼吸を止めていた。
スコープ越しに見ているのは、体勢を崩し、地面に伏したマモノ。その頭部。
通常の狙撃距離ではない。 標的も、生物としては異常なサイズ。
だが――
(今なら……撃ち抜ける。)
スコープ中央に、
空に向かって口を開け、悲鳴を上げているであろうマモノの喉奥が映る。
鱗や、外骨格に覆われていない、唯一露出した“内部”。
「……キーパー。ありがとう。」
小さく呟く。
「これで……終わらせる」
トリガーに、指をかける。
キーパーが耐えてくれていた間、思い起こされていたのは亡きターミネーターとの思い出。
〜
「こ、こんな凄い銃、いただけません。」
「良いんだ。それに貰ってくれなきゃ、俺が困る。お前以外の奴だと、こんな銃は扱いきれんからな。」
「た、確かに⋯。」
「普通の銃とは全然違いますが⋯というか、これ銃なんですか?」
「あぁ。俺特製の超合金波動銃だ。エネルギーの充填時間を調節すれば、そりゃもうどんな奴だって撃ち抜ける威力になる。」
ターミネーターは自信満々といった顔で胸をはり腕を組む。
しかし、すぐさまの表情は苦笑いへと代わり鋼で出来た後頭部を掻く動作をする。
「⋯ただ、その反動に耐えれるように作ったら、あまりにもデカすぎて重すぎる代物になっちまったけどな。」
重すぎる。と言われたが、実際に手に持つガンナーには、それほどの重みは感じない。
「そんなに重く感じないですけどね⋯?」
「それが君の能力さ。"あらゆる銃を使いこなす"。たとえ、物理法則を無視しようとね。」
今まで使っていたのは、デスゲームが始まったときから持っていたショットガン。自分の能力は、このショットガンを使いこなすことだと思っていた。
「だからこそ、あらゆる技術と機能を詰め込んだ。ギリギリ"銃"に収まる範囲でな!」
ガハハと豪快に笑うターミネーターの姿は、この死と隣り合わせの世界では到底不釣り合いな姿。
ガンナーはターミネーターに、どこか"父性"を感じて、彼に釣られて笑っていた。
〜
「これだけの時間を貰って、更には動かない的にしてくれて⋯
ここでヤれないようじゃ、仲間とは言えないよな。
キーパー!」
引き金を引く。いつもよりも、重い。だがその重さこそ威力の証。
「撃ち抜ける!!」
――轟ッッッ!!!
引き金を引くと同時に、波動銃から放たれる一撃が、夜を切り裂いた。
放たれた弾道は、光の奔流となって空間を貫く。
マモノの喉奥へ、一直線に突き刺さる。
光はマモノの体内に流れていき、一度夜が戻ってくる。
そして刹那。
マモノの内部から、爆ぜるような閃光。
「ブォッッ……ォ゙ォォォォォォ……」
あまりの眩さに、常闇のナイトタウンに、始めての昼が訪れる。
断末魔とも言えない、
音にならない崩壊音。
巨大な体が、四肢がバラバラに弾け散開し、より細かく分解、破壊される。
大型マモノの肉片は、そのまま地面へと崩れ落ちた。
◆
……静寂。
つい数秒前まで、
怒号と銃声と轟音に満ちていた世界が、嘘のように黙り込む。
やがて。
『――大型マモノ討伐、確認』
無機質なアナウンスが、夜空に響いた。
「ウォおおおお!!!」
「やったぞ!!!」
歓声が鳴り響く。
『ボーナススコアを付与します』
『追加ボーナススコアを付与します』
視界に、次々と文字が流れる。
「よくやった⋯。ガンナー。」
キーパーはようやく、膝を降ろし地面に大の字で倒れ込んだ。
意識はある。
だが、緊張からの解放ゆえか、身体が言うことを聞かない。
視界の端で、
スコア表示が更新されるのが見えた。
――そして。
『ランク B』
はっきりと、そこに表示されていた。
「……あぁ」
力の抜けた声。
「……やっと、だな」
軽く目を閉じる。
「キーパー!!」
そんな俺に、まず駆け寄ってきたのは、シーカーだった。 膝をつき、俺の肩を支える。
「無茶しすぎだよ…だけど君は…最高だ!」
声は震えているが、表情はこれ以上なく晴れやかだった。
少し遅れて、ハンマーが来る。
「アンタ……バカだよ」
そう言いながら、彼女もどこか笑っていた。
そして。
生存者たちがお互いの労をねぎらっていると、ガンナーが丘から駆け下りてくる。あのビルからここまで、走ってきてくれたのだろう。
キーパーの前に立ち、何も言わずに見つめてくる。
「……約束は守った。」
それだけ言う俺に、ガンナーはあどけない笑顔を見せて、そしておどろくほど強く抱きしめてきた。
「私も、撃ち抜いたぞ。」
キーパーは一瞬動揺して、かすかに笑った。
「……あぁ。最高の一撃だった。」
その夜、ナイトタウンは、久しぶりに“静か”だった。
誰もが疲れ切り、
それでも、確かに生き延びたという実感だけが残る。
◆
対照的に、翌日は騒々しい1日になった。
この防衛戦で、ガンナーの名が瞬く間に広まった。
マモノを撃ち抜いたあの閃光の威力は、尾ヒレがつく間もなく街中に噂された。
「半端じゃねえよな。」
「ビルよりデカいマモノを、一撃だぞ。」
「しかもめっちゃ可愛いらしい。」
「なんだと!?」
だがあの巨大な死と、最も近くで戦っていた者たちは分かっていた。
「あの戦いには、もう一人の英雄がいたんだ。」
多くはない生存者たちの間に“耐える者”の名は、確実に刻まれた。
◆
ナイトタウンの遥か上空。
空を飛ぶマモノ。そしてその背中に、二人の人影。
「オイオイオイ⋯!おかしいだろって!なんでガンナーがトドメを刺したことになってんだって!一番の功労者はオレだろって!」
「ハイハイ。分かってるって。アンタが"マモノの体内に爆弾を埋め込んでなければ"、マモノは倒せなかった。」
「そうだろって!けっこー苦労したんだって!」
「でも爆弾を埋め込めたのだって、私があのマモノの体にいくつも穴を空けてたからでしょ。」
「それはそうだって⋯。でも⋯やっぱり俺の噂をされたいって!」
「イイじゃない。別に。"エンペラー"様と⋯"スコア"が認めてくれてるんだから。」
「そうだけどって⋯。」
「同じようにミッションに参加したのに、アタシとアンタの追加スコアの値は違った。
要は"貢献度"って奴が評価されてるんでしょうね。」
「そういうことだって。そしてそして、やっぱりエンペラー様の言ってた通りだって。」
「そうね。評価⋯。つまりアタシ達にスコアを与えている奴に⋯」
「"意思"があるって!」
「とりあえず、これで摩天には入れるってことでしょ。さっさと行くよ。"ボマー"。」
女の掛け声に合わせて、マモノは翼を広げ加速する。
「ちょ、ちょっとって!このマモノは乗り心地悪いって!」
「しょうがないじゃない。アタシが"操作"できるマモノで一番早いのはコイツなんだから。」
「そ、そうは言っても、もう少しスピード緩めろってぇええ"ハンドラー"ァァォァ⋯
声はナイトタウンで最も高いビルへ飛び去る。
常闇で羽ばたく影に気づくものは、誰もいなかった。
(第5話・了)




